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法学検定

2016年度 法学検定試験結果講評

2016年11月27日実施の法学検定試験ベーシック〈基礎〉コース・スタンダード〈中級〉コースの
各科目から数問ずつ,講評を掲載いたします。復習に是非お役立てください。

スタンダード〈中級〉コースの講評はこちらです

ベーシック〈基礎〉コース
【法学入門】
 問題集以外からの出題の中の、とくに問題8と問題10において誤答が目立ちました。

問題8
 以下の記述のうち,憲法で数値が定まっているものを1つ選びなさい。

1.最高裁判所の裁判官の人数
2.最高裁判所の裁判官の退官の年齢
3.下級裁判所の裁判官の任期
4.下級裁判所の裁判官の退官の年齢

正解:3


〔コメント〕
 問題8は、日本国憲法で数値が定まっているものを問う問題ですが、最高裁判所の裁判官の人数であるとする誤答が相当多数ありました。日本国憲法では、最高裁判所は長官のほか「法律の定める員数のその他の裁判官」で構成される(憲79条1項)とされており、その人数は憲法においては確定されていません。それに対し、下級裁判所の裁判官の任期が10年である旨憲法80条1項で定められていることを、今一度確認しておいてください。


問題10
 法律用語としても用いられる以下の言葉は,いずれも外国語のままで日本語でも使われるようになったものである。以下の各用語の説明のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.ゲリマンダリング──特定の政党または候補者にとくに有利になるように,作為的に不自然な形で選挙区を定めること。
2.エム・アンド・エー(M&A)──一定の利益が得られるとして,ある商品の再販売を行う者を勧誘し,その者と行う当該商品の取引のこと。
3.クーリング・オフ──薬物取引等の犯罪行為によって不正に得た資金を,金融機関等を利用して浄化し,その起源を隠蔽し,合法的な資金に偽装すること。
4.コーポレート・ガバナンス──企業の社会的責任のことであり,メセナ(文化支援)やフィランソロピー(社会貢献)等の形で企業により実践されるもの。

正解:1


〔コメント〕
 問題10は、カタカナ表記の法律用語の理解に関する問題です。「企業統治」と訳される「コーポレート・ガバナンス」の意味を「企業の社会的責任(CSR)」と取り違えている方が、この問題を選択された方の半数ほどありました。詳しくは会社法の中で制度化されていますが、コーポレート・ガバナンスとは、企業経営の効率性や健全性を確保するための経営者に対する監視・監督の仕組みのことです。企業の文化支援(メセナ)や社会貢献(フィランソロピー)により果たされることが期待される企業の社会的責任とは指す意味内容が異なりますので、注意しましょう。

 

【憲法】
問題2
 以下のうち,外国人に対して,そもそも保障されない憲法上の権利を1つ選びなさい。

1.日本国内に入国すること。
2.みだりに指紋の押なつを強制されないこと。
3.日本人と平等に取り扱われること。
4.内閣に対して請願を行うこと。

正解 :1


〔コメント〕
 外国人には保障されていない権利として,判例・通説が入国の自由を挙げていることは,憲法の教科書を普通に読んで勉強している人には,常識に属すると思いますが,「日本国内に入国すること」は,憲法上,外国人には認められないと正面きって言われると,外国人が日本国内に大勢いる現実に照らし,間違っていると思われるかもしれません。しかし判例・通説を前提とする限り,外国人の日本入国を権利の行使とみなすことはできません。それは法務大臣の裁量的判断によって許容された行為に過ぎません。
 他方,外国人にだけ指紋の押なつが強制されることや,外国人が日本人と平等に取り扱われないことは,確かにありうることですが,最初から保障の範囲外とされているわけではありません。このことは「参政権」的な機能をもつとされる請願権にもあてはまります。請願の対象が内閣であろうと,天皇であろうと,請願権が全否定されることはありません。


問題12
 国会の権能に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.国会は,各議院の総議員の3分の2以上の賛成で,憲法の改正を発議することができる。
2.条約を締結するのは内閣であるが,事前に,時宜によっては事後に,国会の承認が必要である。
3.内閣総理大臣は,国会議員の中から国会の議決で指名する。
4.国会は,国の収入支出の決算を毎年検査するため,両議院の議員で組織する会計検査院を設ける。

正解 :4


〔コメント〕
 やや正答率が低い問題でしたが,肢1〜3は,憲法改正について96条1項,条約について73条3号,内閣総理大臣について67条1項が規定するところそのままであり,きわめて初歩的な,日本国憲法の統治構造の基本中の基本というべき論点についての条文の知識を問うだけのものだといえます。本問の正答率が低くなったのは,これが問題集に掲載されていない問題であるということと,誤りの記述となっている肢4が,会計検査院(90条1項参照)という,(国会や内閣に比べれば)やや馴染みの薄い組織に関する条文知識を問うており,「両議院の議員で組織する」という言い回しが,これまたやや馴染みの薄い弾劾裁判所に関する規定(64条1項)から借用してきたものであったことによるのでしょうか。とはいえ,会計検査院も弾劾裁判所も,その存在の根拠が直接憲法にあるという意味でも,重要な機関です。また,かりに肢4についての知識に自信がなくても,肢1〜3については絶対に正しいから肢4が誤りだと推測できるくらいには,学習しておいてほしいですね。

 

【民法】
 2016年度法学検定ベーシック<基礎>コース民法の結果を見ていると、民法を学び始めたばかりの人が陥りやすい2つの「罠」がはっきりと現れてきています。@直感に反するルールに注意する必要がある(問題12・問題20について)ということと、A複数の制度を比較しながら学習する必要がある(問題13・問題16について)ということです。

問題12
 債権譲渡に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.債権譲渡をするには,債務者の承諾を要しない。
2.金銭の支払を目的としない債権は,譲渡することができない。
3.現に発生していない債権を譲渡する旨の契約は,無効である。
4.債権譲渡は,書面でしなければその効力を生じない。

正解:1


問題20
 普通養子縁組に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.普通養子縁組をするためには,養子が養親より年長であってもよい。
2.普通養子縁組をするためには,縁組の届出が必要である。
3.普通養子縁組をすることにより,養子は養親の嫡出子の身分を取得する。
4.普通養子縁組がされても,養子と実親との親子関係は切断されない。

正解:1


〔コメント〕
 今回最も正答率の低かった問題12は、債権譲渡に関する問題で、正しいことを述べているものとして選び取られるべき肢1「債権譲渡をするには、債務者の承諾を要しない」であるところ、肢3「現に発生していない債権の譲渡は無効」を選んだ受験生の方が多くいました。また2番目に正答率が低かったのは、普通養子縁組について誤っている肢を選ぶ問題20であり、正答(つまり誤った内容)の肢1「養子が養親より年長であってもよい」より、誤答(つまり正しい内容)の肢4「養子と実親との親子関係は切断されない」を選んだ受験生の方が多くいました。
 いずれの問題も、多くの受験生が、「債権が現に発生していないのなら、譲渡もできないだろう」とか、「養子にいったのだから、養親とだけ親子関係が存在するのだろう」といった直感を抱いたのではないでしょうか。しかし、法律のルールにはこうした直感的なイメージとは異なるものが少なからず存在しています(もちろん、それは不合理なルールとして存在しているわけではなく、合理的な理由があってそのようなルールになっているのです)。
 教科書を読む際には、単にそこに書かれていることを平板に暗記しようとするのではなく、自分が直感的に抱くイメージとのズレに注意をして、自分の抱くイメージを修正しながら学習することが大切です。


問題13
 以下のうち,債権の消滅原因ではないものを1つ選びなさい。

1.弁済の提供
2.代物弁済
3.弁済供託
4.免除

正解:1


問題16
 以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.労働者は,原則として,自ら労働に従事しなければならず,自己に代わって第三者に従事させることができない。
2.請負人は,原則として,請け負った仕事を自ら完成させなければならず,自己に代わって第三者に完成させることができない。
3.受任者は,原則として,委任された法律行為を自ら行わなければならず,自己に代わって第三者に行わせることができない。
4.受寄者は,原則として,寄託物を自ら保管しなければならず,自己に代わって第三者に保管させることができない。

正解:2


〔コメント〕
 正答率が3番目に低かったのが問題13、4番目が問題16でした。問題13は、債権の消滅原因ではないものを選びとらせる問題であり、正答は肢1の弁済の提供でした。問題16は、役務提供型と呼ばれる契約(雇用、請負、委任、寄託)について、第三者に契約の履行を任せることができるもの(債務者が自己執行義務を負わないもの)を選び取らせる問題であり、正答は肢2の請負でした。
 これらはいずれも複数の制度にまたがった知識を問うものです。ある法制度が持つ「特徴」というのは、「他の制度とは異なっている」点にこそ現れるのですから、普段の学習のときから、他の制度と対比しながら知識を積み重ねていくことが必要です。似たような制度の、似ている点とともに相違点に気を配りながら、知識を整理するようにしましょう。

 

【刑法】
問題12
 財産犯の客体に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.「財物」は有体物に限られるとする見解によれば,企業の営業秘密などの情報は「財物」ではないので,営業秘密を自分のノートにメモして盗み出しても,窃盗罪は成立しない。
2.不動産は,横領罪の客体である「物」に含まれるが,窃盗罪の客体である「財物」には含まれない。
3.動物も「物」に含まれるから,他人の飼犬を殺傷した場合には,器物損壊罪が成立する。
4.タクシーの乗車料金の支払を免れるためにタクシー運転手の首を絞めて一瞬気を失わせ,その隙に逃走したとしても,「財物」を奪っていないので,強盗罪は成立しない。

正解:4


〔コメント〕
 本問は、財産犯の客体についての理解を問うもので、その形式は、4つの選択肢の中から誤っているものを1つ選ぶというものでした。正解(誤っているもの)は、肢4です。ところが、結果をみると、肢1(正しいもの)を選んだ受験者が一番多くなりました。そうなったのは、営業秘密という大切な情報を盗み出したのに窃盗罪(刑235条)が成立しないのはおかしい、と判断した受験生が多かったからかもしれません。
 窃盗罪の客体は、「財物」に限られます。そして、肢1にあるように、「財物」は有体物(固体・液体・気体)に限られるとする見解(判例・通説と考えられています)によれば、情報それ自体は「財物」に含まれません。情報は有体物ではないからです。そうすると、情報である営業秘密それ自体を盗んだだけでは、「財物」を盗んだことにならないので、窃盗罪は成立しないということになります。
 気になるのは「ノートにメモして盗み出した」という点です。ノートは有体物であり、営業秘密がメモされたノートは「財物」にあたると考えられるので、窃盗罪が成立するのではないか。このように判断した受験者も多かったかもしれません。しかし、窃盗罪の客体である「財物」は、条文をみれば明らかなように、「他人の財物」でなければなりません。「他人の」とは、他人に所有権があるという意味です。よって、窃盗罪が成立するためには、ノートは他人の所有物でなければなりません。ところが、肢1のノートは「自分の」ノートです。したがって、「他人の財物」を盗んだことにならないので、窃盗罪は成立しないのです。
 この結論に納得しない受験者も少なくないでしょう。しかし、刑法には罪刑法定主義という原則があります。条文にあてはまらない行為を処罰することはできないのです。もっとも、それは、窃盗罪では処罰できないということであって、ほかの犯罪にあたるのであれば、処罰することは可能です。じつは、営業秘密の不正な取得などについては、不正競争防止法という法律に罰則があります(同法21条1項)。肢1の行為も、不正の利益を得る目的でなされたのであれば、同法で処罰される可能性があります。

 

スタンダード〈中級〉コース
【法学一般】
 7問以上正解の方が半数を超え、「法学一般」の平均点は比較的高い結果となりましたが、その中で問題4と問題9の正答率がやや低めでした。

問題4
 つぎの条文は,信託法49条の一部である。以下の記述のうち,下線部(a)・(b)が指すものとして,正しいものの組み合わせを1つ選びなさい。なお,条文は一部省略してある。

第49条 受託者は,……信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けることができる場合には,その額の限度で,信託財産に属する金銭を固有財産に帰属させることができる。
2 (a)前項に規定する場合において,必要があるときは,受託者は,信託財産に属する財産(……)を処分することができる。……。
3 (略)
4 第1項の規定により受託者が有する権利は,信託財産に属する財産に対し強制執行又は担保権の実行の手続が開始したときは,これらの手続との関係においては,金銭債権とみなす。
5 (b)前項の場合には,同項に規定する権利の存在を証する文書により当該権利を有することを証明した受託者も,同項の強制執行又は担保権の実行の手続において,配当要求をすることができる。
6・7 (略)

ア.(a)=「信託財産から費用等の償還又は費用の前払を受けることができる場合」
イ.(a)=「受託者が費用等の償還又は費用の前払の額の限度で,信託財産に属する金銭を固有財産に帰属させる場合」
ウ.(b)=「信託財産に属する財産に対し強制執行又は担保権の実行の手続が開始した場合」
エ.(b)=「信託財産に属する財産に対する強制執行又は担保権の実行の手続との関係で,第1項の規定により受託者が有する権利が金銭債権とみなされる場合」

1.アウ  2.アエ  3.イウ  4.イエ

正解:2


〔コメント〕
 問題4は、法律の条文中で用いられる「前項に規定する場合」と「前項の場合」という表現の意味の違いに関する問題です。「前項の規定する場合において」というのは、前項の規定中の仮定的条件を定めた部分を受け、他方、「前項の場合」というのは、前項の内容全体を受ける表現です。紛らわしいですが、この使い分けがわかっていないと、条文の意味を誤って理解することになりますので、注意が必要です。


問題9
 つぎの条文は,刑事訴訟法からの抜粋である。以下の記述のうち,カッコ内に入る語句の組み合わせとして,正しいものを1つ選びなさい。

A.「控訴の申立が明らかに控訴権の消滅後にされたものであるときは,第1審裁判所は,決定でこれを( a )しなければならない。」
B.「控訴の申立が法令上の方式に違反し,又は控訴権の消滅後にされたものであるときは,判決で控訴を( b )しなければならない。」
C.「……原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは,判決で原判決を( c )することができる。」

1.a=却下  b=棄却  c=却下
2.a=破棄  b=却下  c=棄却
3.a=却下  b=破棄  c=破棄
4.a=棄却  b=棄却  c=破棄

正解:4


〔コメント〕
 問題9は、刑事訴訟において、裁判所が上訴を認めるとき、または退けるときの用語に関する問題です。刑事訴訟では、控訴の申立てを退けるときはすべて「棄却する」といい、「却下する」とはいいません。また、控訴の申立てに理由があると認めて、原判決を取り消すときは、すべて「原判決を破棄する」といいます。民事訴訟における「却下」「棄却」「破棄」の語の用法について問う『法学検定試験問題集スタンダード<中級コース>』(商事法務、2016年)法学一般の問題51の問題・解説とも比較しながら、復習しておいてください。

 

【憲法】
問題7
職業の自由に関する記述のうち,判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.薬局開設を許可制とすること自体は,不良医薬品の供給から国民の健康と安全とをまもるという消極目的のための規制であり,その必要性・合理性を欠き憲法に違反する。】
2.小売市場の許可制は,国が社会経済の調和的発展を企図するという観点から中小企業保護政策の一方策としてとった積極目的からの措置ということができ,その規制の手段・態様においても,それが著しく不合理であることが明白であるとは認められず,憲法に違反しない。
3.公衆浴場開設についての適正配置規制は,公衆浴場業者が経営の困難から廃業や転業をすることを防止し,健全で安定した経営を行えるように種々の立法上の手段をとり,国民の保健福祉を維持するという積極的,社会経済政策的な規制目的に出たものであって,立法府のとった手段がその裁量権を逸脱し,著しく不合理であることの明白な場合に限り,これを違憲とすべきである。
4.水稲等の耕作の業務を営む者でその耕作面積が一定の規模以上のものは農業共済組合の組合員となり当該組合との間で農作物共済の共済関係が当然に成立するという仕組みは,米の安定供給と米作農家の経営の保護という積極目的から出た規制であって。それは,立法府の政策的,技術的な裁量の範囲を逸脱するもので著しく不合理であることが明白とはいえず,憲法に違反しない。

正解:1


〔コメント〕
本問は,正解率は低くはなかったですが,『2016年法学検定試験問題集スタンダード<中級コース>』(商事法務,2016年)憲法の問題49とは異なり,素直に判例にみる職業の自由についての内容の理解を問うものです。肢3を選択している受験者が多かったですが,公衆浴場法の適正配置については,最高裁判決(最判平元・1・20刑集43・1・1)の判断やその判断理由を理解しておく必要があります。また,正解肢である肢1については,薬局の開設についての許可制自体は,薬事法違憲判決(最大判昭50・4・30民集29・4・572)においても職業の自由に違反するとは言っておらず,適正配置規制(距離制限規定を設けること)自体が違憲であると判断していることを正確に理解しておくことが必要となります。最高裁が違憲と判断したという結果だけをなんとなく覚えておくのではなく,憲法を勉強する場合には,そこで示されている判断の対象や,規範としての判断理由もしっかりと理解しておくことが重要です。


問題13
 違憲審査制の性格に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.法令の合憲性に重大な疑義が提起されても,裁判所は憲法問題を避けることができるような法律の解釈が可能かどうかを最初に確かめるべきである,との立場は,付随的違憲審査制から導くことができる。
2.付随的違憲審査制の下では,自己の利益に直接関係のない第三者の憲法上の権利を主張することは原則として認められないが,権利の性質,当事者と第三者の関係性,第三者自身による権利救済の可能性等にかんがみ,例外的にこのような主張が認められる場合もある。
3.憲法81条は最高裁判所の違憲審査権を定めるものであるが,下級裁判所についても,同条の類推解釈により違憲審査権が認められるとするのが,判例の立場である。
4.最高裁判所に抽象的な違憲審査権が認められないのは,最高裁判所に法律命令等の抽象的な無効宣言を行う権限があるとした場合,最高裁判所がすべての国家機関に上位する機関であるかのようになってしまい,三権分立に反しかねないからである。

正解:3


〔コメント〕
 本問の肢はいずれも違憲審査制の性格に関する標準的な理解を問うものでした。したがって,正解肢である肢3の正誤に不安があっても,消去法的に正答にたどり着くこともできたはずです。誤答した人はしっかり復習しましょう。なお,肢1は「憲法判断回避の準則」,肢2は「第三者の憲法上の権利主張の適格」,肢4は「抽象的違憲審査が認められない理由」についての理解を問うものでした。
 肢3では,「下級裁判所に違憲審査権が認められる理由」が問われていました。本肢における誤りは,「同条〔憲法81条〕の類推解釈により」違憲審査権が認められるという理由づけの部分です。下級裁判所に違憲審査権が認められる理由は,明文上,最高裁判所の違憲審査権しか定めていない憲法81条が下級裁判所に類推適用されるからではありません。違憲審査権は,むしろ憲法76条1項の定める「司法権」に含まれ,司法権を有する裁判所は,憲法81条の規定いかんにかかわらず違憲審査権を行使することができると考えられているからです。判例も,警察予備隊違憲訴訟(最大判昭27・10・8民集6・9・783)において,「最高裁判所は法律命令等に関し違憲審査権を有するが,この権限は司法権の範囲内において行使されるものであり,この点においては最高裁判所と下級裁判所との間に異るところはないのである(憲法76条1項参照)」と述べ,違憲審査権の根拠を憲法76条1項に求めています。学習にあたっては,下級裁判所も違憲審査権を行使しうるという結論だけを覚えるのではなく,その理由づけも理解しておくことが大切です。

 

【民法】
 2016年度法学検定スタンダード<中級>コース民法の結果を踏まえて、法律を学ぶみなさんへのアドバイスを2つ贈ります。@馴染みの薄い制度も特徴だけはしっかりと把握する(問題7について)こと、A「社会の多数事例」と「ルール」の違いに気をつける(問題12について)ことです。
 検定の合格者と不合格者で、はっきりと出来・不出来が分かれた問題を取り上げますので、特に「惜しいところで合格を逃した」という方にとってヒントになるでしょう。

問題7
 先取特権に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.先取特権は,債権者が目的物の占有を取得することによって,その効力を生ずる。
2.先取特権の客体となるのは,債務者の所有物に限られる。
3.動産先取特権は,目的物が第三者に譲渡され,引き渡されたときは,その動産について行うことができなくなる。
4.同一物に複数の不動産先取特権が競合する場合,その順位は登記の先後に従う。

正解:3


〔コメント〕
 問題7で扱われている先取特権は、大学の授業で扱われないことも多く、多くの受験生にとって馴染みの薄い制度でしょう。しかし、スタンダード<中級>コースになると、こうした馴染みの薄い制度についても、目配りをしておくことが必要です。
 もっとも、聞かれている内容は、先取特権の特徴と密接に関連した、非常に基本的な内容です。すなわち、先取特権は、公示のない担保物権というところに大きな特徴があり、そのために非常に弱く、また失われやすい担保物権でもあります。こうした特徴を知っていれば、誤答として最も多く選ばれた肢4(不動産先取特権の順位は登記の先後で決まる)が誤りであり、正答である肢3(動産先取特権は、目的物が第三者に譲渡され、引き渡されると行使できなくなる)が正解であることは、比較的簡単に識別できたはずです。
 馴染みの薄い制度にまで勉強を広げるのは大変と思うかもしれませんが、制度に関係するありとあらゆることを覚えることが求められているわけではなく、まずはそれぞれの制度の特徴的な内容を(他の制度と比較しながら)覚えることが大切です。


問題12
 他人の利益になる行為をその他人の意思に反して行う場合に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.主たる債務者の意思に反してされた保証契約は,無効である。
2.更改前の債務者の意思に反してされた債務者の交替による更改は,無効である。
3.債務者の意思に反してされたとしても併存的債務引受は,有効である。
4.受遺者の意思に反してされたとしても遺贈は,有効である。

正解:1


〔コメント〕
 問題12は、「他人の利益になる行為をその他人の意思に反して行う場合」というテーマのもと、保証、更改、併存的債務引受、遺贈の4つの制度が並べられています。このように制度横断的に知識が問われる問題は、正答率が下がる傾向があります。学習を進める中では、常に類似の制度を頭の中に置き、それとの違いを明らかにして行くことを心がけましょう。
 もっとも本問の場合、正答率を下げた原因は、制度横断的な問題であったためというよりは、保証契約について受験生が抱いているイメージとルールの内容との間にずれがあったためであるように思います。多くの方が、保証契約というと、主たる債務者に依頼されて保証人になるケースを想像するのではないでしょうか(実際に行われる保証契約も、大部分はこのパターンです)。こうしたところが、正答である肢1を選ぶことをためらわせたのかもしれません。
 「保証契約は債務者の意思に反して行われても有効である」ということは、保証契約における基本的な特徴としてどのような教科書でも説明されていることです。教科書を読むときには、平板に読むのではなく、社会の中で多く行われていることとずれている点には気をつけて読むといった意識が必要です。

 

【刑法】
問題1
 以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.日本の刑法は,日本国内において殺人罪を犯した者すべてに適用される。
2.日本の刑法は,日本国外にある日本航空機内において殺人罪を犯した者には適用されない。
3.日本の刑法は,日本国外において殺人罪を犯した日本国民に適用される。
4.日本の刑法は,日本国外において殺人罪を犯した日本国民以外の者すべてに適用されるわけではない。

正解:2


〔コメント〕
 本問は,日本の刑法が,どこで行われた犯罪について適用されるかを尋ねる設問で,刑法の場所的適用範囲といわれる問題です。授業等において詳しく論じられることは多くないかもしれませんが,基本的な問題です。
 刑法の条文をみると,その最初の部分に,このことを定めた規定があるので,条文をまず確認することが重要です。原則は,日本の刑法は,日本国内において行われた犯罪に適用される(刑1条1項)ということです。そして,日本国外において行われた犯罪については,日本船舶または日本航空機内において行われた犯罪に適用されることが定められています(刑1条2項)。
 これ以外に,日本国外において行われた犯罪については,どうなるでしょうか。日本の刑法は,日本国外において殺人罪を犯した日本国民に適用されます(刑3条6号)。また,日本国外において,日本国民に対して殺人罪を犯した日本国民以外の者にも適用されます(刑3条の2第2号)。

 

【民事訴訟法】
 問題集から出題された問題と新問とでは、正答率に大きな差が生じた。新問に対応するためには、知識を暗記するだけでなく、「理解」することが必要である。以下では、新問について若干の解説と講評を行いたい。

問題4
 口頭弁論に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.口頭弁論の期日を公開しないで実施することができる場合がある。
2.第1回口頭弁論期日は準備的口頭弁論期日とよばれる。
3.口頭弁論期日を開く場合には,両当事者を呼び出さなければならない。
4.口頭弁論の指揮は裁判長の役割である。


正解:2


〔コメント〕
 問題4の正答率は、27.8%であった。口頭弁論が憲法82条の「対審」に該当すること、その結果、「対審」の公開停止を定める同条2項が口頭弁論に適用されることに思い至れば、肢1が正しい(不正解)であることは容易に分かるはずであるが、この肢を選ぶ者が多かった(27.4%)ことは残念であった。また、口頭弁論の方式についての諸原則の1つに対審の原則があるところ、口頭手続で対審性を充たすために、当事者の立会権の保障が必要であることは、手続保障の根幹をなす規律である。にもかかわらず、肢3を選んだ者が最も多かった(39.2%)ことは意外であるとともに、非常に残念である。


問題5
 訴訟手続の中断に関する以下の記述のうち,明らかに誤っているものを1つ選びなさい。ただし,中断事由が生じた訴訟当事者側には訴訟代理人がいないものとする。

1.訴訟当事者である遺言執行者が解任された場合,訴訟手続は中断する。
2.離婚の訴えで,訴訟当事者の一方が死亡した場合,訴訟手続は中断する。
3.訴訟当事者である未成年者が成年に達したためその法定代理人(親権者等)の代理権が消滅した場合,訴訟手続は中断する。
4.訴訟当事者である権利能力なき社団の代表者が死亡した場合,訴訟手続は中断する。

正解:2


〔コメント〕
 問題5の正答率は、11.3%と15問中最低であった。中断制度は、その重要性にもかかわらず、多くの学部学生がその勉強がおろそかにしていることが反映していると考えられる。しかし、婚姻が配偶者の一方の死亡により終了する、という民法の基本的な知識があれば、離婚訴訟は当事者の一方の死亡により当然に終了すること、つまり、肢2が正解であることは、比較的容易に理解できるはずである。最も多くの者が選択したのは肢3であるが、これは、中断が生じるのは、当事者の交替(より正確には、当然承継)がある場合に限られる、という誤解に基づいていると推測される。


問題7
 以下の記述のうち,判例がある場合には判例に照らして,正しいものを1つ選びなさい。

1.終局判決の言渡し後は,訴えを取り下げることができない。
2.訴えを取り下げるには,裁判所の許可を得なければならない。
3.原告に訴訟代理人がいないときは,訴えを取り下げることができない。
4.訴訟外で原告と被告の間で訴えを取り下げる旨の合意が成立し,被告がこの合意の成立を主張立証したときは,裁判所は,原告の訴えを却下する判決をしなければならない。

正解:4


〔コメント〕
 問7の正答率は、36.8%であり、新問の中では比較的良好であった。これは、正答である肢4が、訴え取下げの合意が比較的知られた論点に関するものであったためであると思われる。しかし、最も多くの者(52.8%)が選択したのは、肢1であった。終局判決後の取下げが許されないとなると、民訴法262条2項の再訴禁止の規定が意味をなくしてしまうことに注意が必要である。


問題11
 以下の記述のうち,裁判上の自白の効力に関する説明として,正しいものを1つ選びなさい。

1.当事者は,裁判上の自白をすると,相手方の同意があっても,自白を撤回することができない。
2.当事者は,自白された事実について証明することを要しない。
3.裁判所は,自白された事実が真実に反すると認める場合は,自由な心証に基づいて真実に基づく事実認定をしなければならない。
4.裁判所は,自白された事実が真実に反し,かつ錯誤に基づくものであると認める場合は,当事者に対して自白の撤回を命じなければならない。

正解:2


〔コメント〕
 問題11の正答率は、38.2%と、新問の中では最も良好であった。これは、裁判上の自白という誰もが認める重要論点に関する問題であったためであると考えられる。しかし、自白の裁判所に対する拘束力(審判排除効)を否定する肢3を選択した者が、正解者とほぼ同数(35.8%)であったことは、残念である。


問題13
 文書の所持者が文書提出命令に違反した場合に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。なお,申立人とは,文書提出命令を申し立てた当事者のことである。

1.文書を所持する当事者が文書提出命令に違反して提出義務のある文書を故意に滅失させたとき,裁判所は,その文書の記載に関する申立人の主張を失当とみなす。
2.文書を所持する当事者が文書提出命令に違反して文書を提出しないとき,裁判所は,文書の記載内容に関する申立人の主張を真実と認めないことがある。
3.文書を所持する当事者が文書提出命令に違反したことにより,申立人が文書の記載内容を主張することができないとき,裁判所は職権でこれを調査する。
4.文書を所持する第三者が文書提出命令に違反して文書を提出しないとき,裁判所は,その文書の記載に関する申立人の主張を真実と認めることができる。

正解:2


〔コメント〕
 問題13の正答率も、34.4%と、新問としては良好であった。文書提出命令という近時のトピックに関する問題であったためであろう。正答の肢2と同数の受験者が、肢3を選択した(34.4%)が、文書の提出がない場合に、裁判所が当該文書の内容を調査する手段がないのが通例であること(つまり、肢3が誤っていること)は容易に理解できるはずである。


問題15
 既判力に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.既判力は,判決の主文に包含するものに限り生じ,理由中の判断に生じることはない。
2.既判力は,訴訟の当事者であった者に対してのみ及ぶ。
3.裁判所は,当事者の主張をまたずに職権で既判力の存否を調査しなければならない。
4.判決に仮執行宣言が付された場合には,その判決が確定していなくても既判力は生じる。

正解:3


〔コメント〕
 問題15の正答率は、15.1%と、2番目に悪かった。既判力という民事訴訟法の最重要論点に関する問題であるのに、この結果は意外である。最も多くの者(44.3%)が選んだのは肢4であるが、このことは既判力と執行力を混同している者が多いことを意味している。

 以上のように、基本的な知識と理解があれば、新問も必ずしも難問ではない。試験範囲全般について、基礎的な学習を進めることを祈る次第である。

 

【刑事訴訟法】
問題1
 被疑者の勾留に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.勾留を請求された被疑者につき,勾留状が発付されるまでの間に逮捕の時からの法定の制限時間を超えた場合,直ちに被疑者を釈放しなければならない。
2.被疑者の勾留の請求が法定の制限時間内に行われなかった場合であっても,その遅延がやむをえない事由に基づく正当なものであると認めるときは,裁判官は勾留状を発付することができる。
3.勾留の請求を受けた裁判官は,被疑者に対し被疑事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ,勾留状を発付することができない。
4.勾留の理由の開示は,公開の法廷でこれをしなければならない。

正解:1


〔コメント〕
 正解率が低い結果になりました。誤っている記述は選択肢1でこれが正解ですが、選択肢3の誤答を選んだ解答者が目立ちました。選択肢1が誤った記述であるのは、勾留請求があった場合、勾留状の発付までに法定の留置時間が経過したとしても(例えば、警察による逮捕時が8月1日午後8時であり、同月3日午後8時までに送検がなされ、検察官が逮捕時から72時間以内である同月4日午後7時に勾留請求した場合において、令状審査のために同日午後8時を経過したとしても)、被疑者の釈放は必要ないという点にあります。このことは、刑事訴訟法204条4項または205条4項の規定から明らかです。法定の留置時間の制限内に勾留請求があれば、被疑者を釈放することは要求されないのです。時には勾留状の発付が翌日午前になることもありえますが、勾留請求という検察官の手続により、刑事訴訟法は被疑者の留置の継続を肯定しています。
 なお、留置の制限時間は時で計算し、勾留期間は日で計算します。勾留日数の計算においては、刑法24条または刑事訴訟法55条1項但書の解釈により、請求日を丸々1日分として算入します。そして、刑事訴訟法208条1項により、「勾留の請求をした日」を起算日としますから、前記の例で勾留状の発付が仮に翌5日になったとしても、勾留請求日である同月4日が勾留の第1日目となり、その結果、勾留期間満了日である10日目は同月13日となるため、被疑者に実質的な不利益は生じません。
 選択肢2および選択肢4が正しい記述であること(すなわち、不正解肢であること)について、おおむね理解されていました。選択肢2は刑事訴訟法206条が定めているところであり、選択肢4は刑事訴訟法207条1項・83条1項が定めているとおりです。
 選択肢3も正しい記述(すなわち、不正解肢)です。刑事訴訟法207条1項・61条の定める手続が必要であり、これを勾留質問といいます。勾留質問は、被告人の勾留、被疑者の勾留のいずれについても要求される手続です。中立公平な第三者による司法審査が必要なためです。これを誤っている記述だとして選択した受験者は、被疑者の勾留について勾留質問は不要だと思ったのかもしれません。しかし、勾留の主体は裁判官、公判裁判所のいずれかであり、どちらにせよ勾留質問の手続が必要です。刑事訴訟法207条1項において、勾留請求を受けた「裁判官」は、その処分に関して公判「裁判所」と同一の権限があると規定されているのは、この趣旨です。


問題7
 以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.検察官は,冒頭手続の終了後,証拠調べのはじめにおいて,証拠により証明しようとする事実を明らかにしなければならない。
2.冒頭陳述において,証拠能力のない資料または取調べを請求する意思のない資料に基づいて,裁判所に事件について偏見または予断を生じさせるおそれのある事項を述べてはならない。
3.裁判所は,冒頭陳述の後に,争点を明らかにすべく罪状認否の手続を行わなければならない。
4.公判前整理手続に付された事件の公判においては,検察官の冒頭陳述に引き続き,被告人または弁護人は,証拠により証明しようとする事実を明らかにしなければならない。

正解:3


〔コメント〕
 基本的には問題集からの出題です。誤っている記述(すなわち、正解肢)は、選択肢3であり、「冒頭陳述」の後に「罪状認否」の手続があるのではなく、@「冒頭手続」の中で、被告人の人定質問、検察官による起訴状朗読、裁判所からの黙秘権等の告知、被告人の「罪状認否」が行われます。その次に、A証拠調べとして、検察官の「冒頭陳述」、証拠調べ請求、裁判所による証拠決定、証拠調べの実施、被告人の反証がなされます。用語が類似しているので混乱したのかもしれません。全体の正解率はまずまずでしたが、高得点者の層に誤答が目立ちました。各種の議論や判例を学ぶ前提として、公判期日の手続の順序や名称は、基本中の基本ですから、しっかりと押さえておいてください。

 

【商法】
問題6
 募集株式の発行等に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.公開会社において,発行後に引受人が議決権の過半数を保有することとなる第三者割当てを行うときは,株主の10分の1以上の反対通知があれば,その引受人に対する募集株式の割当てについて株主総会決議による承認を受けなければならない。
2.公開会社でない株式会社では,割当先の決定は株主総会決議によらなければならない。
3.公開会社が株主割当てにより新株発行を行う場合,払込金額が引受人に著しく有利であれば,株主総会決議によって募集事項を決定しなければならない。
4.公開会社であるか否かを問わず,株式会社が有利発行に該当しない募集株式の発行等を行う場合,募集事項の決定は株主総会決議による必要はない。

正解:1


〔コメント〕
 問題6は、株式会社が募集株式の発行等を行う場合、公開会社かどうか、有利発行かどうか、第三者割当てか株主割当てか、などに応じて、どのような機関による決定が必要になるかを問う問題である。
 正解となる正しい肢は、肢1「公開会社において、発行後に引受人が議決権の過半数を保有することとなる第三者割当てを行うときは、株主の10分の1以上の反対通知があれば、その引受人に対する募集株式の割当てについて株主総会決議による承認を受けなければならない。」である。公開会社では、募集株式の発行がいわゆる有利発行でない場合には、取締役会の決議によって募集事項を決定できる(会社201条1項)。しかし、募集株式の発行後に、引受人が総株主の議決権の過半数を取得するようになる場合、すなわち支配株主の異動が生じる場合は、公開会社の経営に重大な影響が生じるので、株主への情報開示を充実させ株主意思の確認を行う必要があると考えられる。そこで、平成26年会社法改正によって新設された会社法206条の2は、募集株式の発行により引受人が新たに支配株主となる場合に、株主に当該引受人(特定引受人)に関する一定の事項を開示することとし、総株主の議決権の10分の1以上の議決権を有する株主から反対の通知があるときは、特定引受人に対する募集株式の割当て等について、株主総会決議による承認を要することとした。 平成26年改正に関する問題であることが正答率の低さに影響したものと考えられる。
 肢3「公開会社が株主割当てにより新株発行を行う場合、払込金額が引受人に著しく有利であれば、株主総会決議によって募集事項を決定しなければならない。」を正解(正しい肢)と誤答した受験者が最も多かった。第三者割当てと異なり、株主割当ての方法によるときは、いわゆる有利発行に該当する場合でも既存株主の利益が害される程度が小さいから、有利発行の手続に関する規定の適用はなく(会社法202条5項による199条2項3項の適用排除)、公開会社では取締役会決議によって募集事項を決定する(会社202条3項3号)。


問題11
 指名委員会等設置会社の委員会に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.委員会は3人以上の取締役で組織され,いずれの委員会も構成員の過半数は社外取締役でなければならない。
2.株主総会に提出する取締役の報酬に関する議案の内容は報酬委員会が決定する。
3.株主総会に提出する取締役の選任に関する議案の内容は指名委員会が決定する。
4.監査委員は指名委員会等設置会社の子会社の業務執行取締役であってはならない。

正解:2


〔コメント〕
 問題11は、指名委員会等設置会社の各委員会の構成および権限について問うものであり、『2016年法学検定試験問題集スタンダード〈中級〉コース』(商事法務、2016年)商法問題73の選択肢を1つ入れ替えた問題である。
 正解となる肢(誤っているもの)は、肢2「株主総会に提出する取締役の報酬に関する議案の内容は報酬委員会が決定する。」である。報酬委員会は、取締役と執行役の個人別の報酬を決定する権限を有しており、取締役の報酬を定款または株主総会決議によって決定するのではない(会社404条3項)。報酬委員会の構成員は取締役であるが、執行役を兼任しない取締役の報酬は高額にならないためお手盛りの危険は小さく、業務執行上のパフォーマンスに応じた執行役報酬の設計と報酬面での執行役からの取締役の独立性確保に重点を置いた制度になっている。肢3の指名委員会の権限と混乱した受験者が多かった可能性があるが、各委員会の権限の違いを理解しておく必要がある。
 肢1「委員会は3人以上の取締役で組織され、いずれの委員会も構成員の過半数は社外取締役でなければならない。」は、上記問題集商法問題73の選択肢を差し替えたものであるが、これを正解となる肢(誤っているもの)と誤答した受験者が最も多かったのは予想外であった。指名委員会等設置会社の各委員会の権限が比較的大きいのは、構成員の過半数が社外取締役であって執行役からの独立性が確保されるためである(会社400条3項)。
 平成26年の会社法改正により、公開会社でかつ大会社である株式会社の機関設計は、監査役会設置会社、監査等委員会設置会社および指名委員会等設置会社からの選択となる。それぞれの機関設計の特徴および違いを理解しておくことが今後ますます重要になる。

 

【行政法】
問題7
 2014(平成26)年の行政手続法改正により導入された行政指導の中止等の求めおよび処分等の求めに関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.法令に違反する行為の是正を求める行政指導であってその根拠となる規定が法律に置かれているものは,行政指導の中止等の求めの対象となる。
2.行政指導の中止等の求めが適法にされた場合,当該行政指導を行った行政機関は,必要な調査を行い,当該行政指導が当該法律に規定する要件に適合しないと認めるときは,当該行政指導の中止その他必要な措置をとらなければならない。
3.処分等の求めは,当該処分等に利害関係を有する者でなくてもすることができる。
4.処分等の求めを受けた行政庁または行政機関が求められた処分または行政指導をする必要がないと判断してその旨を申出人に通知した場合には,これに不服を有する者は行政不服審査法に基づく審査請求を行うことができる旨の規定が設けられた。

正解:4


〔コメント〕
 本問は,2014(平成16)年の行政手続法改正により導入された2つの仕組み(行政指導の中止等の求め〔行手36条の2〕,処分等の求め〔行手37条の3〕)についての基本的な知識を問うものです。正しい選択肢である肢3を「誤っているもの」として選択した解答(誤答)が半数以上ありました。これは,行政事件訴訟法に基づく処分の取消訴訟を提起することができる者が「法律上の利益を有する者」(行訴9条1項)に限られていることから類推して考えた結果であると推測されます。しかし,実際には処分等の求めは「何人も」できることとされています(行手36条の3第1項)。また,肢4は,ある行為が処分であることを明確化するために審査請求を行うことができる旨の規定を設けるという立法上のテクニックを知っていると,正しい選択肢と思ってしまうかもしれません。しかし,実際にはこのような規定は設けられていないため,誤り(正答)です。既存の知識を総動員して正答にたどり着こうとする姿勢は大事ですが,まずは法律の条文として規定されている内容を理解した上できちんと押さえておくことが重要です。特に,行政手続法は行政法総論で最も重要な通則法であり,本問で問うたのは近時の重要な改正についての基本的な知識です。せっかくですから,この機会に36条の2と36条の3の規定内容を確認し,どのような場面で利用できるか,具体例を想定しながら考えてみることをお勧めします。


問題15
 当事者訴訟に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.形式的当事者訴訟は法律に明文の規定がある場合にのみ認められるが,実質的当事者訴訟は法律に明文の規定がなくても認められる。
2.実質的当事者訴訟においては,行政事件訴訟法に規定する仮の救済手段を用いることができないので,行政処分の無効を前提とする当事者訴訟についても,民事保全法に規定する仮処分を求めることができる。
3.収用委員会の収用裁決のうち損失補償の額に不服がある場合に提起する訴えは,形式的当事者訴訟にあたり,私人が被告となることもある。
4.収用委員会の収用裁決のうち損失補償の額に不服がある場合に提起する訴えは,出訴期間が制限されている。

正解:2


〔コメント〕
 当事者訴訟に関する本問も正解率が低い結果となりました。確かに多くの判例・学説が積み重ねられてきた取消訴訟などの抗告訴訟と比べ,当事者訴訟については判例・学説がまだまだ十分とはいえず,学習の素材が豊富でないことは否定できません。しかし,本問は,基本的には問題集に掲載されている2問を合わせた問題に過ぎず,問題集の内容をきちんと理解して頭に入れていれば正解できる問題です。問題集の学習に際し,書かれていることを丸暗記するのではなく,行政法の教科書等で内容を確認するなどして理解を深めていくよう心がけてください。

 

【基本法総合】
問題2(憲法)
 制度的保障に関する以下の記述のうち,判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.相続制度を定めるにあたっては,憲法24条2項に規定された「個人の尊厳と両性の本質的平等」に立脚させるだけでは足りず,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情と同様に,諸外国の状況やわが国が批准した国際条約の内容も考慮されなければならない。
2.政教分離規定は,いわゆる制度的保障の規定であって,信教の自由そのものを直接保障するものではなく,国家と宗教との分離を制度として保障することにより,間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。
3.大学の自治は,伝統的に大学における学問の自由を保障するために認められている。しかし,それが制度として保障されたものであるということは明言されていない。
4.裁判の公開の趣旨は,裁判を一般に公開して裁判が公正に行われることを制度として保障するところにあるので,公開の結果,裁判が傍聴できるようになるとしても,それは各人が裁判所に対して傍聴することを権利として要求できることまで認めるものではない。

正解:1


〔コメント〕
 本問は,憲法において認められた制度的保障に関する判例の理解を問うものですが,非常に正答率が低かったです。
 肢1に関しては,最高裁は「相続制度を定めるに当たっては,それぞれの国の伝統,社会事情,国民感情なども考慮されなければならない」と判示するが,諸外国の状況やわが国が批准した国際条約の内容については,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分の区別に合理的根拠があるか否かを判断する際,背景的な環境の変化を指摘する文脈で言及されているに過ぎないことを確認しておいてください(最大決平25・9・4民集67・6・1320)。
 スタンダード〈中級〉コースの憲法においては,重要判例の理解も求められており,本問ではどれも重要な判例として頻出のものを取り上げました。これらの理解が不十分な受験者は,これを機に判例教材などでよく復習しましょう。


問題13(刑法)
 以下のXの各行為のうち、判例・裁判例に照らして、誤想防衛として故意が阻却されないものを1つ選びなさい。

1.Xは、暗がりの中で玄関の鍵を開けようとしているときに、日頃から不仲であったYが罵声を浴びせながら近づいてきて、Yが着用している上着のポケットに右手を突っ込んだので、Yから隠し持った凶器で襲われると誤信し、Yを殴打し全治1ヵ月の傷害を負わせた。
2.Xは、YがZを殴打しているので、Zを助けるためYの頭部を目掛けて握り拳で強打しようと腕を振り下ろしたところ、Yが身をかわしたため、Zの頭部を強打する結果となり、Zに全治2週間の傷害を負わせた。
3.Xは、YがZを殴打しているので、Zを助けるためYの頭部を目掛けて握り拳で強打したところ、Yが砂場にうつ伏せに倒れぐったりしたが、Xは、警察に引き渡すまでYの動きを封じておこうと、Yの背中を強く押さえていたところ、Yが砂を吸い込んで窒息死してしまった。
4.Xは、YとZがプロレスごっこをして遊んでいるのを見て、YがZに暴行を加えていると錯覚し、Zを助けようとしたところ、Yがプロレス技の仕草をして遊びだと伝えようと近づいてきたのを襲ってきたと勘違いし、所携の金属バットでYの腹部を殴打し、全治1ヵ月の傷害を負わせた。

正解:4


〔コメント〕
 本問の出題の趣旨は、判例・裁判例に従った場合、誤想防衛について故意が阻却されないのはどれかを問うものです。いまだ最高裁判例は出ていませんが、下級審裁判例は、誤想防衛について事実の錯誤として故意阻却を認めています。正解を3と解答した受験者が最も多く、反対に4を選んだ人は少なく、正解率は低くなっています。
 肢3は、過剰防衛と誤想防衛とが交錯する領域の問題です。その事実関係では、Xによる第1暴行と第2暴行との関係が問われています。第1暴行は、YのZへの急迫不正の侵害に対する正当防衛を認めることに異論はないでしょう。第2暴行は、もっぱら「警察に引き渡すまでYの動きを封じておく」ためのもので、Xは、さもないと、Yが再び攻撃してくる可能性を排除できないことを恐れたからです。そのためXは、砂場にうつ伏せになったYの背中を強く押さえた結果、Yは砂を吸引して死亡しました。Xには、Yへの当該行為が砂の吸引による窒息死に至る危険性、過剰性の認識はありません。もしこの認識・認容があれば、第2暴行は殺人罪を構成することになります。これに対し、肢3の事例について、第1暴行終了後、相手の攻撃力が消失しているのに反撃を継続する量的過剰防衛の事例と考えた受験生が少なくなかったのではないでしょうか。そうだとすると、(責任)故意は阻却されません。しかし、Xが第1暴行終了後、Yが攻撃力を消失しているのにもかかわらず、第2暴行に及んでいるのは、急迫不正の侵害の誤認と防衛行為の相当性を誤認したからであって、誤想過剰防衛の一類型となります。ただしXは、客観的にはYの死亡結果を惹起しており、過剰性の予見可能性があれば、過失責任は問えることになります。これを過失の誤想過剰防衛といいます。 大阪地判平成23・7・22判タ1359・251は、実弟から顔面を手拳で殴打されるなどの暴行を受けた被告人が、実弟の背後から腕を首に回して締め付け窒息死させた事案について、防衛行為の相当性に欠けるが、被告人には被害者の首を絞めているという認識はなく、被害者の動きを封じ込めようとする認識があるにとどまっており、防衛行為が過剰であることを基礎づける事実の認識に欠けていたから誤想防衛にあたり、傷害致死罪の故意責任を負わないと判示しました。誤想過剰防衛には、過剰性の認識の欠ける場合には故意が阻却され、過剰性の認識があれば故意が阻却されないと解する二分説が有力です。本問においても、「警察に引き渡すまでYの動きを封じておく」ためにとった方法が攻撃力の消失したYの背中を強く押さえるという過剰性の認識を欠いている場合であり、誤想防衛として故意が阻却されることになります。
 一方、肢4は、誤想過剰防衛の事例であり、Xに手段の過剰性につき認識がある場合にあたり、故意を阻却しません。最決昭和62・3・26刑集41・2・182(英国騎士道事件)は、類似事案について、傷害致死罪の成立を認め、誤想過剰防衛にあたるとして、刑法36条2項を適用して刑を減軽しました。

 


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