日弁連法務研究財団 サイトマップ サイトマップ 個人情報保護法 お問い合わせ
日弁連法務研究財団について 研究 研修 情報提供 法学検定/既修者試験 法科大学院統一適正試験 法科大学院認証評価事業
法学検定

2017年度 法学検定試験結果講評

2017年12月3日に実施いたしました法学検定試験のうち,
ベーシック〈基礎〉コースおよびスタンダード〈中級〉コースの各科目から数問ずつ,
試験結果を踏まえた講評を掲載いたします。復習に,是非お役立てください。

スタンダード〈中級〉コースの講評はこちらです

ベーシック〈基礎〉コース
【法学入門】
 平均点は比較的高い結果となりましたが,問題集以外からの出題では,問題4と問題7の誤答率が高めでした。


問題4
 特権という言葉を含む以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.憲法に「栄誉,勲章その他の栄典の授与は,いかなる特権も伴はない」とあるが,文化勲章を授与された者は,文化功労者として終身年金を支給されている。
2.憲法で国会会期中の国会議員に与えられている不逮捕特権は,黙秘権と同じく,自分で自分の犯罪を認めることを拒否する権利の一種である。
3.憲法に「いかなる宗教団体も,国から特権を受け……てはならない」とあるため,宗教団体の保有する建築物等につき,文化財保存目的で国庫補助を行うことは許されない。
4.先取特権とは,債務者の財産を最初に差し押えた債権者が優先的に債権を回収できる権利である。


正解:1

〔コメント〕
 「特権」という言葉を伴う法律用語について,その意味を問う問題です。肢3を正しいとする誤答が目立ちましたが,宗教団体の所有する建造物や仏像等については,文化財保護法その他の法令に基づき,国や地方公共団体による補助金の支給が実際に行われており,このことについては,文化財の保護という非宗教的な一般目的である限り,憲法20条1項後段が禁じる宗教団体への特権付与にはならないと解されています。したがって,肢3の記述は誤りです。また,肢2でいう国会議員の不逮捕特権(憲50条)は,行政部または司法部による国会議員の活動に対する不当な干渉を排除するためのもので,「自己に不利益な供述を強要さない」権利(憲38条1項)とは趣旨を異にしており,よって肢2は誤りです。さらに,肢4の先取特権(民303条以下)は,法定担保物件の一種で,法律で定められた特定の債権をもつ者が,債務者の財産から優先的に弁済を受けることができる権利です。債務者の財産を最初に差し押さえた債権者に優先弁債権を与える条文はなく,それゆえ,肢4の記述も誤りです。
 正解は肢1です。文化勲章自体には憲法14条3項の制約からいかなる特権も伴いませんが,文化勲章受章者は,文化功労者から,または必要と認められる場合はその年の文化功労者発令予定者から選考されます(「文化勲章受章候補者推薦要項」)。文化勲章は特権を伴いませんが,文化功労者には終身年金が支給されますので,文化勲章受章者は文化功労者として終身年金を支給されるということになります。


問題7
 以下の確定給付企業年金法36条の規定の読み方として,正しいものを1つ選びなさい。
  
確定給付企業年金法
第36条 老齢給付金は,加入者又は加入者であった者が,規約で定める老齢給付金を受けるための要件を満たすこととなったときに,その者に支給するものとする。
2 前項に規定する規約で定める要件は,次に掲げる要件(……)を満たすものでなければならない。
 一 60 歳以上65歳以下の規約で定める年齢に達したときに支給するものであること。
 二 政令で定める年齢以上前号の規約で定める年齢未満の規約で定める年齢に達した日以後に実施事業所に使用されなくなったときに支給するものであること(……)。
3 前項第2号の政令で定める年齢は,50歳未満であってはならない。
4 規約において,20年を超える加入者期間を老齢給付金の給付を受けるための要件として定めてはならない。

1.加入者または加入者であった者が60歳に達したときに老齢給付金を支給すると規約で定めることはできない。
2.老齢給付金の給付を受けるために20年の加入者期間が必要であると規約で定めることはできない。
3.第2項第2号の政令で定める年齢を政令で50歳と定めることはできない。
4.第2項第2号の政令で定める年齢が55歳である場合において,加入者が55歳に達する日より前に実施事業所に使用されなくなったときに老齢給付金を給付すると規約で定めることはできない。


正解:4

〔コメント〕
 「以下・未満」「以上・超える」の意味に関する問題です。肢2を正しいとする誤答が目立ちましたが,確定給付企業年金法36条(以下同じ)4項の規定により,20年を超える加入期間を老齢給付金の給付要件としてはならないとされており,規約により加入期間を20年と定めてもこれに反しませんから,肢2の記述は誤りです。また,肢1については,2項1号の規定により,老齢給付金を受けるための年齢要件を規約で定めるときには,その年齢は60歳以上65歳以下の範囲内でとされていますから,これを60歳と定めることはできます。よって,肢1の記述は誤りです。さらに,肢3については,3項の規定により,2項2号の政令で定める年齢は,50歳未満であってはならないことから,これを50歳と定めることは可能です。したがって,肢3の記述も誤りです。
 正解は肢4です。ゆっくり考えてみましょう。3項の規定の政令で定める年齢が55歳である場合において,2項1号により規約で定める老齢給付金の給付開始年齢を仮にX歳(Xの範囲は60以上65以下)としてみましょう。2項2号の規定により,実施事業所に使用されなくなった加入者が老齢給付金を支給されるには,規約が55歳以上X歳未満の範囲内で定める年齢に達した日以降に使用されなくなったということが要件となります。したがって,規約でこの年齢を55歳未満に定めることはできないのです。

 

【憲法】
問題4
 憲法14条1項の法の下の平等に関する以下の記述のうち,最高裁判所の判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.憲法14条1項にいう法の下の平等は,法の適用における平等だけでなく,法の内容における平等までも意味している。
2.憲法14条1項にいう平等は,人々を等しく取り扱うことを意味するが,各人の違いに着目した異なる取扱いは,合理的な理由による限り,許される。
3.憲法14条1項には,差別の許されない事由が列挙されているが,それは単なる例示にとどまり,特別な意味が込められているわけではない。
4.憲法14条1項をめぐる事件は,人格価値の根本にかかわるので,厳格な審査が必要である。


正解:4

〔コメント〕
 肢4のみ問題集に掲載されていたものから変更しました。判例は,憲法14条1項をめぐる事件において,たとえば国籍法違憲判決(最大判平20・6・4民集62・6・1367)のように慎重な検討を行う一方で,サラリーマン税金訴訟(最大判昭60・3・27民集39・2・247)のように穏やかな審査を行うこともあります。また,違憲審査基準論にいう厳格審査の基準をとる例はありません。肢1〜肢3を選択した受験者が8割を超えましたが,これらの選択肢は,判例に照らせば,正しいことは明らかです。学説と判例の異同をつねに意識しながら学習を進めてください。


問題15
 最高裁判所の判決に関する以下の記述のうち,法令違憲の手法によったものとして,正しいものを1つ選びなさい。

1.女性について6ヵ月の再婚禁止期間を定める民法733条1項の規定のうち100日超過部分は,平成20年当時において,憲法14条1項に違反するとともに,憲法24条2項にも違反するに至っていた。
2.国家公務員法が禁止する政治的行為とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こりうるものとして実質的に認められる政治的行為をいうから,管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地のない一般職国家公務員が,職務とまったく無関係に,公務員により組織される団体の活動としての性格を有さず,公務員による行為と認識しうる態様によることなく行った政党の機関紙および政治的目的を有する文書の配布は,禁止された政治的行為にあたらない。
3.関税定率法にいう「風俗を害すべき書籍,図画」等との規定を合理的に解釈すれば,そこにいう「風俗」とはもっぱら性的風俗を意味し,同法により輸入禁止の対象とされるのはわいせつな書籍,図画等に限られるものということができ,このような限定的な解釈が可能である以上,同法の規定は,何ら明確性に欠けるものではなく,憲法21条1項の規定に反しない合憲的なものである。
4.市が,その所有する土地を神社施設の敷地として無償で使用させていることは,市と当該神社ないし神道とのかかわり合いが,わが国の社会的,文化的諸条件に照らし,信教の自由の保障の確保という制度の根本目的との関係で相当とされる限度を超えるものであり,憲法89条の禁止する公の財産の利用提供にあたり,ひいては憲法20条1項の禁止する宗教団体に対する特権の付与にも該当する。


正解:1

〔コメント〕
 違憲判断の方法に関する問題です。違憲判断の方法については,法令を違憲とする法令違憲(その中にもある条文全体を違憲とするものと,ある条文の意味の一部を違憲とするものと,文言の一部を違憲とするものがあると言われます),法令が当該事案と同種の事実類型(適用事実類型と言われたりします)に適用されるかぎりで違憲とされるもの,法令の瑕疵は直接の問題にせずに個別具体的な国家行為等が違憲とされる処分違憲などがあるとされます。
 肢1は,再婚禁止期間違憲判決(最大判平27・12・16民集69・8・2427)の判示するところです。これは,法令違憲,中でも意味上の一部違憲判決です。したがって,これが正解です。
 肢2は,堀越事件判決(最判平24・12・7刑集66・12・1337)判示するところです。この判示については,合憲限定解釈であるのかないのかについて争いがあります。しかし,合憲限定解釈ではない(千葉裁判官の補足意見はそのように説きます)のであれば,ただの無罪判決ですし,合憲限定解釈であるとすれば,そのような限定をせずに適用すれば適用違憲との評価を受けうる法令であったということになり,いずれにせよ,法令違憲の手法によったものではありません。したがって,これは誤りです。
 肢3は,税関検査訴訟(最大判昭59・12・12民集38・12・1308)で,これは,合憲限定解釈をした上で処分を合憲としたもので,もちろん,法令違憲ではありません。これは誤りです。
 肢4は,砂川市空知太訴訟(最大判平22・1・20民集64・1・1)の判示するところです。ここでは,法令の適用は直接的には問題になっておらず,法令を適用する形でなされたのではない,市の具体的行為が,法令に憲法上の瑕疵があるのか否かとは直接の関係なく,その憲法適合性を問題にされています。これは,処分違憲です(なお,ここでいう処分は,行政事件訴訟法上の処分性とは無関係です)。少なくとも法令違憲ではありません。したがって,これは誤りです。  本問については,以上の通り,肢1が正解ですが,肢4を選んだ者が,肢1を選んだ者よりも多いという逆転現象が生じていました。肢4については,市が,その所有する土地を神社施設の敷地として無償で使用させていることについて,組織法上の問題を別とすれば,およそ法令の適用が問題になっていると観念する余地はなく,したがって,法令違憲を観念する余地はおよそ存在しません。
 なお,本問の正誤には無関係ですが,この分野に関する議論は,近年進展が著しく,そのため教科書の間で用語法が厳密には一致しないところがあります。比較的新しい教科書を用いて(少なくとも併用して)学習されることが望ましいと思われます。

 

【民法】
民法において,正答率の低い問題を見ていると,民法を学び始めた人が気をつけるべき2つのポイントが見えてくるように思います。@教科書などで得たたくさんの情報を,自分の頭の中で一度再整理する必要があること(問題9),A細かな表現の違いにも注意を払うこと(問題15)の2点です。


問題9
 債権に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.Aは,Bとの間で,マンションの一室甲を賃借する契約を締結した。この契約が期間満了により終了した場合における甲の返還を目的とする債権は,特定物債権である。
2.Aは,Bから100万円の融資を受け,返済を怠ったときは年20%の遅延損害金を支払うことを合意した。この遅延損害金の支払を目的とする債権は,利息債権である。
3.Aは,Bとの間で,異なるメーカーの冷蔵庫乙と丙のうちどちらか一方を無償で譲り受ける契約を締結した。この乙と丙のどちらかの引渡しを目的とする債権は,選択債権である。
4.Aは,Bとの間で,特定の倉庫に保管されている1トンのコシヒカリのうちの100キログラムを購入する契約を締結した。このコシヒカリ100キログラムの引渡しを目的とする債権は,制限種類債権である。


正解:2

〔コメント〕
 今回,正答率が最も低かったのが問題9です。債権の種類に関して,債務不履行における遅延損害金は(年利◯%という形で定められるものの)利息債権ではないことを理由として,肢2を選びとるものでした。しかし,制限種類債権に関する肢4を選ぶ受験生の方が多いという結果になりました。
 本問は問題集からの出題ではないものの,債権の種類に関しては問題集(問題48)でも取りあげられています。問題集では,契約の内容と,その契約に関するルールとを結びつけて覚えているかを問う問題であったのに対して,本問は,契約の内容とそのとき発生する債権の種類の名称を結びつけることができるかを問う問題として作成されています。
 問題集で勉強をする際には,単にその問題が解けたかどうかを見るだけではなく,概念や制度の名称,その内容,要件,効果といった様々な情報を,自分の頭の中で再整理し,さまざまな組み合わせで結びつけて覚えることが必要です。また,その際には,類似の制度との違い(たとえば利息債権と遅延損害金は違うということ)にも目を配ると,より完全でしょう。


問題15
 売買契約の成立時に,買主が売主に10万円の解約手付を交付した。この場合に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.当事者双方がどちらも履行に着手していない場合,売主は,手付金と同額を買主に償還して売買を解除することができる。
2.売主が履行に着手した場合,買主は,手付金を放棄しても売買を解除することができない。
3.買主が,手付金を放棄して売買を解除した。この場合,契約の解除により売主に20万円の損害が発生したとしても,売主は,買主に損害賠償を請求することができない。
4.買主が債務を履行しない場合,売主は,これを理由に契約を解除し,損害の賠償を請求することができる。


正解:1

〔コメント〕
 問題集からの出題で正答率が最も低かったのが問題15です。解約手付に関する記述として誤っている肢1を選ぶ必要があります。
 手付について,買主は手付を放棄して,売主は手付金を償還して解除できると何気なく覚えている人もいるかもしれません。しかし手付金を償還するだけでは,売主はプラスマイナスゼロになるだけだということに気がつく必要があります。売主が解約手付に基づく解除をしようと思えば,手付金の「倍額」を償還する必要があり,これに対して,肢1は「同額」の償還と書かれているので誤りということになります。一文字の違いが大きな違いになるので,こうした細かな表現の違いに注意を払うことが必要です。

 

【刑法】 問題7
 以下の文中のカッコ内に入る語の組み合わせとして,正しいものを1つ選びなさい。

 不能犯と未遂犯を区別する基準をめぐる学説は,主観的未遂論にたつものと,客観的未遂論にたつものに大別される。主観的未遂論にたつものとしては,意思の危険性が外部に表れたかどうかを基準とする( a ),仮に行為者の認識が真実であれば結果発生の危険があったかどうかを基準とする( b )がある。これに対して,客観的未遂論にたつものとしては,一般人が認識しえた事情および特に行為者が認識していた事情を基礎として行為の時点にたって一般人の立場から危険性の有無を判断する( c ),事後的に判明した事情も含めて行為時に存在したすべての事情を基礎として科学的見地から危険性の有無を判断する( d )がある。( c )は,( e )と親和性があり,( d )は,( f )と親和性がある。

1.a=主観説     f=結果無価値論
2.a=抽象的危険説  f=行為無価値論(違法二元論)
3.c=具体的危険説  e=結果無価値論
4.c=客観的危険説  e=行為無価値論(違法二元論)


正解:1

〔コメント〕
 不能犯と未遂犯に関する問題です。不能犯に関する学説のうち,一般人が認識しえた事情および特に行為者が認識していた事情を基礎として行為の時点にたって一般人の立場から危険性の有無を判断する見解は「具体的危険説」と呼ばれていますが,これを「客観的危険説」とする誤答が半数近くありました。現在,不能犯は,具体的危険説と客観的危険説(修正された客観的危険説を含む)の対立を中心に議論されており,両説の違いは重要ですので,今一度確認しておいてください。


問題10
 刑法207条に関する以下の記述のうち,判例・裁判例がある場合には判例・裁判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.X,Yが,共謀の上,木刀でAを殴打し,数個の傷害を負わせ,その傷害がX,Yのどちらの行為によるものか不明な場合,刑法207条は適用されない。
2.X,Y,Zが,お互いに意思の連絡なく,Aに暴行を加え傷害を負わせ,その傷害がX,Yのどちらかの行為によるものであることは明らかであるが,そのいずれの行為によるものかは不明な場合,Zについては刑法207条は適用されない。
3.X,Yが,お互いに意思の連絡なく,Aに暴行を加え傷害を負わせ,その傷害がX,Yのどちらの行為によるものであるかは不明であるが,そのいずれかの行為による傷害が原因で,翌日Aが死亡した場合,刑法207条は適用されない。
4.X,Yが,お互いに意思の連絡なく,Aを殺害する目的で拳銃を発射し,弾丸がAに命中して傷害を負わせ,その傷害がX,Yのどちらの弾丸によるものか不明な場合,刑法207条は適用されない。

(参照条文)刑法
(同時傷害の特例)
第207条 二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において,それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず,又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは,共同して実行した者でなくても,共犯の例による。


正解:3

〔コメント〕
 共同正犯とは,「2人以上共同して犯罪を実行」することをいい,共同して実行した者はすべて正犯とされます(刑60条)。2人以上の者が共同して犯罪を実行する意思(共同実行の意思)のもとに,共同して実行行為(共同実行行為)を行う場合,相互に他人の行為を利用・補充し合って,それぞれが一体となって自己の犯罪を実現しているといえるので,犯罪を実行するための行為の一部を行えば,それにより生じた犯罪的結果の全部について責任を負うことになります(一部実行の全部責任)。
 これに対して,同時犯とは,2人以上の者が,意思の連絡なしに,時を同じくして,同一の客体に対し犯罪を実行する行為をいいます。同時犯は,外形上共同して犯罪を実現したようにみえますが,同時に行われる2個以上の単独正犯にすぎないから,各自の行為について各自が正犯者としての責任を負います(個人責任の原則)。
 ただし,同時犯については,傷害罪に関して特例が設けられており,2人以上の者が,意思の連絡なし同一機会に個々独立して暴行を加え,その結果,被害者に傷害を与えた場合,(1)同一人に対する暴行であること,(2)外形上共同実行行為とみなしうること,(3)それぞれの暴行による傷害の軽重,当該傷害を生じさせた者を検察官が証明することができないこと,(4)被告人が,自己の暴行と傷害結果との間の因果関係の不存在を証明できないことを要件に,共同正犯でなくとも共同正犯として扱われます(刑207条)。これは,立証の困難というだけの理由で,同時犯として傷害結果について誰も責任を負わないというのは不合理であり,実際に傷害を加えた者の罪責を不当に免れさせることになるという根拠からです。
 肢1が誤りであると解答した受験者が多かったのですが,上記のことから,肢1は,「共謀の上」殴打という暴行を加えて傷害を負わせていることに注意してください。この場合は同時犯ではなく,傷害罪の共同正犯になります(刑204条・60条)。したがって,刑法207条は適用されず,60条が適用されることになりますので,肢1は正しい肢です。
 肢2は,「お互いに意思の連絡なく」行われており,X,Yのいずれの行為によるものかは不明であるから,X,Yには刑法207条が適用されます。しかし,「X,Yのどちらかの行為によるものであることはが明らかである」ことに注意してください。この場合,Zは自己の行為と傷害結果の間の因果関係の不存在を証明できたとして,(4)の要件が欠けることになるので,Zには207条は適用されません。したがって,肢2も正しい肢です。
 肢3は,傷害致死罪の同時犯であることに注意してください。学説においては,刑法207条は「傷害した場合」についてのみ規定しているのであるから,傷害以外の罪に本条を適用するのは類推解釈となり許されず,また,死亡という重大な結果をもたらすような傷害は,暴行による傷害と比較して立証することは容易であり,この場合にまで刑事訴訟法の基本原理を修正して立証の困難を救済する必要はないとの見解が有力です。しかし,判例は,傷害と,これが発展した傷害致死罪との間に,立証の困難という点では差異はないという理由から,本条は傷害致死罪にも適用されるとしています。したがって,肢3は誤りです。
 肢4は,「殺害する目的」で拳銃を発射して傷害を負わせていることに注意してください。この場合は殺人の故意が認められるので,殺人未遂の同時犯です。刑法207条は傷害の同時犯の特例ですから,結果は傷害であっても殺意がある場合には適用されません。この場合は,同時犯として,X,Yともに殺人未遂罪の単独正犯です。したがって,肢4は正しい肢ということになります。
 このように,本問においては,同時傷害の特例の意義,根拠,成立要件および成立範囲を正確に理解していることが重要です。

 

スタンダード〈中級〉コース
【法学一般】
 平均点は,例年よりもやや低めでした。問題集以外からの出題では,問題1と問題3でつまずいた方が多くみられました。


問題1
 大陸法と英米法の対比に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.大陸法では,手続法が重視され,紛争解決のルールが厳密に考えられるのに対し,英米法では,実体法が重視され,本当の権利義務が何であるかが追求される。
2.大陸法では,第一義的に裁判官を名宛人とする裁判規範として法を捉えるのに対し,英米法では,市民を名宛人とする行為規範として法を捉える傾向が強い。
3.大陸法では,裁判所が下す個々の事案の解決により法が形成されるとみるのに対し,英米法では,法令が定める法規範が当然に拘束力あるものと認められる。
4.大陸法では,法は市民が法的な行動をなす際のモデルと考えられるのに対し,英米法では,法は具体的解決の総体として素人にはわかりにくい形で示される。


正解:4

〔コメント〕
 大陸法と英米法の違いに関する問題です。世界の種々の法体系のうち国際的に大きな影響力をもつのは,ドイツ法やフランス法に代表される大陸法と,イギリス法やアメリカ法等の総称としての英米法ですが,両者の間には伝統的に重要な相違があるとされてきました。
 本問では,肢1を正しいとする誤答が目立ちましたが,大陸法では傾向として実体法を,英米法では手続法を,それぞれ重視するとされているのに対し,肢1の記述ではその部分が逆になっている点が誤りです。肢2と肢3の記述も,大陸法と英米法についての説明が逆転しています。肢2については,市民を名宛人とする行為規範としての性格が強いのは大陸法で,他方,伝統的に裁判官を名宛人とする裁判規範として法が捉えられる傾向が強いのは英米法です(よって,肢2の記述は誤り)。また,肢3については,大陸法は法令が定める法規範が当然に拘束力あるものと認められる傾向が強いのに対し,英米法は裁判所が下す個々の事案の解決により法が形成されると理解されています(したがって,肢3の記述は誤り)。正解は肢4で,これが大陸法と英米法における法のイメージを最もよく表しています。


問題3
 日本における法形式に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.内閣総理大臣は,内閣府に係る主任の行政事務について,法律もしくは政令を施行するため,または法律もしくは政令の特別の委任に基づいて,内閣府の命令として内閣府令を発することができる。
2.総務省や財務省などの各省は,主任の行政事務について,法律もしくは政令を施行するため,または法律もしくは政令の特別の委任に基づいて,それぞれその機関の命令として省令を発することができる。
3.内閣府の外局である金融庁や消費者庁の長官は,その機関の事務を処理し,職員の服務について統督するために必要なときは,規則その他の特別の命令を発するよう内閣府に求めることができる。
4.普通地方公共団体は,法令に違反しない限りにおいて,地域における事務およびその他の事務で法律またはこれに基づく政令により処理することとされるものに関し,当該普通地方公共団体の議会による議決により,規則を制定することができる。


正解:1

〔コメント〕
 日本の法形式についての問題です。肢2を正しいとする誤答が目立ちましたが,省令を発する権限を有するのは各省ではなく各省の大臣であるという点で,肢2の記述は不正確です。細かな点ではありますが,今一度確認しておいてください。また,肢3については,内閣府に外局として置かれる委員会や庁の長官は自ら規則その他の特別の命令(たとえば,国家公安委員会運営規則)を発することができます。規則等を発するよう内閣府に求めることができるとする部分が誤りです。さらに,肢4の記述は,地方公共団体の規則を制定するのはその議会ではなく長である点で誤っています。地方公共団体の議会が制定するものは条例であるのに対し,長が議会の議決を経ることなく制定できるのが規則であることを,よく理解しておいてください。正解は,内閣府令について正しく記述している肢1です。

 

【憲法】
 問題集以外からの出題の中の,とくに問題1において誤答が目立ちました。


問題1
 憲法9条に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.憲法9条1項の「国権の発動たる戦争」とは,宣戦布告または最後通牒によって戦意が表明された戦時国際法規の適用を受ける国家間の武力紛争には限定されず,事実上の戦争,すなわち実質的意味の戦争をも含む広い概念である。
2.憲法9条1項の「国際紛争を解決する手段として」放棄される戦争を,不戦条約1条と同趣旨と理解した場合,ここでいう戦争の意味は限定的に解されることとなるが,その場合でも,自衛戦争は,国際紛争の平和的な解決方法とはいえないので,許されない。
3.憲法9条1項の「武力による威嚇」とは,武力行使に出ることを示唆して,自国の主張を相手国に強要することをいい,たとえば,外交交渉の最中に,相手国の領海付近に空母機動部隊を展開して,演習を繰り返すことも,これに該当する。
4.憲法9条2項の「交戦権」に関して,交戦国に国際法上認められる諸権利と解する見解に従えば,敵の兵力を殺傷,破壊することは交戦権に含まれるが,中立国の船舶を臨検,拿捕したり,敵国領土を占領することまでは,交戦権に含まれない。

(参照条文)不戦条約
第1条 締約国ハ国際紛争解決ノ為戦争ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互関係ニ於テ国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳粛ニ宣言スル


正解:3

〔コメント〕
 憲法9条で用いられている諸概念について,その理解を問う問題です。近年,憲法9条や安全保障に関しては,各方面から様々な見解が主張され,議論も錯綜しておりますので,受験生としては取っつきにくい面があったかもしれません。また,とりわけ最近は,北朝鮮情勢が緊迫化し,米軍等による軍事演習が活発化しているなどの状況変化もあり,本問の解答にあたっては,受験生において特に迷いが生じやすかったのかもしれません。とはいえ,「国権の発動たる戦争」(肢1)や「国際紛争を解決する手段として」放棄される戦争(肢2),「交戦権」(肢3)は、いずれも概念として安定しておりますし,憲法学のテキストにもその定義が記されております。ですので,テキストを読み込んでいる受験生であれば,少なくとも肢1,肢2,肢4が明らかに誤りであることには気づくことができたはずです。
 誤答した受験生の多くは肢1を選択していたようですが,これらの受験生は,おそらく「国権の発動たる戦争」と「武力の行使」の区別ができていなかったのでしょう。たしかに平和主義の理念からすれば,禁止される戦争の範囲を広く理解したくなる気持ちもわかります。しかし,憲法9条は,「国権の発動たる戦争」だけではなく「武力の行使」も禁止しています。肢1の後半部に記されている「事実上の戦争,すなわち実質的意味の戦争」は,一般に「武力の行使」として禁止されていると解されるものです。
 憲法9条に関しては,最高裁判所の見解が示されていないことが多く,学習が難しく感じられることもありますが,条文上の基本概念については,どのテキストにも説明がありますので,しっかりと目を通すようにしましょう。また,学習にあたっては,いつも以上に条文の文言を意識するよう心がけ,その文言をめぐってどのような議論がなされているのかを理解するよう努めましょう。  

 

【民法】
 試験結果を見ていると,民法の成績を伸ばすための勉強へのヒントが見えてきます。@制度を比較・横断して理解を広げること,そしてA安易な思い込みを修正するような勉強をすることの2点です。


問題8
 担保物権の性質に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.留置物が第三者の不法行為により滅失した場合,留置権者は,その不法行為に基づく所有者の損害賠償債権について,物上代位権を行使して優先弁済を受けることができる。
2.建物賃貸人は,賃借人に未払の賃料債務が少しでも残っている限り,その賃借人が建物を利用するために建物に備え付けた動産全体について先取特権を有する。
3.質権の被担保債権を譲り受けた者は,譲渡当事者間で質権移転についての合意がされていなくても,その質権を取得する。
4.抵当権の被担保債権が債務者の弁済により消滅したときは,抵当権設定登記が抹消されていなくても,その抵当権は消滅する。


正解:1

〔コメント〕
 問題8は,留置権・先取特権・質権・抵当権という4種の担保物権を横断する形で,物上代位性・不可分性・随伴性・付従性という通有性(担保物権に原則として共通する性質)を備えているかを問う問題であり,留置権に物上代位性がない(そもそも優先弁済的効力がない)ことから誤りとなる肢1を選びとるものです。出題された問題中,成績の良かった人と悪かった人の出来がハッキリと分かれた問題でした(正答率は半分程度)。
 4種の担保物権,通有性といわれる4つの性質を単に暗記するだけではなく,それを横断的に組み合わせて情報を整理することを普段から意識していれば,難しくなかったでしょう。
 また,担保物権をもっていれば優先弁済を受けられるのが当たり前と考えがちですが,そうした安易な思い込みをしてしまうと,留置権はその例外にあたることを見落としがちです。問題集の解説もよく読んで,細かな例外にも目を配るようにしましょう。


問題14
 賃貸借・使用貸借に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.賃貸借における賃借人は,善良な管理者の注意をもって目的物を保存する義務を負う。
2.使用貸借における借主は,善良な管理者の注意をもって目的物を保存する義務を負う。
3.賃貸借は,賃借人の死亡によって終了する。
4.使用貸借は,借主の死亡によって終了する。


正解:3

〔コメント〕
 問題14は,問題集掲載の問題を改変したもので,誤っている肢3を選択するものですが,最も正答率が低いという結果でした。誤答として多かったのは,肢2(これは正しい記述)を選んだものでした。
 この問題も,問題集で勉強する際に,賃貸借と使用貸借を比較して,借主の注意義務の水準は同じだが,契約の終了原因には違いがあることを整理していれば,簡単に解けた問題でしょう。
 そのような整理をせずに,なんとなく無償契約においては義務が軽減されるという印象(これは一般論としては正しく,たとえば無償寄託においては,受寄者の保管義務は「自己の財産に対するのと同一の注意」に軽減される)だけでこの問題に取り組んでしまうと正答にたどり着けないでしょう。一般論からの安易な思い込みで勉強を終えてしまわず,そこからもう一歩丁寧に知識を積み上げる勉強を目指してください。

 

【刑法】
問題13
 以下の記述のうち,判例がある場合には判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.未成年者の親権者は,未成年者略取・誘拐罪の主体となりえない。
2.未成年者が承諾している場合でも,未成年者略取・誘拐罪は成立しうる。
3.未成年者Aを誘拐したXが,Aの安否を気遣う内容の報道をしていた新聞社の社長に対し,電話で身の代金を要求した場合,拐取者身の代金要求罪は成立しない。
4.身の代金目的でAを誘拐し,身の代金を入手したのち,逮捕されるまでにAを安全な所に解放した場合,解放減軽規定が適用される。


正解:1

〔コメント〕
 略取・誘拐罪の保護法益については,@被拐取者の身体の自由とする見解,A被拐取者の自由および監護権者の監護権とする見解,B人的保護関係とする見解,C被拐取者の自由および身体の安全とする見解が対立しています。
 略取・誘拐罪の保護法益を監護権者の監護権とする見解からは,監護権者である親権者は被害者であるから,未成年者略取・誘拐罪の主体とはなりえないとも考えられます。しかし,この見解においても,一方の親権者が他方の親権を侵害することは可能ですから,親権者も本罪の主体たりうることになります。@ABCのいずれの見解からも,親権者は法益を侵害することが可能であるから,本罪の主体たりえます。判例も,親権者は本罪の主体たりうるとしており,肢1は誤りですので,これが正解となります。
 略取・誘拐罪の保護法益を監護者の監護権とする見解からは,未成年者の承諾があっても監護権を侵害しうるから,本罪の成立は妨げられないことになります。これに対して,被拐取者の自由(およびその安全)とする見解からは,(1)同意能力のある未成年の真意に基づく同意は違法性を阻却するとする説,(2)略取・誘拐は公序良俗に反する行為であるから違法性を阻却しないとする説が対立しています。なお,判例は,別居中の夫婦間の子の奪い合いに関して,特別な事情がなければ違法性を阻却しないとします。したがって,未成年者の同意・承諾があっても未成年者略取・誘拐罪が成立することはありえますので,肢2は正しい肢です。
 拐取者身代金要求罪(刑225条の2第2項)は,「近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」の憂慮に乗じて財物を要求する犯罪です。「近親者その他略取され又は誘拐された者の安否を憂慮する者」とは,「親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にある者」をいいます。たんに同情する第三者は含まれないが,親族関係のない者であっても,被拐取者の自由または保護状態を回復するためには,いかなる財産的犠牲をもいとわないと通常考えられる程度の人間関係があればよいとされます。肢3と解答した受験者が多かったのですが,被拐取者の安否を気遣う報道をしていた新聞社の社長というだけでは,これに当たりませんので本罪は成立せず,肢3は正しい肢です。
 解放減軽(刑228条の2)は,身代金目的の略取・誘拐罪(刑225条の2)や身代金目的の被拐取者収受罪(刑227条4項)を犯した者は,犯罪の性質上,被拐取者を殺害するおそれがあるところから,犯人に犯罪からの後退の道を与え,被拐取者の生命の安全を図るという刑事政策的配慮から設けられたものです。その適用のためには,「公訴が提起される前に」被拐取者を「安全な場所に解放した」ことが必要となります。逮捕されるまでに被拐取者を安全な場所に解放したのであれば,身代金を入手したのちであっても,この要件を満たすので,解放減軽規定が適用されます。肢4は正しい肢です。
 略取・誘拐罪は規定がやや複雑ですので,未成年者略取・誘拐罪(224条),営利目略取・誘拐罪(225条),身代金目的略取・誘拐罪(225条の2),所在国外移送目的略取・誘拐罪(226条),人身売買罪(226条の2)という基本類型と,身代金要求罪(225条の2第2項),被拐取者所在国外移送(226条の3)・引渡し等罪(227条),身代金目的拐取予備(228条の3)といった基本類型成立前後の行為に整理して理解することが重要です。


問題15
 公務執行妨害罪に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.会社の従業員である労働組合員が,会社との争議中,会社側の意向を無視し,会社所有の物品を違法に処分する行為を行ったので,警察官が検挙に向かったところ,労働組合員らが警察官に対してスクラムを組んで労働歌を大声で歌い気勢を上げた。労働組合員らには公務執行妨害罪が成立する。
2.Xは,住民運動のリーダーであったが,地元の市議会の審理を妨害する目的で,議会の傍聴席で発煙筒に点火し議会を混乱させ,審議を一時中断させた。Xには公務執行妨害罪が成立する。
3.Xは,県議会の特別委員会に陳情に訪れた際,陳情参加者らの行為により紛議した委員会の休息を宣言して退席しようとした委員長Aに対し,暴行を加えて傷害を負わせた。Aは,形式的には休憩中であるが,Xには公務執行妨害罪が成立する。
4.Xは,銃刀法違反の現行犯として警察官AおよびBによって逮捕されたが,その際,XはAおよびBの逮捕行為に抵抗して,両名に対して暴行を加えた。のちほど裁判で,Xは銃刀法違反については無罪となったので,Xが行った暴行は違法な逮捕に対する正当防衛行為となり,公務執行妨害罪は成立しない。なお,Xの逮捕当時の挙動には,銃刀法違反の現行犯人と認められる十分な理由はあった。


正解:3

〔コメント〕
 公務執行妨害罪の成否を問うものです。公務執行妨害罪は,刑法各論の授業では最後の方で扱われることが多いのか,勉強していた受験者とそうでない受験者の差が割とはっきりと出た問題でした。しかし,@公務員が職務を行うに当たり,A公務員に対して暴行・脅迫を加えたという,公務執行妨害罪の要件を覚えている限り,その場で考えて正解を導くことは難しくないはずです。日頃から,「覚える勉強」ではなく,「考える勉強」を行う習慣をつけることが大事です。「覚える勉強」をしていると,本番の試験では無意識に「思い出そう」とするあまり,「思い出せない=できない」ということになりがちです。「考える勉強」が大切だとされるのは,このような理由です。
 肢1で問題になっているのは,公務員に向けられた暴行の程度です。事例は,労働組合員らが大声で労働歌を歌って気勢を上げたというものであり,この程度では,常識的に考えても,警察官に向けて,その職務の執行を妨害するに足りる有形力の行使があったとはいえません(最大判昭26・7・18刑集5・8・1491)ので,誤りです。
 肢2では,暴行が公務員に対して行われたのかが問題になっています。行為者は,傍聴席で単に発煙筒に点火して傍聴席を混乱させたのであって,公務員に対して暴行を行ったとはいえず,公務執行妨害罪は成立しませんので,誤りです。
 肢3は,職務が継続中であるのかどうかが問題になっています。職務によっては,形式的に開始,終了を論じることが不自然であって,ある程度継続した一連の職務として把握することが相当と考えられるものが多いです。本肢のケースでは,議会の委員長は,休息宣言により職務の遂行を終えたものではなく,休息宣言後も,委員会の秩序を保持し,紛議に対処するための職務を現に執行していると見るべき(最決平元・3・10刑集43・3・188)とされました。これが正しく,正解となります。
 肢4では,公務の適法性をどのように判断するかが問題となっています。その判断は事後的に純客観的な立場から判断されるのではなく,行為当時の状況にもとづいて客観的,合理的に判断されるべきです。現行犯人逮捕行為の適法性の判断も,逮捕行為当時における具体的状況を客観的に観察して,現行犯人と認められるに十分な理由があったか否かによるべきものであって,事後において犯人と認められたか否かによるべきものではない(最決昭41・4・14判時449・64)とされていますので,誤りです。

 

【民事訴訟法】
過去数年間,問題集から出題された問題と新問の間で正答率に大きな差が出ることが通例でしたが,本年度は,新問5問のうち3問で正答率が50%前後となったことから,それほど顕著な差が出ませんでした。それが,暗記に頼らず,理解しようとする勉学態度の反映であれば,望ましいことです。他方で,新問の残り2問では正答率が振るいませんでしたので,以下では,この2問についてコメントを加えます。


問題4
 以下の記述のうち,旧訴訟物理論と新訴訟物理論に関する説明として適切なものを1つ選びなさい。

1.重複起訴の問題において,前訴の訴訟物を基準とする理論を旧訴訟物理論といい,前訴の訴訟物に限定せず,社会生活関係や主要な争点の共通を基準とする理論を新訴訟物理論という。
2.戦前の多数の学説と実務が採用する訴訟物に関する理論を旧訴訟物理論といい,戦後から現在までの多数の学説と実務が採用する訴訟物に関する理論を新訴訟物理論という。
3.既判力が判決の主文にのみ生じるという理論を旧訴訟物理論といい,主文のみならず判決理由中の判断のうち当事者が主要な争点として争ったものにも既判力が生じるという理論を新訴訟物理論という。
4.個々の具体的な実体法上の権利関係の主張を訴訟物とする理論を旧訴訟物理論といい,紛争の一回的解決を強調して給付訴訟における「受給権」のように訴訟物を広く定義する理論を新訴訟物理論という。


正解:4

〔コメント〕
 正解は肢4ですが,正答率は39.5%でしたので,まあまあの正答率であったと言うことができます。誤答のうち最も多かったのは,肢3の33.9%でした。訴訟物論は,広い射程を持つ議論ですが,訴訟物論争の主たる戦場は,民事訴訟法114条1項に言う「主文に包含するもの」とは何かという問題,つまり,既判力の客観的範囲でした。旧訴訟物理論が既判力の客観的範囲を狭くとるのに対して,新訴訟物理論はそれを広くとる,という相違があります。肢4はそのことをより理論的に説明した文章であり,正解です。これに対して,肢3は,「主文に包含するもの」以外に判決の拘束力を及ぼすことができるかどうか(既判力以外にそれと類似の効果である争点効を肯定することができるかどうか),という論争を題材にしていて,訴訟物論争とは次元を異にしています。


問題8
 1000万円の債権のうち600万円の支払を求めることを明示して一部請求がされた場合に関する以下の記述のうち,判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.一部請求された600万円が,訴訟物になる。
2.一部請求された600万円に対し,被告が300万円の反対債権との相殺の抗弁を提出し,その全額が認められる場合,請求は300万円の限度で認容され,その余は棄却される。
3.一部請求された600万円のうち,500万円を認容してその余を棄却する判決がされた後,当初請求しなかった400万円の支払を求める訴えは信義則に反するとして却下される。
4.一部請求された600万円について時効中断の効果が認められる場合でも,当初請求しなかった400万円については裁判上の催告にとどまり,前訴の時効中断の効果は及ばない。


正解:2

〔コメント〕
 正解は肢2ですが,正答率は23.4%でしたので,相当に悪い部類に属します。誤答のうち,肢3が33.1%,肢4が37.9%と,どちらも正答を上回りました。明示の一部請求(あるいは,その後の残部請求)は判例理論の発展が著しい分野ですので,判例の基礎となっている理論を正確に理解していないと正答にたどり着くことが難しいということでしょう。肢2は,訴求された債権に減額事由がある場合に,減額をまず請求額について行うべきであるという内側説の立場を述べた文章ですが,判例は,まず請求されていない額から減額し,それでは減額しきれない場合に請求額に減額が及ぶという,外側説を採用しています。肢2が判例に反している(正答である)ことに気づかなかった受験者は,もう一度,明示の一部請求に関する判例の枠組みを勉強し直してください。

 

【刑事訴訟法】
問題5
 以下の記述のうち,捜査・訴追機関は公判期日外で被告人の取調べを行うことができないとする立場から述べられたものとして,適切でないものの組み合わせを1つ選びなさい。

ア.被告人も訴追機関による真相の解明に協力すべき立場にある。
イ.刑事訴訟法198条1項は捜査機関による取調べの対象を被疑者に限定している。
ウ.公判中心主義の要請に従うべきである。
エ.公判手続における検察官と対等な当事者としての被告人の地位を全面的に尊重すべきである。
オ.公訴提起の前後で,捜査機関の用いることのできる捜査手法に変わりはないというべきである。

1.アイ  2.アオ  3.イウ  4.ウエ  5.エオ


正解:2

〔コメント〕
 被告人の取調べに関する問題ですが,正答率が37%とやや低い結果になりました。判例は,一定の限度で公判期日外における被告人の取調べを肯定していますが,本問はこれと異なり,被告人の取調べを行うことはできないとする立場であるとすれば,どのような命題ないし論拠になるかというものです。
 問題文の立場は,言い換えると,「捜査機関による取調べの対象は,被疑者である。被告人を対象としてはいけない」,「被告人の供述を得るのであれば,公判期日における被告人質問によるべきである。公判期日外の捜査・訴追機関による取調べではない」,あるいは「起訴後は検察官と被告人とは対等の当事者であり,一方の訴追機関である検察官が,他方の当事者である被告人を,取調べの客体とすべきではない」となります。したがって,この立場から述べられた記述は,イウエの3つであり,正解肢は,これらを除くアオです。仮に,アであれば,起訴後の被告人からも事情聴取ができることになり,問題文の立場とは整合しません。また,オであるとすると,起訴前の被疑者に対するのと同様に,起訴後の被告人に対しても,取調べが可能であるはずだということなり,これも問題文の立場とは整合しないことになります。
 誤答では,肢1が24%,肢3が20%にのぼりました。いずれもイを含んでおり,この点に誤解があったのかもしれません。イは,前段で述べたとおり,条文に「被疑者」と明示してあるので,起訴前にこれを取り調べることは可能だが,起訴後の「被告人」は取調べの対象にしてはならないという趣旨であり,問題文の立場から述べられたもの(つまり,本問でいえば不正解となるべきもの)です。このような問題では,単に条文の文言や判例の結論を暗記しているだけでは対応できませんので,法的な命題とその根拠について論理的なつながりを理解するように学習してください。


問題9
 以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.被告人は,公判前整理手続期日に出頭することができる。
2.被告人が法人であるときは,その代表者が,訴訟行為についてこれを代表するが,公判期日において代理人を出頭させることができる。
3.被告人が,正当な理由がなく,裁判所の召喚に応じないおそれがあるときは,裁判所は,被告人を公判期日に出頭させるために勾留しなければならない。
4.被告人は,裁判長の許可がなければ,退廷することができない。


正解:3

〔コメント〕
 被告人の出頭に関する問題ですが,正答率が38%とやや低い結果になりました。また,高得点者の中にも誤答がやや目立ちました。
 いずれの選択肢も基本的な条文を理解していれば正誤を判定できるはずのものです。正解肢(すなわち,誤っている記述)は,3です。被告人が召喚に応じないおそれがあるときに裁判所がとるべき手段は,刑事訴訟法58条2号により,「勾引」です。勾引は,裁判所が勾引状(刑訴62条・64条)を発し,検察官の指揮によって執行し(刑訴70条1項),裁判所に引致した時から24時間以内まで身柄拘束の効果があります(刑訴59条)。被告人が召喚に応じないおそれがあるからといって,直ちに勾留の要件が充足されるわけではありません。また,勾引,勾留のいずれについても,裁判所の権限であって義務ではありませんから,「勾留しなければならない」という記述は,この点においても誤っています。なお,裁判所による勾留の要件・手続などは,刑事訴訟法60条・61条・62条・64条・70条などに基本的な規定がありますので,確認しておいてください。
 誤答として目立ったのは,肢1が22%,肢2が25%でした。肢1の公判前整理手続はなじみが薄いのかもしれませんが,裁判員裁判対象事件のほか,争点・証拠の整理が必要な事件について実施される重要な公判準備手続です。被告人の出頭は,公判期日の手続と異なり義務的ではありませんが,出頭する権利はあります(刑訴316条の9)。したがって,肢1は正しい記述であり,本問では誤答になります。肢2は,被告人が法人である場合の出頭について記述されています。基本的には,刑事訴訟法27条により,被告人が法人であるときはその代表者が訴訟行為について代表しますから,公判期日の出頭もその代表者ということになりますが,刑事訴訟法283条により,代理人を出頭させることができます。たとえば,株式会社が被告人であるときは,会社法349条の規定によって当該会社を代表する取締役が公判期日に出頭すべきですが,この代表者以外の者を「代理人」に選任することにより,当該代理人の出頭で代えることができるのです。したがって,肢2は正しい記述であり,本問では誤答になります。
 刑事訴訟法の勉強では重要な判例や論点に目を奪われがちですが,その前提となる基本的な手続の仕組みをしっかり理解するようにしてください。

 

【商法】
 正答率が低かった以下の2問についてコメントします。


問題2
 個人である商人の商業使用人に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.支配人は,商人に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する。
2.支配人が自ら営業をする場合は,当該営業が本人である商人の営業と同種の営業であるかどうかにかかわらず,本人である商人の許可を受けなければならない。
3.商人の営業に関するある種類または特定の事項の委任を受けた使用人は,当該事項に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する。
4.物品の販売を目的とする店舗の使用人は,その店舗の主任者であることを示す名称を付されていなくても,その店舗にある物品の販売をする権限を有するものとみなされる。


正解:3

〔コメント〕
 個人商人の商業使用人の権限および義務についての理解を試す問題です。商業使用人には,支配人,商人の営業に関するある種類または特定の事項の委任を受けた使用人,および物品の販売等を目的とする店舗の使用人の3つがあり,主として商人の営業上の代理権の範囲を法定するところに規定の意味があります。これにより,商業使用人と取引をする相手方は,代理権の範囲について調査する必要がなくなるからです。
 正解(記述が誤っている肢)は,肢3です。商人の営業に関するある種類または特定の事項の委任を受けた使用人は,当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有しますが(商25条1項),支配人と異なり(商21条1項参照),裁判上の権限は有しません。
 なお,肢2を正解(記述が誤っている肢)と選んだ受験者が多数いました。商法・会社法では,商人・会社との間で委任関係にある一定の者,具体的には株式会社の取締役(会社356条1項1号),持分会社の業務を執行する社員(会社594条1項)などのほか,代理商(商28条1項,会社17条1項),支配人(商23条1項,会社12条1項)について競業避止義務を負う旨を定めていますが,規制対象となる行為はそれぞれ異なります。このうち支配人の競業等の禁止範囲は最も広く,商人の営業の部類に属する取引のほか,商人と競業関係にあるかどうかにかかわらず,自ら営業をすること,および他の商人の使用人や会社の取締役等になることも規制されています。これは,支配人には,忠実義務のほか職務専念義務があるためです。


問題6
 公開会社における株式発行の効力に関する以下の記述のうち,最高裁判所の判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.著しく不公正な方法で株式を発行することは,株式発行の無効原因となる。
2.株主以外の者に対して特に有利な払込金額を定めて株式を発行するにあたって,株主総会の特別決議を欠くことは,株式発行の無効原因ではない。
3.取締役会決議を経ずに,代表取締役が第三者割当ての方法で株式を発行し,かつ,募集事項の公示も欠いていることは,株式発行の無効原因となる。
4.株式発行差止請求を本案とする株式発行差止めの仮処分命令が出ているにもかかわらず,この仮処分命令に違反して株式を発行することは,株式発行の無効原因となる。


正解:1

〔コメント〕
 公開会社における募集株式の発行の無効原因についての最高裁判所の判例の立場を理解しているかどうかを試す問題です。昨年のスタンダード〈中級〉コースの商法でも,募集株式の発行に関する問題の正答率は高くありませんでした。本問は,問題集の問題36の選択肢を1つ入れ替えた問題です。募集株式の発行は会社法の重要テーマの1つですので,しっかり学習しておきましょう。
 正解(記述が誤っている肢)は,肢1です。著しく不公正な方法で株式を発行することは,募集株式の発行の差止事由にはなりますが(会社210条2号),新株発行無効原因にはならないとするのが判例の立場です(最判平成6・7・14判時1512・178)。これは,募集事項の公示(会社201条3項4項)がされていれば,差止めの機会が与えられていたことになるからです。
 肢2を正解(記述が誤っている肢)と選択した受験者が多数いました。公開会社でも,有利発行の場合には株主総会の特別決議を要しますが(会社199条2項・201条1項),有利発行なのに株主総会の特別決議を欠くことは,会社内部の決定手続を欠くにすぎないとして,これを無効原因とはしないのが判例の立場です(最判昭和46・7・16判時641・97)。
 なお,著しく不公正な方法による発行(肢1)と有利発行なのに株主総会の特別決議を欠くこと(肢2)は,いずれも募集株式の発行の差止事由となるところ(肢2については,会社210条1号),それらの事由があってかつ募集事項の公示を欠く場合には,新株発行の無効原因があることになります(最判平成9・1・28民集51・1・71)。

 

【行政法】
問題8
 行政期間の保有する情報の公開に関する法律の適用対象文書に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.国会議員が作成し,国会の審議に際して用いられた文書であっても,国の行政機関に参考のため送付され,その職員が組織的に用いるものとして保有している文書は,同法の適用対象たる行政文書に該当する。
2.裁判官の人事等,司法行政に関し最高裁判所が作成ないし保有している文書は,同法の適用対象たる行政文書に該当する。
3.都道府県・市町村など地方公共団体が作成ないし保有している文書は,同法の適用対象たる行政文書に該当する。
4.国の行政機関における保存期間が満了した文書のうち,廃棄されず,国立公文書館に移管された文書は,同法の適用対象たる行政文書に該当する。


正解:1

〔コメント〕
 行政機関の保有する情報の公開に関する法律の適用対象文書に関する問題です。〕
 正解は肢1です。国会で作成された文書は,「国会は行政機関でないがゆえに対象外」と考えてしまった人も多いかと思いますが,行政機関の職員が取得した文書も,組織的に用いるために保有していれば対象になります。法2条2項を確認して下さい。肢3を選んだ受験者が多かったのですが,地方公共団体とその機関は,同法所定の行政機関ではありません。法2条1項・25条を参照してください。この機会に,行政手続法,行政不服審査法についても,地方公共団体の行為に対する法の適用関係を,教科書等でチェックしておいてください。


問題11
 2014年に全面的に改正された行政不服審査法についての以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.不服申立ての種類が審査請求に一元化されたことにより,従来の異議申立て,再審査請求は廃止された。
2.審査請求が不適法であって補正することができないことが明らかなときであっても,審査請求があれば,審査庁は審理員を指名しなければならない。
3.審査請求人が希望しない場合,行政不服審査会への諮問は不要である。
4.地方公共団体は,諮問機関として,国の行政不服審査会に準じた常設の機関を設置しなければならない。


正解:3

〔コメント〕
 2014年に全面改正された行政不服審査法について,改正の過程で論点となった事項を中心に,改正後の制度の基本構造についての理解を問う問題です。肢3と肢4に解答が集中したようですが,「審査請求人が希望しない場合,行政不服審査会への諮問は不要である」という肢3が正しい肢(正解)です。当初の案では審査請求人の希望の有無にかかわらず行政不服審査会に諮問することとされていましたが,手続の遅延等の問題点が指摘され,現在のような形となりました。行政不服審査法のような通則法が改正された場合には,どのような理由から何がどのように変わったか,改正の経緯を含めて学習を進めることが重要です。

 

【基本法総合】
問題3(憲法)
 司法権の範囲ないし限界に関する以下の記述のうち,最高裁判所の判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争を意味するものではなく,大学は,国公立であると私立であるとを問わず,学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であって,一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから,大学における単位授与(認定)行為は,他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り,裁判所の司法審査の対象にはならないものである。
2.ある宗教団体の本尊が偽物であったとして提起された,寄付金の返還を求める訴えは,信仰の対象の価値または宗教上の教義に関する判断が訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ,訴訟の争点および当事者の主張立証もこの判断に関するものがその核心となっていると認められる場合,その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって,法律上の争訟にあたらない。
3.国または地方公共団体がもっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は,法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって,自己の権利利益の保護救済を目的とするものということはできないから,法律に特別の規定がある場合のほかは,法律上の争訟にあたらない。
4.公職選挙法が在外選挙制度を設け,附則によってその対象となる選挙を当分の間,両議院の比例代表選出議員の選挙に限定している場合,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙および参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位の確認を求める訴えは,未だ実施されていない選挙に関するものであって,法律上の争訟にあたらない。


正解:4

〔コメント〕
 司法権の範囲ないし限界に関する問題で,基本的には,裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に該当するか否かを問うものです。
 肢1は,富山大学単位不認定等違法確認訴訟(最判昭52・3・15民集31・2・234),肢2は,「板まんだら」事件(最判昭56・4・7民集35・3・443),肢3は,宝塚パチンコ店建築中止命令事件(最判平14・7・9民集56・6・1134)の,それぞれ判示するところで正しいです。
 肢4については,在外日本国民選挙権訴訟判決(最大判平17・9・14民集59・7・2087)が,「選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきものである。そして,本件の予備的確認請求に係る訴え〔判決はこれを本肢の内容の確認を求める訴えと解している〕は,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,上記の内容に照らし,確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお,この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない」と判示しているところで,これは誤りということになります。
以上の通り,本問については,肢4が正解ですが,肢3を選んだ者がほぼ同程度ありました。在外日本国民選挙権訴訟は,画期的で重要な判断が示されたものであり,よく確認しておいてほしいところです。また,宝怎pチンコ店建築中止命令事件で示された司法権の理解の仕方については,アメリカでは司法的執行が原則であるとか,それなら刑事訴訟は司法権との関係でどのように説明するのかなど,学説上の批判は強いものがありますが,そのことも含めて重要な問題であり,やはり確認しておいてほしいところです。

 


ページトップへ戻る
当財団の概要研究研修情報提供法学検定/既修者試験法科大学院全国統一適性試験法科大学院認証評価事業
Copyright
公益財団法人日弁連法務研究財団  〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-3 E-MAIL:info@jlf.or.jp