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  ◎北欧の「当事者主義の参審制」に学べ
  ●弁護士 佐藤博史 (第二東京弁護士会)

 司法制度改革審議会は、中間報告(2000年11月20日)で、国民の司法参加について、「欧米諸国の陪審・参審制度をも参考にし、それぞれの制度に対して指摘されている種々の点を十分吟味した上、特定の国の制度にとらわれることなく、主として刑事訴訟事件の一定の事件を念頭に置き、我が国にふさわしいあるべき参加形態を検討する」としていたが、本年1月30日、「裁判員」制という名の参審制を導入すべきであるという意見で大筋一致した。「評決権なき参審員」という、かつての最高裁の提案を明確に否定した点は、高く評価できるが、(1)重大事件に限り、(2)事件ごとに裁判員を選ぶ、という点は、なお陪審制的である。
 ところで、同審議会が参考にした参審制とは、主にドイツ、フランスのそれである。しかし、ドイツやフランスは、裁判官が予め捜査記録を読んで公判に臨む「職権主義の参審制」で、「裁判官主導の参審制」と呼ぶべきものであり、当事者主義のわが国で参考にするには自ら限界がある(ドイツ、フランスの参審制について、東京三会陪審制度委員会『フランスの陪審制とドイツの参審制』〔1996〕参照)。
 ところが、北欧では、当事者主義のもとで参審制を採用している。しかし、一口に北欧の参審制といっても、一様ではない。
 まず、デンマークは、陪審制と参審制の併用制で、検察官の求刑が4年以上の重い事件は、1審が高等裁判所で、裁判官3名+陪審員12名の陪審制で裁かれる。無罪評決は、最終的であるが、有罪評決は、裁判官が破棄し、新たな陪審制による裁判を命じることができ、「二重の保障」と呼ばれている。これに対し、検察官の求刑が4年未満の軽罪事件は、1審が地方裁判所で、自白事件は、裁判官1名の裁判官制で、否認事件は、裁判官1名+参審員2名の参審制で裁かれ、事実に関する控訴も許される(無罪判決に対する検察官控訴も認められている)。2審は高等裁判所で、裁判官3名+参審員3名の参審制で裁かれる。こうして、デンマークでは重い事件が1審制であるため、事実問題に関しては2審制を認めるべきであるというヨーロッパ人権条約との関連もあって、陪審制の改革が論議され、重い事件も地裁を1審として裁判官2名+市民裁判官6名の参審制で審理し、控訴を認めて、2審の高裁を裁判官3名+市民裁判官9名の参審制で審理するという、実質的には陪審制を廃止し、参審制にする改革が提案されている(デンマークについて、東京三会陪審制度委員会ほか編『デンマークの陪審制・参審制』〔1998〕、松澤伸「デンマークの刑事裁判と陪審制・参審制」立教法学55号〔2000〕39頁参照)。
 つぎに、フィンランドは、参審制の国で、1審は地方裁判所で、裁判官1名+参審員3名の参審制、2審は高等裁判所で、裁判官3名ないし4名の職業裁判官制である(なお、私は3月上旬にフィンランドを視察するが、本稿執筆時点では文献による)。
 また、ノルウェーは、併用制で、1995年に陪審制に関する一応の改革を終え、1審は全て地方裁判所で、簡単な自白事件は、裁判官1名の裁判官制で、それ以外は、裁判官1名+参審員2名の参審制が原則で(重罪事件では裁判官2名+参審員3名の参審制によることもできる)、2審の高等裁判所は、法定刑が6年以上の事件で事実に争いがある場合は、裁判官3名+陪審員10名の陪審制で、法定刑が6年以上の事件で量刑のみが争われている場合と6年未満の事件で事実に争いがある場合は、裁判官3名+参審員4名の参審制で、法定刑が6年未満の事件で量刑のみが争われている場合は、裁判官3名の裁判官制で、裁かれる。さらに、陪審制による有罪評決は、裁判官の単純多数決で、無罪評決は、裁判官全員一致で、いずれも破棄することができ、その場合の再審理は、陪審制ではなく、裁判官3名と参審員4名の参審制である。デンマークと異なり、陪審員による無罪評決も裁判官によって破棄され、その場合には、陪審制ではなく、参審制で再審理される点がユニークである。なお、ノルウェーでは、陪審制の廃止論が今なお説かれている(ノルウェーについて、アスビョン・ストランドバッケン〔佐藤・松澤訳〕「ノルウェーの陪審制・参審制」ジュリスト1196号〔2001〕参照)。
 最後に、スウェーデンは、基本的に、参審制の国で、1審の地方裁判所では、裁判官1名+参審員3名の参審制、2審の高等裁判所では、裁判官3名+参審員2名の参審制が採用されている(スウェーデンについて、東京三会陪審制度委員会編『スウェーデンの参審制』〔1995〕参照)。
 こうして、北欧の参審制は、参審制だけのフィンランドとスウェーデン、併用制のデンマークとノルウェーに分かれるが、しかし、基礎にあるのは(陪審制ではなく)参審制であり、しかも、そこには共通点がある。
 第1に、いずれも当事者主義に基づく、市民と裁判官が共同する参審制であること。裁判官が予め捜査記録を読んで公判に臨む「職権主義の参審制」では、裁判官が一定の予断を抱くことは否定できず、「裁判官主導の参審制」と呼ぶしかないが、有罪立証を検察官に委ねる当事者主義は、裁判官と参審員の対等な議論を可能にし、「市民主体の参審制」を現実のものにするのである。そして、その基盤はわが国には既に整っている。
 第2に、重大事件だけでなく、多くの刑事事件が参審制で裁かれていること。フランスの参審制は、呼称が「陪審」制であることに象徴されるように、重大事件に限る点で、陪審制的で、司法制度改革審議会の「裁判員」制は、フランスの参審制に近いということができるが、しかし、フランスでは、参審制の裁判を何時でも傍聴できるわけではない(つまり、フランスの刑事裁判の基本は職業裁判官制なのである)。これに対し、北欧では、裁判所に行けば、何時でも参審制の裁判を見ることができる。この点はドイツも同じであるが、要するに、市民参加の刑事裁判を身近なものとするためには、参審制を重大事件に限ることは、端的に、誤りと考えるべきである。
 第3に、参審員は、任期制であること。フランスの「陪審」員は、任期制ではなく、ここでも「裁判員」制に近いが、フランスでは裁判官3名+参審員9名である。このように参審員が多数である場合には、職権主義のもとで、かつ、任期制でない参審員でも、裁判官と対等に議論することが可能なのか知れないが、その半面、重大事件にしか採用できない。裁判官と対等に議論するためには、「裁判員」としての経験を積むことも重要で、事件ごとではなく、任期制を採用すべきなのである。そして、参審員は、わが国の調停委員のように、特定の部に所属するのではなく、開廷日ごとにアトランダムに選ばれるから、参審員と裁判官の組み合わせは、毎日異なる。つまり、任期制の参審制であっても、「事件ごとに参審員を選ぶ」精神を実現することはなお可能なのである。昨年末、デンマークで、審理を終えたばかりの裁判長と参審員にインタビューしたときのことを思い出す。裁判長と参審員は、その日が初対面で、しかも、合議の場所は、インタビューをしている裁判官室だという。要するに、北欧では、毎日、裁判官は、違う市民と顔を合わせ、市民は、裁判官室に出入りするのである。
 こうして、「当事者主義の参審制」、すなわち、市民が裁判官と対等に議論する参審制は、北欧で現実のものになっている。それは「市民主体の参審制」にほかならない。ただし、「市民主体」とは「市民主導」ではない。裁判官が「主体的」であることは当然で、市民も主体的でなければならないという意味にすぎない。市民と裁判官を固定的・対立的に考える陪審制論者は、陪審制が採用されないのなら、「市民主導の参審制」でなくてはならないと説く傾向がある。フランスに習って、「裁判官の3倍の数の参審員が必要である」という説がその最たるものである。しかし、それは職権主義の参審制であって、北欧の当事者主義の参審制に学べば、必ずしもそのようにいう必要はない。しかも、フランスのような「大きな参審制」では、上記のとおり、重大事件にしか用いることができず、99%の刑事裁判を現状のままとすることになってしまう。
 ところで、私自身、いつの間にか、裁判官と参審員との間に壁を設ける「陪審制的な発想」に取り憑かれていたのであろう、ノルウェーで「裁判官と参審員との間で意見が割れることがありますか」と質問したことがある。ノルウェーには、上記のとおり、裁判官と参審員が2対3や3対4の参審制があるからである。すると、答えは、「意見の違いは、裁判官と参審員にはあまり関係がなく、A裁判官とX参審員が同意見、B裁判官とY参審員が同意見ということもあります」というものだった。考えてみれば、当たり前で、裁判官と参審員が対等ということは、裁判官と参審員との間に垣根がなくなり、意見が分かれる場合も裁判官か参審員かは関係がなくなる、ということなのである。
 官僚制のもとにあるわが国の裁判官を前提に「裁判員」制を採用したとしても、直ちに北欧のように裁判官と「裁判員」との垣根がなくなるとは思えない。しかし、デンマークやスウェーデンの裁判官が法服を脱いだように、参審制のもとでは、裁判官は次第に市民に近づき、やがて市民と意識を共通にするに違いない(デンマークやノルウェーでは、タートルネックで法廷に立つ検察官が現にいる)。
 ともあれ、最近ようやく関心が向けられてきたが、参審制について学ぶべきは、ドイツ、フランスの「職権主義の参審制」ではなく、北欧の「当事者主義の参審制」なのである。

〔追記〕詳しくは、
「市民主体の参審制を−北欧諸国に学ぶ」NBL708号(2001)、
「何故、参審制か」現代刑事法25号(2001) の拙稿を参照されたい。

 
 
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(2001.3.31発行)


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