2019年度 法学検定試験結果講評

2019年12月1日に実施いたしました法学検定試験のうち,
ベーシック〈基礎〉コースおよびスタンダード〈中級〉コースの各科目から数問ずつ,
試験結果を踏まえた講評を掲載いたします。復習に,是非お役立てください。

スタンダード〈中級〉コースの講評はこちらです

ベーシック〈基礎〉コース

【法学入門】
問4
 以下のうち,憲法で「法律でこれを定める」と明言されている事項を規定する法律ではないものを1つ選びなさい。

1.民法
2.生活保護法
3.国籍法
4.公職選挙法

正解:2

〔コメント〕

 問題4は,憲法で「法律でこれを定める」と明言されている事項とそうでない事項とを知っているかどうか,さらに,それらがどのような法律に定められているかを知っているかどうかを問う問題です。憲法は,29条2項で「財産権の内容」について,10条で「日本国民たる要件」について,44条で「両議院の議員及びその選挙人の資格」について,それぞれ「法律でこれを定める」としています。そして,各々の事項について定める法律またはその代表的なものであるのが,民法,国籍法,公職選挙法です。他方,生活保護法は,1条で「この法律は,日本国憲法第25条に規定する理念に基き,〔以下略〕」と定めていますが,憲法25条1項には「すべて国民は,健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあるものの,その内容を「法律で定める」という文言はありません。


問7
 法律の解釈に関する以下の記述のうち,カッコに入る語として,正しいものを1つ選びなさい。

 不法行為による生命侵害があった場合,被害者の父母,配偶者および子が加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求しうることは,民法711条(「他人の生命を侵害した者は,被害者の父母,配偶者及び子に対しては,その財産権が侵害されなかった場合においても,損害の賠償をしなければならない。」)が明文をもって認めるところであるが,この規定は限定的に解すべきものでなく,文言上同条に該当しない者であっても,被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し,被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は,同条の(   )により,加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求しうるものと解するのが,相当である。

1.類推解釈
2.拡張解釈
3.反対解釈
4.縮小解釈


正解:1

〔コメント〕

 問題7は,法解釈の方法に関する問題です。問題文は,最高裁の判決文(最判昭49・12・17民集28・10・2040(「義妹慰謝料請求事件」))の一部をほぼそのまま用いたものです。最高裁は,「文言上同条に該当しない者であつても」と述べて,民法711条の拡大解釈の可能性を排除する一方で,「被害者との間に同条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し」と述べて,民法711条に定められた事項とここで問題になっている事項との類似性に着目したうえで,この規定を類推的に適用しています。これは典型的な類推解釈の手法です。
【憲法】
問題11
 つぎのア~エは,国会の権限と議院が単独で行使できる権限とを列挙したものである。以下のうち,国会の権限を組み合わせたものを1 つ選びなさい。

ア.条約承認権
イ.国政調査権
ウ.議員の資格争訟の裁判権
エ.裁判官弾劾裁判所の設置権

1 .アイ  2 .アエ  3 .イウ  4 .ウエ

正解:2

〔コメント〕

 この問題は、国会の権限と議院の権限との区別に関する基本的知識を問うものです。両院制の下では、国会の権限は、原則として、両議院の意思の合致により行使されることとなりますが、これと議院単独で行使できる議院の権限とは別物です。

ア.国会の権限です(憲61条)。
イ.議院の権限です(憲62条)。
ウ.議院の権限です(憲55条)。
エ.国会の権限である(憲64条)。
 日本国憲法の条文を丁寧に読んでいれば正解できる問題です。国会の権限であるアとエについては、条文の主語が「国会は」となっているのに対し、議院の権限であるイとウについては、条文が、「両議院は、各々…」と書かれていることに注意してください。50%以上の受験者が正答でしたが、他方で、いずれも議院の権限であるイ・ウの組合せを選択した受験者も多くみられました。条文を丸暗記しようとするのではなく、お手元の教科書等の該当箇所を参照してそれぞれの権限がなぜ国会または議院に付与されているのかにまで遡って理解し、知識を定着させてください。
【民法】
 2019年度法学検定ベーシック<基礎>コース民法の問題について,ここでは,正答率が1番低かった問題15と,4番目に低かった問題3を取り上げて講評します。いずれの問題も,問題集には載っていない問題ですが,問題集や教科書で,基礎をきちんと勉強していれば解けたと考えられる問題です。問題集をどのように読むべきだったのかを,これら2つの問題で確認しておきましょう。 なお,2番目に正答率が低かった問題17と3番目に正答率が低かった問題18はいずれも問題集からの出題であり,そちらの解説を参照してください。


問題3
 AはBに対して契約の申込みの意思表示をしたが,この意思表示に対応する意思が欠けていた。この場合に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.意思表示に対応する意思が欠けていたことについてAは知っていたが,Bは過失なく知らなかった。このとき,Aの意思表示は,有効である。
2.意思表示に対応する意思が欠けていたことについてAもBも知っていた。このとき,Aの意思表示は,無効である。
3.意思表示に対応する意思が欠けていたことについてAは知らず,Bも過失なく知らなかった。このとき,Aの意思表示が取消可能なものとなることはない。
4.意思表示に対応する意思が欠けていたことについてAは知らなかったが,Bは知っていた。このとき,Aの意思表示は,取消可能なものとなることがある。

正解:3

〔コメント〕

 心裡留保(93条)と錯誤のうち95条1項1号の錯誤にあたるものを対比する選択肢の中で,「誤っているもの」を答える問題で,「意思表示に対応する意思が欠けており,それを表意者が知らない場合に,この意思表示が取り消しうるものとなることはない」という選択肢3を選択するものでした。
 この問題は,おそらく「錯誤が成立するとき,取り消しうる意思表示になることはない」という表現であれば,正答率がもっと上がったのではないかと推測しています。
 普段の勉強においては,単純に「錯誤が成立すれば取り消しうる意思表示になる」というだけでなく,そこからもう一歩,錯誤とはどのような場合か,それは心裡留保とどのような共通点・相違点をもつのか,それは効果の違いにどのように反映しているか,などといった点を掘り下げてみることが必要です。


問題15
 契約の解除に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.債務の全部の履行が不能であるときは,債権者は,履行の催告をすることなく,直ちに契約の解除をすることができる。
2.解除の意思表示は,撤回することができない。
3.AとBが共同で買主となり,売主Cとの間で契約を締結した。この場合,Cの債務不履行を理由に契約を解除するためには,解除の意思表示は,AとBによってされなければならない。
4.AB間の契約が,Aの債務不履行を理由に解除された。この場合において,AとBの双方が原状回復義務を負うときは,AがBよりも先に原状回復義務を履行しなければならない。

正解:4

〔コメント〕

 契約の解除について「誤っているもの」を答える問題で,「解除の効果である原状回復義務は債務不履行をした当事者が先に履行する」という内容の選択肢4を選択するものでした。民法546条が同時履行の抗弁に関する民法533条を準用していますから,この選択肢が誤りであることは明白ですが,正解率は4分の1をちょっと超える程度にとどまりました。
 「同時履行」ということの意味が,「一方が先履行ではない」という理解につながっていないのかもしれないと感じます。条文を読むときには,そこに直接は書かれていないことについても言い換えがたくさんできるようになることが必要です。
 また,この問題は,正解の選択肢よりも選択肢1を選ぶ受験生が多くいる(32.7%)という「逆転現象」が起きていました。選択肢1は,「全部の履行不能であるときは,『履行の催告をすることなく』契約を解除することができる」という内容で,正しい選択肢(つまり誤答)です。
 契約が全部履行不能であれば無催告で解除できるというのは,542条1項1号に定められていて,無催告解除の典型例とされています。それでもこの選択肢を選んだ人が多かったのは,「催告をすることなく」というキーワードだけを見て,「催告解除が原則だから誤り」と誤解してしまったのではないかと推測しています。こうした間違いを避けるためには,普段から原則と例外を組み合わせながら勉強するとともに,問題を解くにあたっては,選択肢の中のキーワードを拾い読みするだけではなく,文全体の意味を,「主語と述語と,そこにつけられている種々の条件」といったように,論理的に読み取ることが大切です。
【刑法】
問題8
 中止犯に関する以下の記述のうち,正しいものを1 つ選びなさい。

1 .XとYが殺人を共謀し,この共謀に基づいてYが殺人の実行に着手したが,Yが自己の意思により殺人を中止したため,殺人は未遂にとどまった。この場合,Yに中止犯が成立するが,XとYは共同正犯の関係にあるので,Xにも中止犯が成立する。
2 .Xは,強盗の目的で,凶器を携えて強盗先の住居に赴いたが,強盗の実行に着手する前に,自己の意思により強盗を中止した。この場合,Xに強盗予備罪が成立するが,判例によれば,中止犯の規定は予備罪にも適用されるので,Xに中止犯が成立する。
3 .Xは,殺意をもって相手に包丁で切りかかり,瀕死の重傷を負わせたが,苦しむ相手の姿を見て反省し,直ちに救急車を呼んで病院で治療を受けさせたため,相手は一命をとりとめた。この場合,Xが救急車を呼ぶなどした行為は中止行為にあたるが,相手が苦しんでいたという外部的事情がきっかけとなっているので,自己の意思により中止したとはいえず,Xに中止犯は成立しない。
4 .Xは,殺意をもって相手に包丁で切りかかったが,軽い切り傷を負わせるにとどまった。この場合,Xが相手が軽傷であることを知りつつ自己の意思により続けて切りかかることをせずに立ち去れば,Xに中止犯が成立する。


正解:4

〔コメント〕
 本問は,中止犯に関する基本的な理解を問うもので,その形式は,4つの選択肢の中から「正しいもの」を1つ選ぶというものでした。正解(正しいもの)は,肢4です。ところが,結果をみると,肢2(誤っているもの)を誤って選んでしまった受験生が40%近くに,また,肢3(誤っているもの)を誤って選んでしまった受験生も26%に達する一方,正解である肢4を選んだ受験生は,20%にとどまりました。肢3については,やや難しいかと思っていましたが,肢2を選ぶ受験生がこんなにたくさん出たのは,予想外でした。以下では,肢2,肢3,肢4について,解説を加えておきます。  肢2は,「判例によれば,中止犯の規定は予備罪にも適用されるので,Xに中止犯が成立する」という部分が誤りです。判例(最大判昭29・1・20刑集8・1・41)は,中止犯の規定は予備罪には適用されないとしているからです。基本的なことですので,しっかり押さえておきましょう。  肢3は,「相手が苦しんでいたという外部的事情がきっかけとなっているので,自己の意思により中止したとはいえず,Xに中止犯は成立しない」という部分が誤りです。外部的事情がきっかけであったとしても,反省して中止したのであれば,「自己の意思により」中止したといえる場合があるからです。たとえば,福岡高判昭61・3・6高刑集39・1・1は,大量の流血を見て驚愕すると同時に大変なことをしたと思い中止した殺人未遂の事案について,通常人であれば同様の中止行為に出るとは限らないことに加え,大変なことをしたとの思いには反省悔悟の情が込められていると考えられることもあげて,任意性を肯定しています。これに照らすと,肢3のXも,反省して中止したのですから,「自己の意思により中止したとはいえず,Xに中止犯は成立しない」ということにはなりません。なお,最高裁には,被害者の苦しむ様子を見て驚愕恐怖し殺害を続行しなかった事案について任意性を否定した判例がありますが(最決昭32・9・10刑集11・9・2202),それは,被告人からの悔悟の念があったとの主張を斥けた上での判断であり,反省の気持ちがあったのに任意性を否定したというものではありません。  肢4は,正しいです。実行の着手後,放置しても結果が発生する危険性がない場合には,それ以上の行為をしないという不作為であっても,中止行為にあたるといえるからです。すなわち,肢4のXは,軽い切り傷を負わせただけであり,この場合,放置しても相手が死亡する危険性はなかったと考えられますので,自己の意思によりそれ以上切りかかることをせずに立ち去れば,任意性と中止行為があったといえ,中止犯が成立します。


問題15
 公務執行妨害罪に関する以下の記述のうち,判例に照らして,正しいものを1つ選びなさい。

1 .Xは,交番に何度も無言電話をかけ,これによりその交番に勤務する警察官Aの職務の執行に支障をきたした。この場合,Xには公務執行妨害罪が成立する。
2 .警察官Aは,知人宅に身を隠していた脅迫事件の被疑者Xを発見し,逮捕状を示さず,被疑事実の要旨も告げずにXを逮捕しようとした。そこで,Xは,Aを殴って逮捕を拒んだ。この場合,Xに公務執行妨害罪は成立しない。
3 .Xは,無許可のデモ行進を解散させようとしている警察官Aを狙って石を投げたが,石はAの頭部をかすめたにすぎず,現実にはAの職務の執行に支障は発生しなかった。この場合,Xには公務執行妨害罪は成立しない。
4 .県立高校の校長Aが,教育委員会からの通達の内容を同校の教諭らに説明しようとしたところ,その通達の内容に異論のあった同校の教諭Xは,Aの説明を妨害するため,Aを突き飛ばし,転倒させた。この場合,Xには公務執行妨害罪は成立しない。


正解:2

〔コメント〕
 正解は,肢2です。判例・通説によると,公務執行妨害罪における公務員の職務執行は,適法なものでなければなりません(職務執行の適法性)。本肢の警察官Aは,逮捕状を示さず,被疑事実の要旨も告げずにXを逮捕しようとしており,この逮捕は明らかに違法です。そのため,職務執行の適法性の要件を満たさず,Xに公務執行妨害罪は成立しません。正答率が低かったのですが,職務執行の適法性は条文に書かれていない要件なので,気づきづらかったのかもしれません。  肢1,3,4は,誤りです。肢3,4を選んだ受験生は少なかったのですが,肢1を正答とした受験生は半数以上にのぼりました。公務執行妨害罪の行為は,暴行・脅迫に限られています。肢1のXは,無言電話をしたにすぎず,暴行・脅迫は行っていませんから,Xに公務執行妨害罪は成立しません。公務執行「妨害」罪という罪名から,職務の執行を妨害しさえすれば手段を問わず公務執行妨害罪が成立すると考えた受験生が多かったのかもしれません。公務執行妨害罪の行為が暴行・脅迫に限られることは,業務と公務の関係などの論点にも関連していますので,注意してください。

スタンダード〈中級〉コース

【法学一般】
問題1
以下の記述のうち,「リベラリズム」(自由主義)とよばれる政治思想に関する説明として,誤っているものを1つ選びなさい。

1.リベラリズムの下での政治的討議においては,各党派の利害打算に基づく妥協が不可欠である。
2.リベラリズムの下での政治的討議においては,相手方も受け入れると思われる理由を提示してお互いに説得し合うという態度が要請される。
3.リベラリズムは,経済活動の自由を,その不可欠の要素として含んでいる。
4.リベラリズムは,国家権力を制限するという点で立憲主義と共通の要素を含んでいる。

正解:1

〔コメント〕

 問題1は,リベラリズムの意味を問う問題です。リベラリズムは,他人の生き方を尊重するものであることから,その政治的討議においては相手方も受け入れると思われる理由を提示してお互いに説得し合うという態度を要請し(肢2),個人の領域に国家権力は介入しないことをモットーにすることから,経済的自由を不可欠の要素とし(肢3),国家権力を制限する点で立憲主義と共通の要素をもっています(肢4)。他方,政治的討議における各党派の利害打算に基づく妥協は,リベラリズムにおいても不可避ないし必要ではあっても,その本質的要素という意味で不可欠のものではありません。


問題6
 以下は,特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(平成26年法律第84号)の附則(平成30年法律第88号)の一部である。2条の下線部「この法律の施行の日」が意味するものとして,正しいものを1つ選びなさい。

附則
(施行期日)
第1条 この法律は,経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定の効力発生の日から施行する。ただし,附則第7条の規定は,公布の日から施行する。
(特定農林水産物等の登録の申請等に関する経過措置)
第2条 この法律の施行の日……前にされた特定農林水産物等の名称の保護に関する法律第6条の登録又は同法第15条第1項……の申請であって,この法律の施行の際,登録又は変更の登録をするかどうかの処分がされていないものについてのこれらの処分については,なお従前の例による。
(政令への委任)
第7条 この附則に規定するもののほか,この法律の施行に伴い必要な経過措置は,政令で定める。

1.経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定の効力発生の日
2.この法律の公布の日
3.附則第7条の規定に関しては,この法律の公布の日。それ以外に関しては,経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定の効力発生の日
4.政令で定める日

正解:1

〔コメント〕

 問題6は,法律の附則にしばしば見られる「この法律の施行の日」という文言がいつを指すかという,法令読解の基本的事項に関する問題です。本問の附則1条のように,法律の施行期日をいくつかに分けることがよく行われますが,そうした場合において,その後の附則の条項で「この法律の施行の日」や「この法律の施行の際」という文言がよく使われます。法律の施行期日はいくつかに分けられている場合であっても,たとえば,本附則では,第1条の本文,すなわち「この法律は,経済上の連携に関する日本国と欧州連合との間の協定の効力発生の日から施行する。」にいう施行の日が,後続の条項にいう「この法律の施行の日」となります。これは法令読解のしきたりですので,そのように理解しておきましょう。
【憲法】
問題4
 プライバシーに関する以下の記述のうち,判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1 .警察官による人の容貌等のビデオ撮影が許されるためには,捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われるとともに,現に犯罪が行われまたは行われた後間がないと認められる場合でなければならない。
2 .前科および犯罪経歴については,これをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益が存するのであって,市区町村長が漫然と弁護士会の照会に応じ,犯罪の種類,軽重を問わず,前科等のすべてを報告することは,公権力の違法な行使にあたる。
3 .逮捕の事実が書かれたインターネット上の記事のURL 等の情報を検索結果として提供する事業者に対し,逮捕された者が削除を求めることができるのは,当該情報を提供する理由に関する諸事情と比較衡量した際に,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合である。
4 .GPS 捜査は,個人の行動を継続的,網羅的に把握することを必然的にともなうため,個人のプライバシーを侵害しうるものであり,また,公権力による私的領域への侵入をともなうものであるから,刑事訴訟法上,特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分にあたる。

正解:1

〔コメント〕

 本問は,プライバシーに関する判例の知識を問うものです。正答率が約4分の1と低かったのですが,これは,問題集からの出題ではないことと,また,選択肢2以外が,比較的新しい判例を素材としているためであると思われます。しかし,いずれも非常に重要な判例であるので,間違った人はこの機会にしっかりと学習しておいてほしいと思います。
 選択肢1は誤りです。京都府学連事件(最大判昭44・12・24刑集23・12・1625)の判旨は多くの人が学習していると思いますが,これについて,最決平20・4・15刑集62・5・1398が,「警察官による人の容ぼう等の撮影が,現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではない」としたことは,現時点の判例の理解として欠くことのできないものです。同決定は,「捜査目的を達成するため,必要な範囲において,かつ,相当な方法によって行われた」ビデオ撮影を「捜査活動として適法」と判示しました。
 選択肢2は正しいです。前科照会事件(最判昭56・4・14民集35・3・620)は,そのように判示して,損害賠償請求を認容しました。本問ではこの選択肢のみが古典的な判例についての出題です。
 選択肢3も正しいです。Google検索結果削除請求事件(最決平29・1・31民集71・1・63)は,本肢のように判示して,削除請求を退けています。この決定は,検索サービスの意義について,判例が立場を明らかにした点でも重要です。類似の事件は各地で係争中であり,次々と新しい事例についての裁判所の判断が積み重ねられているところで,最高裁の今後の動向も注目されます。
 選択肢4も正しいです。GPS捜査違憲訴訟(最大判平29・3・15刑集71・3・13)は,そのように判示しています。GPS捜査に強制処分法定主義が及ぶとした判例の判断は重要であるし,プライバシーについて考える際にも参考になるものです。


問題7
 学問の自由に関する以下の記述のうち,判例に照らして,誤っているものを1 つ選びなさい。

1 .憲法23 条は,すべての国民に対して学問の自由を保障するが,大学が学術の中心として深く真理を探究することを本質とすることにかんがみて,特に大学における学問の自由を保障することを趣旨としたものである。
2 .大学における学問の自由を保障するために,伝統的に大学の自治が認められていることから,大学の教授その他の研究者の人事については,大学は自主的判断で行うことができ,大学の施設と学生の管理に関しても,ある程度自主的な秩序維持の権能が認められている。
3 .大学の学生の集会が真に学問的な研究またはその結果の発表のためのものではなく,実社会の政治的社会的活動にあたる行為をする場合には,大学の有する特別の学問の自由と自治は享有しない。
4 .大学における学生の集会も,大学の教授その他の研究者の有する特別な学問の自由と自治の効果の及ぶ範囲内でその自由と自治が認められるので,大学の公認した学内団体による大学の許可した学内集会であれば,特別な学問の自由と自治を享有する。

正解:4

〔コメント〕

 この問題では,学問の自由や大学の自治に関連して,ポポロ事件判決(最大判昭38・5・22刑集17・4・370)の理解が問われていました。肢1・肢3・肢4を選択した人はほぼ同数でしたが,内容が誤っていたのは肢4のみです。同判決は,肢1のような理由から,大学の特別な学問の自由と自治を認めました。ただ,その一方で,肢3のように,大学の学生の集会が「実社会の政治的社会的活動」にあたる場合には,この特別な学問の自由と自治は享有しないとしています。そして,結論的には,ポポロ劇団による演劇発表会は,「実社会の政治的社会的活動」にあたるとして,学問の自由と自治の享有を否定しました。
 ポポロ劇団の演劇発表会は,肢4にあるような,大学の公認した学内団体による大学の許可した学内集会でした。しかし,ここでは,上述のとおり,学問の自由と自治の享有が否定されています。したがって,肢4は誤りです。
 本問の解答に際して,本件演劇発表会が大学の公認団体による許可を受けたものだったという事実関係を思い出すことができた人であれば,この正答にたどり着くことは困難ではなかったのではないでしょうか。判例を学習する際には,事実関係にもしっかりと目を通すように心がけましょう。
【民法】
 2019年度法学検定スタンダード<中級>コース民法について,正答率が1番低かった問題2と,2番目に低かった問題13(いずれも問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。


問題2
 以下のうち,判例がある場合には判例に照らして,Aのした代理行為が無権代理とみなされないものを1つ選びなさい。

1.AはBから,B所有の甲土地を売却する代理権を与えられていた。この場合において,AがBを代理して,A自身を買主とする甲の売買契約を締結したとき。
2.AはBから,B所有の甲土地を売却する代理権を与えられていた。この場合において,Aが甲の買受けを希望するCから代理権を与えられて,BC双方を代理して甲の売買契約を締結したとき。
3.AはBから,BがCとの間で締結した土地売買契約について登記手続を行う代理権を与えられていた。この場合において,AがCからもこの土地売買契約について登記手続を行う代理権を取得し,BC双方を代理して登記手続を行ったとき。
4.AはBから,B所有の甲土地の処分に関する代理権を与えられていた。この場合において,AがBを代理して,AがCに対して負う債務を被担保債権とする抵当権を甲に設定する旨の抵当権設定契約をCとの間で締結したとき。

正解:3

〔コメント〕

 双方代理や利益相反にあたるケースの中で,例外的に「無権代理とみなされないもの」を選ぶという問題で,「BC間の土地売買に関する登記手続を,BC双方から代理権を受けたAが単独で行う」という選択肢3を選ぶものでした。こうしたケースは,「債務の履行」(民法108条1項ただし書)として,双方代理でありながら無権代理とみなされない典型的なものですが,正解率は3分の1ほどにとどまりました。
 典型例でありながら正解率が伸びなかったのには,選択肢の中の「双方を代理して」というキーワードから無権代理と決めつけてしまった受験生が多くいたことが原因ではないかと思います。普段から原則と例外を組み合わせながら勉強するとともに,問題を解くにあたって,選択肢の中のキーワードを拾い読みするだけではなく,文全体の意味を正しく把握するよう心がけることが大切です。
 また,この問題は,正解の選択肢よりも選択肢4を選ぶ受験生が多くいる(36.9%)という「逆転現象」が起きていました。選択肢4は,平成29年改正で新設された民法108条2項にあたるケースであり,直接にはまだ勉強したことがないという受験生も多かったかもしれません。しかし,選択肢4のように,代理人が代理権を利用して自己の債務の担保を設定することは,自己の利益をはかる行為でもありますから,効力を認めることに対して疑問をもつべき場合だと言えます(これに対して正答である選択肢3は,本人の利益を害するようなものではありません)。このように,当事者の利害とも結びつけながら効果を考えるということも,普段から実践して欲しいと思います。


問題13
 契約上の地位の移転に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.Bは,Aとの間で,Aの所有する甲土地を買う旨の契約を締結した(本件売買契約)。その後,本件売買契約上の買主の地位が,BからCに移転した。この場合,AはCに対して代金の支払を請求することができる。
2.Bは,Aとの間で,Aの所有する甲土地を買う旨の契約を締結した(本件売買契約)。その後,Bは,Cとの間で,本件売買契約上の買主の地位をCに譲渡する旨の合意をし,BはAに対してその旨を通知した。この場合,Aの承諾がなくても,本件売買契約上の買主の地位はCに移転する。
3.Aは,Bとの間で,Aの所有する乙建物を2年間賃貸する契約を締結し,乙建物をBに引き渡した(本件賃貸借契約)。その後,Aは乙建物をCに売却した。この場合,本件賃貸借契約上の賃貸人の地位は,当然にCに移転する。
4.Aは,その所有する丙土地を,駐車場として,Bに賃貸していた(本件賃貸借契約)。本件賃貸借につき登記はされていない。その後,Aは,丙土地をCに売却するとともに,Cとの間で,本件賃貸借契約上の賃貸人の地位をCに移転させる旨の合意をした。この場合,本件賃貸借契約上の賃貸人の地位は,Bの承諾がなくても,Cに移転する。

正解:2

〔コメント〕

 契約上の地位の移転について,539条の2の原則が適用される場面(問題では売買)と,不動産賃貸借に関する605条の2・605条の3という例外が適用される場面とを対比する問題で,「売買契約上の買主の地位の移転を売主の承諾なしに行うことができる」という選択肢2を「誤り」として選ぶものです。正答率は4割弱で,問題集に載っていない出題としてはそこそこの正解率ですが,選択肢3を選んだ受験生もそれに匹敵する程度(35.9%)いましたし,全体的な成績が良かった人でも誤った選択肢を選んでいたという傾向がみられました。
 この選択肢3は,選択肢2で問いとなっている原則(契約上の地位の移転には相手方の承諾が必要)に対して,不動産賃貸借については例外ルールがある(賃貸人の地位の移転に賃借人の承諾は不要)ことを尋ねている問題ですが,その内容については,問題集でも扱われており,解説まで読み込んでいれば,選択肢3が正しい内容であること(つまり誤答であること)は見抜くことができたのではないかと思います。普段の勉強では,問題集の解説もよく読むとともに,六法の「参照条文」などにも目を通して,原則と例外という枠組みを意識しておくと,こうした問題にも十分に対応できると思います。
【刑法】
 スタンダード刑法については、正答・誤答に顕著な特徴がみられた問題は特にありませんでした。
【刑事訴訟法】
問題6
 以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.検察官は,少年の被疑事件について捜査を遂げた結果,犯罪の嫌疑があると思料したとしても,直ちに公訴の提起をしてはならず,当該事件をいったん家庭裁判所に送致しなければならない。
2.検察官は,公訴の提起と同時に,即決裁判手続の申立てをすることができる場合がある。
3.検察官は,公訴の提起と同時に,簡易公判手続の申立てをすることができる場合がある。
4.検察官は,公訴の提起と同時に,略式命令の請求をすることができる場合がある。

正解:3

〔コメント〕

 問題集をもとにした出題ですが,正答率が低い結果となりました。選択肢1は,少年法42条の規定(全件送致主義)により正しい記述です。少年事件については家庭裁判所に先議権があるためです。また,検察官が起訴と同時に請求できる手続には,即決裁判手続の申立て(刑訴350条の2),略式命令の請求(刑訴462条)があります。したがって,選択肢2および選択肢4は,正しい記述です。これとは異なり,簡易公判手続による審判は,公判期日において被告人が有罪を自認した訴因に限り,裁判所の決定により,なされるものです(刑訴291条の2)。起訴と同時になされる決定ではなく,また,検察官が申立てをするものでもありません。したがって,選択肢3は誤っている記述で,これが正解肢となります。判例,学説,あるいはいわゆる論点の学習の前提として,刑事手続の基本的な流れをしっかりおさえるようにしてください。
【商法】
 2019年度法学検定試験スタンダード〈中級〉コースにおいて正解率が低かった問題として,問題14,問題15についてコメントをします。両問とも,法学検定試験の問題集からの出題ではなく,2019年度法学検定試験に際して新たに作成された問題です。


問題14
 以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.A株式会社は,自己を吸収合併消滅会社として,A株式会社の議決権の80%を有するB株式会社との間で吸収合併を行おうとしている。この場合,A株式会社において,当該吸収合併を承認する株主総会決議は不要である。
2.C株式会社は,自己を吸収分割会社として,資本関係のないD株式会社との間で吸収分割を行おうとしている。その際,D株式会社に承継させる資産の額は,C株式会社の総資産額の4分の1である。この場合,C株式会社において当該吸収分割を承認する株主総会決議は必要である。
3.E株式会社は,自己を譲受人として,F株式会社との間で,F株式会社の事業の一部の譲受けを行おうとしている。その際,E株式会社からF株式会社に対して交付される財産の帳簿価格は,E株式会社の純資産額の4分の1である。この場合,E株式会社においてこの事業の一部の譲受けを承認する株主総会決議は不要である。
4.G株式会社は,株式移転を単独で行い,これにより完全親会社となるH株式会社を設立し,自己はその完全子会社となろうとしている。この場合,G株式会社においてこの株式移転を承認する株主総会決議は必要である。

正解:1

〔コメント〕

 問題14は,合併・会社分割・事業譲受に関して,横断的に略式手続(特別支配会社との事業譲受・組織再編)または簡易手続について確認するとともに,株式移転の手続を確認する問題です。誤答として,正しい選択肢を誤ったものとして選択しているのが多かったのは選択肢3です。
 略式手続にあって,株主総会決議の省略が認められるのは特別支配会社(議決権の90%以上を有する会社)が存在する場合ですから(会社468条1項・784条1項・796条1項),選択肢1が誤っていることがわかります。
 消滅会社等で簡易手続として株主総会決議の省略が認められているのは,会社分割の場合で,分割承継会社に承継される資産の額が分割消滅会社の総資産に占める割合が5分の1以上のときですから(会社784条2項),選択肢2は正しい選択肢です。他方,存続会社等や事業譲渡の譲受会社等で簡易手続として株主総会決議の省略が認められるのは,対価として分割会社またはその株主に渡される対価の合計額が存続会社等や譲受会社の純資産に占める割合が5分の1以上の場合です(会社796条2項・468条2項)。このため,選択肢3の「純資産額の4分の1」の対価を得ているのに,株主総会決議が不要であるというところをみて,選択肢3を誤っている選択肢として解答していると思われます。しかしながら,そもそも,事業譲受は,全部譲受の場合は事業全体を承継することから,合併に近い効果が発し譲受会社に影響を及ぼすことから株主総会決議による承認を要求します。もっとも,事業の一部譲受の場合は譲受会社の取締役の判断により譲受会社の利益となるように譲り受ける事業の範囲が調整されているはずです。事業の一部譲受は,業務執行行為の性質が強く,取締役らの判断にゆだねられるべきもの
として,株主総会決議による承認を要求していません(問題があれば,判断をした取締役らの任務懈怠責任で対応されます)。このため,事業の一部譲受であることから,株主総会決議が不要であるという選択肢3の記述は正しいものとなります。  なお,選択肢4は,通常の株式移転ですから,株式移転により完全子会社となる会社(株式移転完全子会社)には,株主総会決議により株式移転計画の承認が要求され(会社804条),正しい記述です。
 以上のように,間違いの記述と誤解した解答が多かった選択肢3は2つのことを問うていて,短い試験時間の中では1つのみから正誤を考えてしまう受験生が多かったことが正解率の低くなった原因であろうと思います。


問題15
以下の記述のうち,合名会社と合同会社との両方に該当するものを1つ選びなさい。

1.社員は,金銭その他の財産のほか,信用や労務を出資の目的とすることができる。
2.新たに社員となろうとする者は,出資の履行を完了しなければ,その会社の社員となることができない。
3.退社による持分の払戻しにより会社が社員に対して交付する金銭等の帳簿価額が当該払戻しの日の剰余金額を超える場合,会社の債権者は,会社に対し異議を述べることができる。
4.社員の除名が認められる。

正解:4

〔コメント〕

 問題15は,合名会社と合同会社との比較を問う問題です。問題集では,株式会社と持分会社との比較はなされていますが,こういう形での出題はなされておらず,合名会社や合同会社毎にその特色を考えさせる問題が多くありました。そこで合名会社と合同会社の比較を通して,それらの共通性や相違点に関する理解を問う問題新作として出題しました。
 選択肢1~3はそれぞれの特色として問題集で示されていたものであり,解説では,他の持分会社と比較してその特色にはどのような意義や違いがあるかを記述していますので,解説を読んだ上で,制度を理解してくれれば,選択肢1~3が,合名会社か合同会社のいずれかにあてはまることがわかります(選択肢1は合名会社のみにあてはまり,選択肢2・3は合同会社にのみあてはまります)。合名会社は無限責任社員のみを構成員とし,会社の債権者は無限責任社員にも債務の弁済を求めることができますので,会社資産の充実の要請が低いですが,他方で,合同会社は有限責任社員のみを構成員とする物的会社ですから,会社資産の充実の要請が高くあることが,違いを生み出します。誤って両方に該当するとした受験生が多かったのは選択肢3ですが,無限責任社員は退社登記をする前に存在していた会社債権者に対して従前の責任範囲内で弁済する責任負うので(会社612条1項),選択肢3のような規制を課して債権者を保護する必要性はありません。
 両者に共通するのは,社員が会社の執行機関として活動し,社員間相互の関係性が重視されるという持分会社の運営上の特色です。選択肢4にある,社員の除名は,ある社員について会社に対する重要な義務違反などの法定の事由(会社859条)がある場合に,社員としての資格をその社員の意思に反して剥奪することをいい,除名される社員を除いた全社員の過半数の決議により実行できます。合名・合資・合同会社(持分会社)は,社員の相互信頼に基づく組合的な団体であり,会社の内部関係を維持・発展させ,事業目的の遂行を円滑に実行させるという観点からは,信頼関係の失われた者の排除を認めることが,必要であると考えられているために,除名が認められています。

【学習のアドバイス】  学習としては,問題集の問題を読み,解答を見て正誤を確認するだけでなく,解説をよく読み,基本的なテキストと問題集を往復することで,知識の定着をするような学習を期待します。また,試験時間は短いですが,選択肢をよく読むことも重要です。
【行政法】
問題4
 法規命令と行政規則に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.「地方自治法施行令」は,法規命令にあたる。
2.「地方自治法施行規則」は,法規命令にあたる。
3.地方自治法15条1項に基づき普通地方公共団体の長が制定した「規則」は,行政規則にあたる。
4.地方自治法238条の4第7項に基づく行政財産の使用許可について行政庁が定めた審査基準は,行政規則にあたる。

〔参照条文〕地方自治法
第15条 普通地方公共団体の長は,法令に違反しない限りにおいて,その権限に属する事務に関し,規則を制定することができる。
2 普通地方公共団体の長は,法令に特別の定めがあるものを除くほか,普通地方公共団体の規則中に,規則に違反した者に対し,5万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。
(行政財産の管理及び処分)
第238条の4
1~6 (略)
7 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
8・9 (略)

正解:3

〔コメント〕

 本問は,行政法の学問上の概念である法規命令および行政規則と,実定法上の法形式である施行令,施行規則,普通地方公共団体の長の規則および審査基準との対応関係を問うものです。正答率は23.3%と低くなりました。
 まず,法規命令および行政規則は,法的性質(国民の権利義務に直接関わるか否か)に着目した学問上の概念であって,「施行規則」や「長の規則」等の名称とは無関係であることに注意する必要があります(「施行規則」および「長の規則」は,いずれも行政規則ではなく法規命令にあたります)。その上で,施行令は内閣が制定する政令であること,施行規則は各省大臣(本問では総務大臣)が制定する省令であること,長の規則は,問題文に掲載されている地方自治法15条2項により過料の規定を設けることができるとされていることからも明らかなように,住民の権利義務を直接定めるものであること,審査基準(行政手続法2条8号ロ,5条)は,法律の委任に基づかずに行政庁が自ら基準を定めるものであることに注意すれば,正解にたどり着けると思います。
 行政法に限らず法律学の学習においては,概念の定義を抽象的に覚えただけでは,まだ本当の理解に到達していません。その概念にあたるものの具体例を挙げられること,また,具体例を見てそれがどの概念にあたるかを判断できることが重要です。


問題11
 行政不服審査法に基づく審査請求と行政事件訴訟に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.行政事件訴訟の場合とは異なり,行政不服審査法に基づく審査請求では,処分の違法性だけでなく不当性についても審査することができる。
2.行政事件訴訟の場合とは異なり,行政不服審査法に基づく審査請求では,審理員が当事者の主張しない事実も取り上げ証拠も自ら収集するという意味での職権探知が認められる。
3.行政事件訴訟の場合とは異なり,行政不服審査法に基づく審査請求では,不作為についての審査請求を設けていない。
4.行政事件訴訟の場合とは異なり,行政不服審査法に基づく審査請求では,公法上の法律関係に関する審査請求を設けていない。

正解:3

〔コメント〕

 選択肢2を正解(誤った選択肢)と考えた受験生が比較的多かったようですが,教科書,テキスト等の「取消訴訟の審理」,「審査請求の審理」といった項目に記載されているように,取消訴訟をはじめとした行政訴訟では民事訴訟と同様に職権探知が禁止される(弁論主義が妥当する)のに対し,行政不服審査法に基づく審査請求では,行政過程における争訟であること,行政不服審査法は行政運営の適正性の確保をも目的とするものであることなどを根拠に,これが認められると解されており,判例(最判昭29・10・14民集8・10・1858)もこれを肯定しています。仮に,これらの知識が不十分であったとしても,問題集に収録された選択肢から3が誤りであることは明らかであり,他の選択肢の正誤に確信がもてないとしても3が正解であるという結論にたどり着くことができるはずです。初見の選択肢に惑わされることがないよう,解説の精読を含めて問題集に繰り返し取り組んで,基本的な知識を定着させておくことが望まれます。
【基本法総合】
問題3(憲法)
 財政に関する以下の記述のうち,誤っているものを1 つ選びなさい。

1 .予算について,参議院で衆議院と異なった議決をした場合において,両院協議会を開いても意見が一致しないときには,衆議院の議決が国会の議決となる。
2 .国会は,内閣によって提出された予算について,増額修正することも減額修正することもできる。
3 .公の支配に属しない教育等の事業への公金の支出禁止の趣旨を,濫費防止のために支出の統制を確保するためだと解すれば,私学助成は違憲と考えることになる。
4 .憲法は,国の収入支出の決算はすべて毎年会計検査院が検査し,内閣は,次の年度に,その検査報告とともに国会に提出しなければならないと定めている。

正解:3

〔コメント〕

 この問題は,財政に関する憲法規定の理解を問うもので,肢3が正解です。肢3に示されている見解は,緩和解釈説と呼ばれるもので,同条の趣旨を公金支出の統制確保であるとし,それが確保されていれば「公の支配」に属するとするため,相応の統制権が認められている現行の私学助成は合憲だとします。肢2を正解とする誤答も多かったですが,増額・減額いずれについても修正が認められることには異論がなく,本肢は正しい記述です。ただし,修正権の範囲については見解が分かれています。肢1や4は条文の知識(60条2項,90条1項)を問うものです。統治機構の学修においては,人権の場合以上に条文をよく読むように心がけて下さい。


問題13(刑法)
 実行の着手に関する以下の記述のうち,誤っているものを1 つ選びなさい。

1 .実行の着手は結果発生の現実的危険性が生じた時点で認められるとする見解によれば,建造物に灯油をまいて放火する目的でその内部に灯油とライターを持ち込んだ時点では,放火罪の実行の着手は認められない。
2 .実行の着手は構成要件該当行為を開始した時点で認められるとする見解によれば,住居内の金品を窃取する目的で住居に侵入し,物色行為を開始した時点では,窃盗罪の実行の着手が認められる余地はない。
3 .実行の着手は結果発生の現実的危険性が生じた時点で認められるとする見解によれば,詐欺罪の実行の着手が認められるためには,現金をだまし取ろうとする相手に対し現金の交付を求める文言を述べる必要がある。
4 .実行の着手は構成要件該当行為に密接な行為を開始した時点で認められるとする見解によれば,転倒させた相手をその場で刺し殺す目的で包丁を所持し,相手を転倒させた場合,その時点で殺人罪の実行の着手が認められる。

正解:3

〔コメント〕

 本問は,実行の着手に関する基本的な理解を問うもので,その形式は,4つの選択肢の中から「誤っているもの」を1つ選ぶというものでした。正解(誤っているもの)は,肢3です。ところが,結果をみると,肢2(正しいもの)を誤って選んでしまった受験生が66%に達する一方,正解である肢3を選んだ受験生は,たったの10%にとどまりました。肢2を選ぶ受験生がこんなにたくさん出たのは,予想外でした。以下では,肢2,肢3について解説を加えておきます。
 肢2は,正しいです。正解がどれかわからない中で,「余地はない」という表現にひっかかってしまったのかもしれません。「実行の着手は構成要件該当行為を開始した時点で認められるとする見解」(形式的客観説)によれば,「構成要件該当行為」を開始しないと,実行の着手が認められません。肢2で問題となっている窃盗罪の場合,構成要件該当行為は「窃取」(財物の占有を占有者の意思に反して移転させる行為)ですから,この見解によれば,「窃取」を開始しないと,窃盗罪の実行の着手が認められないことになります。肢2では,物色行為が開始されていますが,物色行為は,窃取する財物を「探す」行為であって,「窃取」ではありませんので,物色行為を開始した時点では,「窃取」を開始したとはいえません。よって,この見解によれば,窃盗罪の実行の着手が認められる余地はありません。
 肢3は,誤りです。詐欺罪についての最近の判例(最判平30・3・22刑集72・1・82)を素材にした選択肢だったため,難しかったのかもしれません。この判例によれば,詐欺罪の実行の着手は,相手に対し財物の交付を求める文言を述べる前の時点であっても,認められることがあります。事案は,詐欺の被害回復に協力するとの名目で,警察官であると誤信させた被害者に預金から現金を払い戻させ,警察官を装って被害者宅を訪問する予定でいた被告人にそれを交付させてだまし取るという計画に基づき,前日に特殊詐欺の被害にあっていた被害者に対し,警察官を名乗る氏名不詳者が電話で「預金を下ろして現金化する必要がある」,「前日の詐欺の被害金を取り戻すためには警察に協力する必要がある」,「これから間もなく警察官が被害者宅を訪問する」との嘘を述べたが,被告人が被害者宅に到着する前に逮捕され,詐欺は失敗に終わったというものです。これについて,最高裁は,「本件嘘を真実であると誤信させることは,被害者において,間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高めるもの」のであり,「被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手があったと認められる」としました。この事案のように,相手に対し財物の交付を求める文言を述べる前の時点であっても,財物が交付される現実的危険性が生じている場合があり,この場合には,肢3の「実行の着手は結果発生の現実的危険性が生じた時点で認められるとする見解」(実質的客観説)からも,詐欺罪の実行の着手が認められる余地があります。

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