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 ドイツ・デュッセルドルフ市を訪問して
(財)日弁連法務研究財団 「離婚後の子どもの親権及び監護に関する法制度の比較法的研究」研究員 
弁護士 大森 啓子

本研究の一環として、2006年9月、ドイツ・デュッセルドルフ市を訪問した。
日本とドイツとの親権のあり方の違いを目の当たりにする貴重な経験となった。

1  はじめに

 わが国では、離婚の際、子どもは父母のいずれか一方の親権に属さなければならないという単独親権制度が採られている。そのため、離婚すること自体には異論がないにもかかわらず、いわゆる子どもの奪い合いあるいは押し付け合いが繰り広げられ、離婚紛争が激化・長期化し、父母だけでなく子どもに対しても大きな精神的影響等を与えるケースが後を絶たない。しかも、このような状況は、離婚の増加や少子化等に伴い年々増加し深刻化している(なお、このような独親権制度におけるわが国の現状や問題点については、「離婚後の子どもの親権及び監護に関する実態調査及び研究」が検証を行っている)。わが親権比較法研究会では、このような現状を踏まえ、わが国における親権制度の今後のあり方を探るべく、諸外国における親権制度について研究・調査を行っている。
眺めデュッセルドルフ市内 この調査の一環として、親権比較法研究会のメンバーは昨年(2006年)9月、ドイツ・デュッセルドルフ市を訪問した。ドイツもかつては、わが国と同様、「親権」という概念を採り、離婚後は単独親権となる制度を採用していた。しかし、1980年に親権概念を廃止し新たに「親の配慮」という概念を採用した。そして、連邦憲法裁判所が1982年に離婚後の単独親権(配慮)制度に対し違憲判決を下し、ついに1998年、親子法の改正により、離婚後も父母は共同して子どもに対して配慮を行うという共同配慮の原則が採用されるに至った。
 わが国と同様、単独親権(配慮)制度を採用していたドイツが共同配慮に変わった要因はどこにあったのか、また共同配慮の内容や共同配慮に伴う諸制度・サポート機関の概要を把握し、共同配慮となって以降、離婚紛争や離婚の子どもに対する影響はどのように変化したのかを調査するのが、今回の訪問の目的であった。
 なお、今回の訪問は、当研究会の研究員であり、ドイツ家族法を専門とされている中央大学法学部の鈴木博人教授、イタリア法を専門とされている拓殖大学政経学部の松浦千誉教授及び6名の弁護士が参加したが、鈴木博人教授には裁判所や弁護士事務所、少年局等へのコーディネートや現地の案内等に大変なご尽力を頂いた。ここに改めて心から御礼を申し上げる次第である。

2  デュッセルドルフ市について

 デュッセルドルフはドイツの西部のノルトライン=ヴァストファーレン州の州都で、ライン川沿いの人口57万人の都市である。ルール工業地帯の中核都市で、日本企業をはじめとする各国企業も多く進出している。また、デュッセルドルフはアルトビールの街としても有名であり、街にはアルトビールの店が建ち並ぶ。他方、デュッセルドルフ市はドイツの中で最も弁護士の人数が多く、法制度の運用に関しても積極的な取り組みがなされている。私達の訪問に際しては、デュッセルドルフ市近郊の街で開業しているヘニング(Ru¨diger Henning)弁護士に、現地の弁護士や裁判所のコーディネート等多大なご協力を頂いた。同弁護士に対しても篤く御礼を申し上げる。

3  弁護士事務所訪問

 私達は、まず、共同配慮の現状を把握するため、デュッセルドルフ市内の弁護士事務所を訪ね、家庭事件を扱う弁護士、元家庭裁判所裁判官とディスカッションを行った。

(1)単独配慮の弊害・改正の経緯
 弁護士らの説明によれば、旧法の単独配慮制度では子どもの配慮が離婚の際の争点となり紛争が長期化するという日本と同様の弊害が生じていたという。他方、子どもにとっては父母双方が必要であるとの考えのもと、たとえ非嫡出子であっても、また両親が離婚したとしても、父母双方に配慮を認めるべきであるという気運が高まっていた(前述した単独配慮に対する違憲判決は、非嫡出子に対する父の配慮権に関するケースに対するものであった)。さらに、離婚の際、裁判所が介入して配慮内容を決めるのではなく、まずは子の配慮に対する父母の自覚・自立を促し尊重していく必要があると主張された。そのような考え・主張が高まり、1998年改正によって共同配慮原則が打ち立てられたということであった。

(2)共同配慮の内容
 共同配慮原則のもと、父母は、離婚後も、子どもに対しては引き続き共同して配慮を行う権利と義務を負う。そのため、父母は離婚(あるいはそれに先立つ別居)の際に、以後子どもに対してどのように配慮を行っていくのか協議し取り決め、実行していくことになる。
 共同配慮といっても、離婚している以上、父母はそれぞれ別に生活している。そこで、大半のケースでは、子どもは現実的には片方の親と居住していくことになる(たまに、子どもが父母の間を行ったり来たりする生活をする場合もあるという)。そうした場合、子どもへの配慮のうち、日常生活上の細かい点については一緒に居住する親が決めて良いが、学校の選択、病気をした場合の対処、宗教等に関しては、父母双方の合意で決めなければならないとするのが典型的な共同配慮のパターンである。この共同配慮の形態は、クリスマスやサマーバケーションの過ごし方等具体的に細かく決められるという。

(3)裁判所の関与
 裁判所は、当事者が配慮内容について合意ができない場合に裁判所へ申し立てることによって初めて介入する。裁判所への申立は、共同配慮から単独配慮への変更のほか、個別的な配慮事項について合意ができない場合にその決定を求め、あるいは合意した事項の履行を求めてなされる。
申立がなされた場合、裁判所は当事者の主張を聞くほか、子どもの意見を聴取した上で判断を下す。その際、子どもの真意を探り、裁判所に明らかにするため、1998年改正で、「手続保護人」制度が導入された(手続保護人に関しては後述する)。  私達は、共同配慮となっても、配慮内容をめぐって合意できない場合は裁判所に申し立てがなされ紛争化するのであるから、結局紛争が後回しになるだけで実情は変わらないのではないかという素朴な疑問をぶつけてみた。そうしたところ、親は第三者である裁判所に強制的に決められてしまうよりは自分達で自主的に決めたいと考えるようになり、実際に配慮をめぐる紛争は減少したという回答が返ってきた。まさに、親の自覚と自立を促すという趣旨が現実化したというわけである。

(4)面会交流(面接交渉)について
 離婚後、居住していない親が子どもにどのように面会するのかについても、共同配慮の一内容としてまずは父母が協議して取り決め、実施する。通常は、2週間に一度面会交流し、イースターやクリスマスの際は別途会うようにすることが多いようである。もっとも、子どもが幼い場合は週2回などより頻繁に会うようにするケースが多い。
このような面会交流について合意に至らない場合やその履行がなされない場合は、支援機関の援助を得て協議による実現をはかったり、裁判所へ申し立てることとなる。裁判所が決定した内容が履行されない場合は、金銭的制裁が科されるほか、合意や審判で定められた事項を履行しないことを理由として配慮権を取り上げるケースもあるという。
 私達が関心を持っていたことの1つは、DVがあったケースの取扱いであった。夫婦間でDVがあったケースだけにとどまらず、子どもに対するDVがあったケースであっても、直ちに面会交流が否定されることにはならないということであった。DVがあった場合は、親戚等の付添人を付けた上で監督付面会交流が実施される。この場合の付添人については、裁判所と少年局(少年局に関しては後述する)が面接に適しているかチェックし、適する者がいない場合は、少年局のスタッフが付添人となる。
 DVがあったとしても、子どもと親の接触を重視する考えが最大限尊重されるという結論であった。
眺めデュッセルドルフ市内

4  少年局

 続いて、私達は少年局と呼ばれる行政機関を訪ねた。少年局は、子どもに関するあらゆる面のサポート・管理等を行う機関であり、旧法下では、裁判所が単独配慮の帰属を判断する際の判断材料となる家庭状況等に関する報告書を作成し裁判所に提出するなどしていた。
 共同配慮となって以降は、少年局は、未成年者がいる夫婦から裁判所に離婚の申立てがなされた際に、裁判所から当該申立てがあった旨の連絡を受け、これに基づき、その父母に対して援助が受けられる旨を伝えて、相談・サポートを行っている。また、その一環として面会交流の付添人となったり、交流場所の提供等も行っている。
 しかし、少年局は単に受け身だけの機関ではない。子どもの福祉の観点から、学校等の各機関と連携を取って配慮が適切になされているか把握し、その実現に努める。私達は、デュッセルドルフ近郊の町の裁判所を訪れた際、不登校となっている少女の母親に適切な配慮権行使を求めて(母親の単独配慮となっているケースだった)少年局が裁判所へ申立てを行った事案の審理を傍聴した。この事案を担当する少年局の職員は、学校等から少女の不登校状況を把握し、審理でその現状を訴えていた。また、審理を担当する裁判官も積極的に母親及び少女へ質問を行い、また学校へ行く必要性を訴えていた。この日の審理では、結局、3ヶ月間猶予を与えて様子を見たうえで裁判所が判断を下すこととなったが、父母の自主性を尊重しつつ適切な配慮権の行使がなされるよう積極的に監視し取り組んでいる現状を見ることができた。

5  手続保護人

 父母は、配慮権の帰属やその内容・行使をめぐって対立する場合、裁判所に申立てを行う。手続保護人制度は、その手続内で、子どもの意思を正確・忠実に明らかにするために設けられた制度であり、1998年改正により導入された。少年局は子どもの福祉の観点から判断を行うが、手続保護人はあくまで子どもの真意を探り、その内容を明らかにする役割を有する。つまり、手続保護人は、一言で言えば、審理手続における子どもの意思の代弁者ということになる。
 少年局を訪問した際、私達は女性の手続保護人とも会うことができた。手続保護人は、心理学や社会学、教育学、社会福祉学、ソーシャルワーカー等の専門家が手続保護人としての研修を受けた上で選任されており、デュッセルドルフ市では13人の手続保護人がいるということであった。私達が会った手続保護人は年間50〜60件の手続保護人となっているが、一番多いのは、母親が子どもを父親に会わせたくないと主張している事案で、父もしくは母が申立てを行うケースだということであった。手続保護人として裁判所から選任を受けた場合、資料を読み、同居した親とコンタクトを取り、親のいない場で子から聞き取りを行い、真意を探る。彼女の場合、1人の子どもに対して2〜10回、1回につき約1時間を目安に子どもと面会しているという。そうして、子どもの真意を探りその内容を報告書としてまとめて裁判所へ提出する。また、審理では、裁判官が直接子どもの意見聴取を行うが、この際、手続保護人は同席し子どもの精神的サポートを果たす。
 ドイツでは、子どもの意思を尊重する傾向が重視されてきている。現行法では、手続保護人は、単独配慮となる場合や里親へ行く場合のほか、裁判官が必要だと判断する場合に選任されることとなっており、選任しない場合は裁判官はその理由を付さなければならないこととされている。2007年には、このような手続保護人の選任を必要的とする改正が行われる予定となっている。

6  裁判所訪問

 私達は、弁護士事務所・少年局の訪問を経て、デュッセルドルフ裁判所を訪れ、家事部裁判官等の話を聞くことができた。
 私達は裁判官に対して、改めて1998年改正の前後で紛争の数等に変化があったか尋ねた。そうしたところ、裁判所としても、共同配慮となって以降、配慮権をめぐる申立ては激減したと認識しており、その一番の要因として、子どもに対する親の自覚が強まったのではないかと回答された(正確な統計資料は手元にないが共同配慮について紛争となるのは約5%ではないかとのことであった)。このように、紛争性の乏しいケース、親の自覚によって解決できるケースについては申立てがなされなくなり、当事者では解決できない深刻なケースについて裁判所へ申し立てられる傾向になってきたという。
 また、当事者の申立てによって、例外的に単独配慮となることもできるが、単に「相手が嫌だ。」という理由では認められず、実際に単独配慮の申立てがなされても、単独配慮の決定がなされるのは10〜15%程度にすぎないと話されていた。単独配慮が認められるのは、アルコール依存症やDV等で父母が全くコミュニケーションを取ることができない場合等に限られ、大半は、居所指定権の変更等、配慮権の一部を移すにとどまる。よほどの事情がないかぎり、父母双方に親としての配慮を認め自覚を持たせるべきだという考えが徹底されているからであろう。
 また、単独配慮となっても、配慮権のない親は子どもとの面会交流権や子どもの情報を知る権利を有する。そのため、単独配慮となって以降も、当事者等の申立てを受け、監督付面会交流等について審理を行い、判断を下すことになる。

7  さいごに

 日本では、オール・オア・ナッシングの単独親権制度の結果、離婚後も父母ともに子どもの親としての権利と義務を負うという自覚と、子どもの福祉の観点に立った柔軟な解決が見失われがちとなっているのが現状であるといっても過言ではない。離婚は夫婦にとっては清算としての意味合いを持つが、子どもに対しては今後のあり方を定める家族の再構築としての意義も有する。親としての権利・責任を自覚させ、無用な紛争を防ぎ、子どもの視点に立った「今後」を促すための土壌として、「共同配慮」を打ち立てることは重要な意義を有すると考えられる。また、その実現のためには、関係制度・機関の整備が不可欠である。
 ドイツ以外の多くの諸外国も既に共同親権(配慮)制度を導入し、関係制度・機関を整備している。「家族」という人間にとって最も根源的で重要なものについて日本がこれ以上後進国とならないよう、法制度の改正等に向けた今後のわが国の積極的な取り組みを切に願うものである。そして、わが研究会はその実現に向けた調査・研究を今後も継続していく所存である。
デュッセルドルフ裁判所


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(2007.4.15発行)


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