2020年11月29日に実施いたしました法学検定試験のうち,ベーシック〈基礎〉コースおよびスタンダード〈中級〉コースの各科目から数問ずつ,試験結果を踏まえた講評を掲載いたします。復習に是非お役立てください。
ベーシック〈基礎〉コースの講評
スタンダード〈中級〉コースの講評
ベーシック〈基礎〉コース
【法学入門】 問2 法令の効力に関する以下の記述のうち,正しいものを1 つ選びなさい。 1 .「この法律に定めるもののほか,更生手続に関し必要な事項は,最高裁判所規則で定める。」と定める会社更生法14 条の規定は,最高裁判所規則の特別法である。 2 .「許可事業者が公共下水道の排水施設に接続設備を設ける場合については,下水道法第24条の規定は適用しない。」と定める都市再生特別措置法19 条の7 第7 項の規定は,下水道法24 条の規定の一般法である。 3 .土地基本法や環境基本法などの「○○基本法」という名の法律は,その分野の事項に関する根本法であり,その分野に属する個別の法律の内容がそれに抵触する場合には,「○○基本法」が個別の法律に優先する。 4 .「愛玩動物看護師は,獣医師法第17 条の規定にかかわらず,診療の補助を行うことを業とすることができる。」と定める愛玩動物看護師法40 条1項の規定は,獣医師法17 条の規定の特別法である。 正解:4 〔講評〕 問題2が問う法令の効力に関しては,同じ事柄について複数の法令が相矛盾する規定を有している場合,それが特別法と一般法とが矛盾するときには,前者が優先し,一般法の規定は適用の余地がなくなります(「特別法は一般法に優先する」)。選択肢3を正しいとした誤答が目立ちましたが,土地基本法や環境基本法などの「○○基本法」は,その分野の基本となる法律ではあるが,その分野に属する個別の法律との関係では,同じく法律である以上形式的には同一の効力を有しており,個別の法律に対して「○○基本法」が一般的に優先するという関係はありません。正解は4です。 問6 つぎの一連の条文は皇室典範からの抜粋である。その30 条2 項に関する以下の記述のうち,正しいものを1 つ選びなさい。 皇室典範 第28 条 (略) 2 議員は,皇族2 人,衆議院及び参議院の議長及び副議長,内閣総理大臣,宮内庁の長並びに最高裁判所の長たる裁判官及びその他の裁判官1 人を以て,これに充てる。 3 議員となる皇族及び最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は,各々成年に達した皇族又は最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の互選による。 第30 条 (略) 2 皇族及び最高裁判所の裁判官たる議員の予備議員については,第28 条第3 項の規定を準用する。 3 (以下略) 1 .議員となる皇族の予備議員の選出にあたり,最高裁判所の裁判官は全員,選挙権をもつ。 2 .議員となる最高裁判所の長たる裁判官の予備議員の選出にあたり,最高裁判所の長たる裁判官は,選挙権をもつ。 3 .議員となる最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の予備議員の選出にあたり,最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官は全員,選挙権をもつ。 4 .議員となる最高裁判所の長たる裁判官以外の裁判官の予備議員の選出にあたり,最高裁判所の裁判官のうち議員でない裁判官は,選挙権をもつ。 正解:4 〔講評〕 問題6では,皇室典範30条2項にある「最高裁判所の裁判官たる議員の予備議員」は,議員である最高裁判所の長の予備議員と,議員となる最高裁判所の長以外の裁判官1人の予備議員です。議員である最高裁判所の長の予備議員の候補者は,最高裁判所長官と,互選によってすでに議員として選出された最高裁判所裁判官とを除く,最高裁判所裁判官であり,最高裁判所長官に選挙権はありません(なお,「互選」とある以上,選挙権と被選挙権は一致します)。すると,すでに互選によって議員として選出された最高裁判所判事は除かれますから,肢3は誤りとわかります。その理屈で考えていくと,正解が4とおわかりいただけるでしょう。 |
【憲 法】 問7 職業選択の自由に関する以下の記述のうち,判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。 1.薬局開設の距離制限をともなった許可制は,不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的であるとはいえず,違憲である。 2.小売市場の許可制は,中小企業保護政策としてとられたものであり,規制手段・態様も著しく不合理であることが明白ではないので,合憲である。 3.酒類販売業の免許制は,酒税の適正かつ確実な賦課徴収をはかるという財政目的によるものであるが,著しく不合理であるとまではいえず,合憲である。 4.公衆浴場開設の距離制限をともなった許可制は,浴場の衛生環境の保持等の目的のために必要かつ合理的といえず,違憲である。 正解:4 〔講評〕 この問題は,職業選択の自由に関する基本的な判例の理解を問うものです。 選択肢1は,薬事法距離制限違憲判決(最大判昭50・4・30民集29・4・572)の,選択肢2は小売市場距離制限事件判決(最大判昭47・11・22刑集26・9・586)の,選択肢3は酒類販売免許制事件判決(最判平4・12・15民集46・9・2829)の,いずれも判示するところであり正しいです(酒税法については最判平10・3・24刑集52・2・150も参照)。 これに対して,公衆浴場法については,①最大判昭30・1・26刑集9・1・89,②最判平元・1・20刑集43・1・1,③最判平元・3・7判時1308・111の3つの判決がありますが,いずれも合憲判決で,したがって選択肢4は誤りで,正解は4となります。 選択肢1を選んで間違った人が多いので,少し補足します。 薬事法距離制限違憲判決はつぎのような構造をとっています。①「規制措置が憲法22条1項にいう公共の福祉のために要求されるものとして是認されるかどうかは,これを一律に論ずることができず,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによつて制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量したうえで慎重に決定されなければならない」。②「この場合,右のような検討と考量をするのは,第一次的には立法府の権限と責務であり,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及びその必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまるかぎり,立法政策上の問題としてその判断を尊重すべきものである」。③「しかし,右の合理的裁量の範囲については,事の性質上おのずから広狭がありうるのであつて,裁判所は,具体的な規制の目的,対象,方法等の性質と内容に照らして,これを決すべきものといわなければならない」。④「一般に許可制は,単なる職業活動の内容及び態様に対する規制を超えて,狭義における職業の選択の自由そのものに制約を課するもので,職業の自由に対する強力な制限であるから,その合憲性を肯定しうるためには,原則として,重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し,また,それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく,自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的,警察的措置である場合には,許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの,というべきである」。⑤「薬局の開設等の許可基準の1つとして地域的制限を定めた薬事法6条2項,4項(これらを準用する同法26条2項)は,不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから,憲法22条1項に違反し,無効である」。 したがって,選択肢1は,上の⑤の判示そのままであって,誤っていることはありません。もしかすると,選択肢1が上の判旨④の通りでないことから誤りだと考え人が多かったかもしれず,そうだとすれば,簡潔な記述で正誤を問おうとしたことが却って徒になった感じもしますが,22条で薬事法距離制限違憲判決が唯一の違憲判決であることはあまりに著名なので,意外な感じがしました。 なお,選択肢4の,公衆浴場法についても補足しておきます。選択肢4の上記①の判決は,公衆浴場の「濫立により,浴場経営に無用の競争を生じその経営を経済的に不合理ならしめ,ひいて浴場の衛生設備の低下等好ましからざる影響を来たすおそれなきを保し難い」と述べたうえで,「国民保健及び環境衛生」の観点から,距離制限を合憲としたので,立法目的については本肢のように述べた側面もあり,肢1の判決が出るに及んで,その整合性も議論されました。その後,②の判決が,「公衆浴場が住民の日常生活において欠くことのできない公共的施設」であることに言及して,肢2の判決を先例として合憲と判断し,③の判決は,立法目的について,「国民保健及び環境衛生の確保にあるとともに,公衆浴場が自家風呂を持たない国民にとって日常生活上必要不可欠な厚生施設であり,入浴料金が物価統制令により低額に統制されていること,利用者の範囲が地域的に限定されているため企業としての弾力性に乏しいこと,自家風呂の普及に伴い公衆浴場業の経営が困難になっていることなどにかんがみ,既存公衆浴場業者の経営の安定を図ることにより,自家風呂を持たない国民にとって必要不可欠な厚生施設である公衆浴場自体を確保しようとすることも,その目的としている」としたうえで,適正配置規制は必要かつ合理的で合憲としています。 問10 両議院の議決に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。 1.予算について,衆議院と参議院が異なった議決をした場合,両院協議会を開いても意見が一致しないときは,衆議院の議決が国会の議決となる。 2.条約の締結に必要な国会の承認について,衆議院と参議院が異なった議決をした場合,両院協議会を開いても意見が一致しないときは,衆議院の議決が国会の議決となる。 3.法律案の議決について,衆議院と参議院が異なった議決をした場合,両院協議会を開いても意見が一致しないときは,衆議院の議決が国会の議決となる。 4.内閣総理大臣の指名の議決について,衆議院と参議院が異なった議決をした場合,両院協議会を開いても意見が一致しないときは,衆議院の議決が国会の議決となる。 正解:3 〔講評〕 本問は,両議院の議決についての基本的な知識を問うものです。 憲法上,衆議院と参議院の議決が対立した場合,その対立解消の一手段として,両院協議会が用意されています。両院協議会については,憲法59条3項,60条2項(および同項を準用する61条),67条2項に規定されていますが,この中には,両院協議会の開催が義務的な場合と,任意的な場合とがあります。 義務的な場合とは,①予算の議決(60条2項),②条約承認の議決(61条),③内閣総理大臣の指名の議決(67条2項)について,両院で異なる議決がなされた場合です。これらは,事柄の性質上,結論を先延ばしにできないものばかりであり,両院の対立を早期に解決することが必要な事項です。それゆえ,憲法は,上記①から③については一定期間内に必ず結論にたどり着くよう,その手続を定めています。すなわち,衆議院と参議院が異なった議決をした場合には,両院協議会の開催を義務づけ,それでも一致しないときは,衆議院の議決が自動的に国会の議決となる仕組みを採用しています。 これに対して,④法律案の議決については,憲法は両院の対立を解決する必要性をそれほど強くは認めていません。両院が異なった議決をした場合も,両院協議会の開催は任意的(59条3項)ですし,衆議院の議決が自動的に国会の議決となることはありません。衆議院の議決を国会の議決とするためには,衆議院の出席議員の3分の2以上の多数による再可決が必要(59条2項)です。 本問は,条文の知識が備わっていれば,それだけで正答することが可能な問題でした。また,仮に解答時に条文知識が抜け落ちていたとしても,予算の議決や条約の承認,内閣総理大臣の指名の性質が理解できていれば,正答にたどり着くことは容易だったように思われます。にもかかわらず,約7割の人が本問を正解することができませんでした。この結果は,内容理解に努めず暗記偏重の学習をしている人が多数に及ぶ可能性を示唆しています。本問は,両院の関係,衆議院の優越のあり方の本質にもかかわるものですので,十分に復習していただけると幸いです。 |
【民 法】 2020年度法学検定ベーシック<基礎>コース民法の問題について,ここでは,正答率が1番低かった問題16と,2番目に低かった問題8を取り上げて講評します。いずれの問題も,問題集には載っていない問題ですが,問題集や教科書で,基礎をきちんと勉強していれば解けたと考えられる問題です。問題集をどのように読むべきだったのかを,これら2つの問題で確認しておきましょう。 問16 消費貸借・使用貸借に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。 1.書面でする消費貸借の貸主は,借主が金銭その他の物を受けとるまでは,契約の解除をすることができる。 2.消費貸借の借主は,返還の時期の定めの有無にかかわらず,いつでも返還をすることができる。 3.書面によらない使用貸借の貸主は,借主が借用物を受けとるまでは,契約の解除をすることができる。 4.使用貸借の借主は,いつでも契約の解除をすることができる。 正解:1 〔講評〕 消費貸借・使用貸借について「誤っているもの」を答える問題で,書面でする消費貸借の「貸主」が,借主が物を受け取るまで解除権をもつという内容の選択肢1を選択するものでした。民法587条の2第2項によれば解除権をもつのは「借主」です。正解率は3割を切っており,誤答である選択肢2を選んだ割合の方が大きく,また同じく誤答である選択肢4を選んだ割合とあまり変わりませんでした。 貸主から解除できるのか,借主からなのかというのは,混乱しがちかもしれません。しかし,これら貸借型の契約は,契約から利益を得るのは「物を利用できる」地位に立つ「借主」であるという基本的な構造を頭におくことで,情報を整理することができるはずです。つまり,利益を受ける借主の側からその利益を放棄する(契約を解除する)ことはできるが,借主に利益を与える地位に立つ貸主から契約を解除することはできないのです。 単に1つ1つの条文を覚えるというのでなく,契約全体の構造に結びつけることで理解が進みますし,情報の混乱を防ぐこともできます。 問8 以下のうち,所有権の取得が原始取得にあたらないものを,1つ選びなさい。 1.取得時効による所有権の取得 2.即時取得による所有権の取得 3.遺失物の拾得による所有権の取得 4.遺贈による所有権の取得 正解:4 〔講評〕 所有権の取得が「原始取得」と「承継取得」に区別されることを踏まえて,原始取得にあたらない(承継取得にあたる)ものを選ぶ問題で,選択肢4「遺贈による所有権の取得」を選択するものでした。正解率は3分の1強であり,誤答である選択肢3「遺失物拾得」を選んだ割合(3分の1弱)とあまり変わりませんでした。 この問題は,それ自体としては問題集に掲載されていないものの,『2020年法学検定試験問題集ベーシック<基礎>コース』問題44と同じテーマであり,本問の選択肢はすべて問題44の解説の中に登場しているものです(ですので本問の解説としては,問題44の解説を参照してください)。 問題集の問題は,その問題を正解することができればよいという趣旨のものではなく(ましてや単に書かれている正解を暗記すればよいというものではなく),解説を読んで理解することで,民法の理解を深めてもらうことをねらいとしています。問題44の解説は,たくさんの制度が登場しており,読むのが面倒に感じられるものかもしれません。しかし,その記述を自分なりに図表に整理をし,その作業の過程で浮かんでくる疑問について,教科書などで調べたり,先生に質問をしたりすれば,所有権の取得についての理解がずっと深くなっていたはずです。問題集は,ぜひ解説まで読み込んで活用してください。 |
【刑 法】 問6 信頼の原則に関する以下の記述のうち,判例・裁判例に照らして,正しいものを1つ選びなさい。 1.相手方が交通法規に違反していることを認識していたとしても,信頼の原則は適用されうる。 2.相手方が誰であっても,信頼の原則は適用される。 3.行為者自身が交通法規違反をしていたとしても,信頼の原則は適用されうる。 4.交通法規を守らずに通行する例がかなり多い状況であることがよく知られている場合であったとしても,信頼の原則は適用されうる。 正解:3 〔講評〕 信頼の原則が適用されるためには,(1)一方が他方の関与者の適切な行動を当てにして信頼することのできる社会的状況が成立していること,(2)実際に他方の関与者の適切な行動を信頼していたこと,(3)他人の適切な行動を信頼することが客観的に相当であることが必要です。肢2,4を選んだ回答が多かったようですが,幼児,老人のように,交通法規に従って行動することができない場合には,行為者はその相手方の適切な行動を当てにして信頼する根拠が失われますから,相手方が誰であっても信頼の原則が適用されるわけではありません。また,相手方が交通法規に違反していることを認識している場合,交通法規を守らずに通行する例がかなり多い状況であることがよく知られている場合も,(1)の要件が欠けますから,信頼の原則は適用されません。したがって,肢1,2,4は不正解となります。 これに対して,行為者自身が交通法規違反をしている場合は,自ら違反行為をしておいて,相手方の適切な行為を信頼することは相当ではない(クリーンハンズの原則)とする見解もありますが,違反行為が結果の直接的な原因でない場合や,違反行為が結果の危険性を増大させるとはいえない場合のように,違反の有無にかかわらず相手方の適切な行動を信頼してよい状況がありえますから,この場合には信頼の原則が適用される場合があります。したがって,正解は3ということになります。 信頼の原則の根拠,そこから導き出される原則適用のための要件に注意してください。 |
スタンダード〈中級〉コース
【法学一般】 問4 検察庁法13 条1 項「検事総長及び次長検事,検事長若しくは検事正に事故のあるとき,又は検事総長及び次長検事,検事長若しくは検事正が欠けたときは,その庁の他の検察官が,法務大臣の定める順序により,臨時に検事総長,検事長又は検事正の職務を行う。」と定めている。 下線部「及び」が結びつけている内容の記述として,正しいものを1 つ選びなさい。 1 .検事総長と次長検事の両方 2 .検事総長と次長検事のいずれか一方 3 .検事総長と次長検事の両方,又は,いずれか一方 4 .検事総長,次長検事,検事長,検事正のいずれか 正解:1 〔講評〕 問題4は,本問は「A及びB」が,AとBを単に並列する場合だけでなく,「AとBの両方」をさす場合があることに関する問題です。肢1がまさにそのような場合です。条文の最後に示されている職務は,検事総長,検事長,検事正の3つなのに,前半部にある検察官の種類は,検事総長,次長検事,検事長,検事正の4つです。そこに「検事総長及び次長検事」とあるところから,その「検事総長及び次長検事」が条文の最後に示されている「検事総長」の職務に対応することがわかります。よって,検事総長と次長検事に関しては「その両方に事故のあるとき,又は両方が欠けたときは,その庁(最高検察庁)の他の検察官が,法務大臣の定める順序により,臨時に検事総長の職務を行う」というのが条文の意味であることが明らかになります。なお,前半の「検事長」は最後の「検事長」に,前半の「検事正」は最後の「検事正」に,それぞれ対応します。 問7 以下の記述のうち,反対解釈の事例として正しいものを1つ選びなさい。 1.国家公務員法2条1項に「国家公務員の職は,これを一般職と特別職とに分つ。」,同条2項に「一般職は,特別職に属する職以外の国家公務員の一切の職を包含する。」とあり,同条3項「特別職は,次に掲げる職員の職とする。」以下に列挙されたどの号にも検察官は含まれないので,検察官は国家公務員一般職である。 2.国家公務員法に定年による退職を定める条文があるにもかかわらず,検察官には,国家公務員法の特例とされる検察官の定年を定める検察庁法の条文を適用する。 3.検察庁法に検察官の定年後の勤務延長を定める条文がないので,検察官には,国家公務員法の定年退職日後の勤務延長を定める条文を適用する。 4.検察庁法に検察官の定年後の勤務延長を定める条文がないので,検察官の定年退職日後の勤務延長はできない。 正解:4 〔講評〕 問題7は,反対解釈がどのようなものかを問う問題です。肢1を正解とした誤答が目立ちましたが,肢1では,特別職以外の一切の職は一般職とされており,検察官は,特別職として列挙されていないので,条文の素直な解釈として,一般職国家公務員となり,これは反対解釈の例にはあたりません。反対解釈であるといえるのは,肢4です。ここでは,当該事項(ここでは検察官の定年後の勤務延長)について定める条文がないので,それはできない,という意味になっているからです。それについて定める刑罰法規がないので犯罪でない,というのもこの意味での反対解釈の一例です。 |
【憲 法】 問1 日本国憲法の制定過程に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。 1.明治憲法の改正に着手した政府の憲法問題調査委員会は,天皇が統治権の主体であるという建前を維持する憲法改正案を作成し,連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)に提出したが,GHQは事実上これを無視した。 2.GHQは,日本政府に対して,自らの側で作成した総司令部案を提示し,この案に基づいて新しい憲法を制定せよという命令を発した。 3.総司令部案をもとに作成された明治憲法の改正案は,帝国議会の審議に付され,若干の修正を経て,枢密院に諮詢され,天皇の裁可ののち,最終的に日本国憲法として公布された。 4.公布された日本国憲法は,明治憲法の基本原理を否定しているがゆえに無効ではないかとの批判を受けたが,これに対し,八月革命説が,そもそも天皇がポツダム宣言を受諾した時点で「革命」が発生し,明治憲法の基本原理は否定されたと主張した。 正解:2 〔講評〕 この問題は,日本国憲法の制定過程に焦点を当て,新憲法制定へと至る経緯の認識度をはかろうとするものです。よく知られているように,日本国憲法は,明治憲法とは異なる原理に依拠した新憲法として制定されたと理解されています。日本政府は明治憲法の根本改正を望みませんでしたが,GHQの圧力に屈して,新憲法の制定に踏み出すことになりました。しかし,それはあくまでも自主的な制定であったというため,GHQと協働し,明治憲法の改正手続を粛々と進めるという外観を守らざるをえませんでした。その結果,日本国憲法は,明治憲法の改正の限界を超えたのではないか,との批判を招く羽目になりました。この批判に応えるため,八月革命説が提唱されたのです。 以上のような経緯を頭に入れて,問題文をもう一度読み直して欲しいと思います。GHQは,日本政府の明治憲法改正案を承認せず,あえて独自案を作って,それに準拠した新憲法を制定するよう日本政府に迫ったのですが,日本政府がGHQ案を参考にした明治憲法の改正を試みただけとする建前に合わせて,日本政府が提示した当初案を明示的に拒否することも,独自案の受諾を命令することも差し控えました。このあたりの事情が理解できれば,肢2が誤りであることがわかるはずです。残念ながら,この問題は誤答率が高かったのですが,これを機会に,日本国憲法制定の複雑な経緯を復習してもらえると,より深い憲法理解に達することができるでしょう。 問8 表現の自由にかかわる権利・自由に関する以下の記述のうち,判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。 1.報道機関の取材活動は,国民の「知る権利」に奉仕するものであり,したがって,取材の自由は,報道の自由と並んで,表現の自由を規定した憲法21条1項の保障の下にある。 2.筆記行為の自由は,さまざまな意見,知識,情報に接し,これを摂取することを補助するものとしてなされる限り,憲法21条1項の規定の精神に照らして尊重されるべきである。 3.裁判の公開が制度として保障されていることにともない,各人は,裁判を傍聴することができることとなるが,裁判所に対して傍聴することを権利として要求できるわけではない。 4.新聞紙,図書等の閲読の自由は,憲法19条の規定や,憲法21条の規定の趣旨,目的から,いわばその派生原理として当然に導かれる。 正解:1 〔講評〕 この問題は,表現の自由にかかわる権利・自由についての判例による位置づけについて,基本的な理解を問うものです。報道の自由,取材の自由,「知る権利」,情報を摂取する自由,筆記行為の自由,裁判を傍聴する権利,閲読の自由といった基本概念について,判例は微妙に言葉遣いを区別しながら,保障されている,尊重に値する,権利として保障されていない等の判示を行っています。その意味をどのように解するかについては議論はありえますが,本問でとりあげているような基本判例については,まずその用語法を正しく理解することが,学習の出発点です。 選択肢1は誤りです。博多駅テレビフィルム提出命令事件決定(最大決昭44・11・26刑集23・11・1490)は,報道の自由について,「憲法21条の保障のもとにある」としたうえで,報道のための取材の自由については,「報道機関の報道が正しい内容をもつために」,「憲法21条の精神に照らし,十分尊重に値いするものといわなければならない」と判示しています。 選択肢2,3は正しいものです。法廷メモ訴訟判決(最大判平元・3・8民集43・2・89)が,このように判示しています。 選択肢4も,よど号新聞記事抹消事件判決(最大判昭58・6・22民集37・5・793)の判示するところで,正しいです。 したがって,正解は,選択肢1となります。 3割以上の人が正解していますが,それよりも多くの人が,選択肢3について誤っていると解答していました。たしかに,学説の多くは,傍聴を権利と理解するべきだと説いていますが,判例の立場は異なります。法律学の学習に際して,判例に対する批判的な思考ができるようになることは重要ですが,批判の前提として,判例が言っていることを正しく理解することは不可欠のものです。また,将来実務家を目指すのであれば,理論的に正しかろうが誤っていようが,判例がどうなっているかを離れて仕事をすることはできません。判例の重みを理解したうえで,批判も含めて,学習を進めてほしいと思います。 |
【民 法】 2020年度法学検定スタンダード<中級>コース民法について,正答率が1番低かった問題10と,2番目に低かった問題19(いずれも問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。 問10 Aが,Bとの間で売買契約を締結し,これに基づきBに対して1000万円の代金債務を負っていたところ,Cが,Bとの間で,この債務を引き受ける旨の契約を締結した。この場合に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。 1.この債務引受が免責的債務引受である場合,Aが承諾をした時に,債務引受の効力が生じる。 2.この債務引受が免責的債務引受である場合,Bは,Aがこの債務を担保するために自己所有の土地に設定した抵当権を,Aの承諾を得てCが負担する債務に移すことができる。 3.この債務引受が併存的債務引受である場合,Aの承諾を得なくても,債務引受の効力が生じる。 4.この債務引受が併存的債務引受である場合において,AがBに対して売買契約の解除権を有するときは,Cは,Bからの1000万円の支払請求に対しその支払を拒むことができる。 正解:1 〔講評〕 債務引受について「誤っているもの」を選ぶという問題で,これが免責的債務引受であるときに,その効力発生には,「A(=債務者)の承諾」が必要だとする選択肢1を選ぶものでした。民法472条2項によれば,必要なのは「Aへの通知」とされています。正解率は11.8%にとどまり,誤答である選択肢2(19.8%),選択肢3(35.0%),選択肢4(33.2%)を選ぶ割合が高かったといういささかショッキングな結果になっています。 「承諾」か「通知」かという,確かに細かな知識を問う問題ではあったものの,問題集の問題79の選択肢3の解説では,「債務者の承諾が必要とされず,債権者からの一方的な通知でよいとされている」と説明されており,その理由についても,「債権者は,一方的な意思表示で免除(民519条)をすることができるから」と解説されています。問題集で勉強する際に,単にそこに書かれている問題とその答えを理解するだけではなく,そこに書かれていない問題まで解くことができるようになるまで解説を読み込むことが大変重要です。また,いくつかの制度・いくつかの要件が並んでいるものについては,一度自分で表などに整理し,注意して覚えるべき点をあぶり出すような工夫が必要でしょう。 問19 親権および後見に関する以下の記述のうち,判例がある場合には判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。 1.親権者は,自らが所有する土地を未成年の子に贈与するにあたり,その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求する必要はない。 2.親権者は,未成年の子からその子が所有する土地を適正な価格で買い受けるにあたり,その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。 3.親権者による親権の行使が困難または不適当であることにより未成年の子の利益を害するとき,家庭裁判所は,期間を定めることなく,その者について親権停止の審判をすることができる。 4.親権停止の審判により,未成年者に対する親権を行使する者がなくなった場合,その未成年者について後見が開始する。 正解:3 〔講評〕 親権・後見について「誤っているもの」を選ぶという問題で,家庭裁判所がする親権停止の審判について「期間を定めることなく」とする選択肢3を選ぶものでした。親権停止は,「2年を超えない範囲内」(民法834条の2第2項)とされていますので,誤りとなります。 親権停止にはこのように期間の制限があり,親権喪失にはそうした制限がない(無期限のものである)ことが,両制度の違いとして重要です(もともと存在しなかった親権停止という制度が設けられたのには,無期限の親権喪失という制度が重すぎて使いにくいものであったという背景があります)。このように,制度を分ける特徴は,何よりもまず頭に入れてほしい重要事項だと言えます。 また,誤答である選択肢2を選んだ人が3割を超えており,正解率(29.8%)を上回っていました。選択肢2は,親権者と子の利益相反における特別代理人の選任に関する記述ですが,「利益相反」とは,親権者が行おうとする行為を類型的に見たときに,子の利益と相反する地位に立っていることを問題とするものであって,実際に行われた取引の条件の適否を問題とするものではありません。言い換えると,「価格を親権者が自分勝手に決めることができる」点で利益相反になるのであり,「実際の価格が不適切だった」ことが利益相反になるわけではありません。そうした制度趣旨にまで理解が及んでいれば誤答を防ぐことができる問題であると考えられます。 |
【刑 法】 問1 責任論に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。 1.道義的責任論は,人間の意思は素質と環境によって決定づけられるとする決定論を出発点として主張された見解である。 2.社会的責任論は,社会防衛の手段としての刑罰を受けるべき地位が責任であるとする見解であり,刑罰の目的に関する特別予防論と結び付きやすい。 3.規範的責任論は,適法行為の期待可能性が存在してはじめて責任が認められると主張する見解である。 4.心理的責任論に対しては,責任能力および故意・過失といった心理的事実から直ちに道義的非難を認めることは妥当でないとの批判が可能である。 正解:1 〔講評〕 本問は,責任論に関する問題です。 正解は,肢1です。道義的責任論は,行為や結果について行為者が道義的に非難される点に責任の本質を求める見解です。行為者が適法行為を行うか違法行為を行うかを自分の意思で自由に選べたにもかかわらず,あえて違法行為を選んだといえるからこそ,行為者を道義的に非難することができます。したがって,道義的責任論は,人間の意思は理性的判断に基づいて自由に選択できるという非決定論を前提にしており,逆に,人間の意思は素質と環境によって決定づけられるとする決定論とは相容れないということになります。 肢4を選んだ受験生は比較的少なかったのですが,肢2,3を正答とした受験生は,肢1を正答とした受験生とほぼ同数で,全体の正答率は低くなりました。責任論のような刑法の基礎理論は,抽象的な議論というイメージがあり,敬遠する人も多いかもしれません。しかし,責任論は,故意,過失,責任阻却といった具体的な問題を判断する際に土台となるものです。特に,現在の通説は,適法行為を行うことが期待可能であったのに違法行為を行ったことをもって責任とする規範的責任論を支持していますので,規範的責任論の考え方は,しっかり理解しておきましょう。 問4 治療行為の違法性阻却に関する以下の記述のうち,争いがある場合には判例・裁判例に照らして,正しいものを1つ選びなさい。 1.患者の同意に基づかないで行われた外科手術は,傷害罪の違法性を阻却しない。 2.成功する確率が低く,生命の危険のある手術は,たとえ患者の同意があったしても傷害罪の違法性を阻却しない。 3.医学的にみて治療手段として確立していない実験的外科手術は,たとえ患者の同意がなくても傷害罪の違法性を阻却する。 4.医師の資格のない者によって行われた外科手術は,患者がそのことを承知のうえで,それが治療にとって必要であり,かつ,医学上一般に承認された医療技術に則っているといえれば傷害罪の違法性を阻却する。 正解:4 〔講評〕 正解は,肢4です。傷害罪の保護法益は,人の自己決定権自体ではなく身体の安全ですから,同意がない場合であっても,また医師の資格のない者によって行われた場合であっても,治療目的で,当該行為が治療にとって必要であり(医学的適応性),医学上一般に承認された医療技術に則っていて(医学的正当性),患者が当該治療行為の危険性を正しく認識している限り(危険の引受け),人の健康状態を不良に変更する行為とはいえませんから,傷害罪の違法性(または構成要件該当性)が阻却されます。 肢1,2,3,は誤りです。確かに,患者の自己決定権の尊重をはかるためには,十分に説明をした上での同意(インフォームド・コンセント)が重要というべきです。判例・裁判例において,民事上同意のない治療行為については不法行為責任が肯定されています。また,学説においても,同意に基づかないで行われた治療(専断的治療行為)は傷害罪の違法性を阻却しないとする見解も有力です。ここから,肢1を選んだ受験生が多かったのかもしれません。しかし,傷害罪の保護法益は人の身体の安全ですから,少なくとも現行法上,刑事上の違法性阻却は,民法と同一に論じる必要はありません。現に,判例・裁判例において,同意のない治療行為が傷害罪とされた例がないのは,このことを物語っているといえるでしょう。刑法と民法の関係にも注意してください。 |
【刑事訴訟法】 問2 以下の記述のうち,誤った事実認定を防ぐための証拠法則として説明することができないものを1つ選びなさい。 1.被告人が過去に,起訴にかかる犯罪と同種の犯罪を行ったことを示す証拠によって,被告人が起訴にかかる犯罪の犯人であることを立証することは原則として許されない。 2.自白が被告人にとって不利益な唯一の証拠である場合は,有罪とされない。 3.公判期日における供述に代えて書面を証拠とすることはできない。 4.押収等の手続に違法がある証拠物については,これを証拠とすることができない。 正解:4 〔講評〕 この問題は,事実誤認を防止するために定められた法令の規定またはそのための判例上の原理について問うものです。それぞれの記述の中には,事実誤認の防止のためだけではなく,それ以外の理由が含まれているものもありますが,1つの選択肢だけは事実誤認の防止という理由がまったく含まれていない記述となっており,それが正解肢です。試験結果では正答率がやや低いばかりでなく,全体の得点が高い受験者にも誤答がみられました。問題文が誤読されやすかったのかもしれませんが,たずねているのは事実誤認の防止という根拠がまったく妥当しない証拠法則(言い換えれば,事実認定の「正しさ」とは無関係に遵守すべきもの)はどれか,ということです。 まず,肢1は,同種前科による起訴事実の認定は原則として許されない旨の判例上の証拠法則(最判平24・9・7刑集66・9・907参照)を述べています。このような立証を許すと実証的根拠に乏しい人格的評価により誤った事実認定を招くおそれがあるほか,争点の拡散等の難点があります。したがって,肢1の記述は,誤った事実認定を防ぐことが大きな理由になっています。 つぎに,肢2は,憲法38条3項および刑事訴訟法319条2項に基づく補強法則といわれるものです。これは,主として,自白のみに依拠した事実認定を許すと誤った有罪を招きかねないという理由から,その証明力に制限を加えたものです。そのほか,自白獲得を中心とする捜査手法の抑制や裁判所による合理的な心証形成なども副次的に理由とされますが,主たる根拠は事実誤認の防止です。 さらに,肢3は,刑事訴訟法320条1項の定める伝聞法則です。公判供述に代えて書面を証拠にすることを全面的に認めると,書面の作成者による宣誓等の手続,その者に対する証人尋問,および裁判所による供述の観察のすべてが欠けていても,その書面の記載どおりに事実認定をする道をひらくことになり,結果として,知覚・記憶・表現等にまつわるヒューマン・エラーを点検できずに誤った事実認定を招くおそれがあります。なお,被告人には,憲法37条2項による証人審問権があり,この保障を侵害する立法はできないということも根拠の1つですが,伝聞法則として検察官・被告人のいずれの側からも説明できるのは,供述証拠による誤った事実認定が発生するのを防止するという目的です。誤答の中では,この肢3を選択した受験者が最も目立ちました(40.9%)。 最後に,肢4は,違法収集証拠の排除法則とよばれる判例上の証拠法則(最判昭53・9・7刑集32・6・1672参照)です。証拠物の押収等に違法があっても,物の性質・形状には変化がありませんから,その証拠物を証拠として許容したとしても誤判は生じません(言い換えると,「違法収集証拠を排除しないと『誤った事実認定』になるから,それを防ぐために,その証拠物を排除しなければならない」とはなりません)。しかし,それでは手続的正義が貫徹されない場合も生じます。すなわち,この証拠法則の目的は,手続的な正義のほうが事実認定よりも優先するというものです。この法則には手続的正義のほかに,将来の違法捜査の抑止という重要な一面がありますが,そのことも「誤った事実認定を防ぐため」のものではありません。すなわち,これが正解肢です。正解率は25.8%でした。 正解率が低かった理由としては,それぞれの記述自体は知っていても,その法則が何のためにあり,どう機能するのかについて,理解するのが難しいという側面があるように思います。また,各選択肢の正誤は,証拠能力と証明力との区分とは対応しません。肢1および肢3は,事実認定を誤導しやすい証拠について証拠能力を制限するもの,肢3は,同じく事実認定を誤導しやすい自白について,証拠能力があっても証明力は制限するという趣旨です。 問10 被告人質問に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。 1.被告人は,個々の質問に対し,供述を拒むことができる。 2.被告人が任意に供述をする場合には,裁判長は,いつでも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる。 3.被告人が任意に供述をする場合には,裁判長は,これに宣誓をさせなければならない。 4.被告人が任意に供述をする場合には,その供述は有利不利を問わず証拠となる。 正解:3 〔講評〕 この問題は,被告人質問に関する基本的な手続およびそれらを規定する法令の定めについて知識を問うものです。 まず,肢1は,刑事訴訟法311条1項の定めるとおり,正しい記述です。 つぎに,肢2は,刑事訴訟311条2項の定めるとおり,正しい記述です。誤答が目立ったのは,これを正解肢(すなわち,誤った記述)として選択した受験者でした(38.7%)。多くの公判では,「被告人質問」というひとまとまりの手続で,検察官・弁護人・裁判所から被告人に対する発問がなされ(あたかも,証人尋問における交互尋問方式のように),被告人がこれに応じて供述するという形式がとられますから,その知識を主たる根拠として正誤を判断すると正解肢を選択できません。実際には,たとえば,証人尋問の途中で証人の供述を確認するために裁判長から被告人に発問することもあり,また,さきほどの被告人質問においても厳密な「交互質問」によらずに裁判長が介入質問することもありえます。刑事訴訟法311条は基本的な条文なので,確認しておきましょう。 そして,肢3は,誤った記述です(すなわち,正解肢です)。被告人は,憲法38条1項の黙秘権の関係から証人適格がないものとされ,したがって,証人のように宣誓させる手続(刑訴154条)は存在しません。その意味では,刑事訴訟311条の規定全体が同法154条にいう「特別の定」であるということもできます。また,そもそも,「任意に供述をする」ことと「宣誓をさせる」こととは両立しません。宣誓とは,強制処分である「証人尋問」の一部をなすものです。そのためもあって,「被告人尋問」とはいわずに,「被告人質問」という用語を使います。このこともあわせて理解しておいてください。正解率は36.6%でした。 最後に,肢4は,刑事訴訟法291条4項および刑事訴訟規則197条1項により(そして,そもそも公判における口頭主義の原理そのものから),正しい記述です。この肢4も誤答率が目立ちました(21.5%)。被告人は訴訟手続における当事者ですが,被告人の供述が事件に関連するものであり,それが公判廷でなされれば,それ自体が証拠です。実際にも,多くの公判廷で,起訴状朗読の後に被告人による「認否」いずれかの陳述がなされ(その時に黙秘権を行使してまったく沈黙したままの被告人は稀です),その陳述は被告人の供述ですから,有利不利を問わず証拠となります。また,被告人質問に対する供述も同様です。 この問題で正解率が低かった理由として,条文の点検を怠りがちなことがあるでしょう。発展的な議論や判例を学ぶ前提として,必要な条文の検索や点検を怠らないようにしてください。 |
【商 法】 2020年度法学検定試験スタンダード〈中級〉コースにおいて正解率が低かった問題として,問題1,問題10についてコメントをします。両問ともに,法学検定試験の問題集からそのまま出題されたものではなく,問題集を基礎に2020年度法学検定試験に際して修正が施された問題です。 問1 個人である商人に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。 1 .商人は,自身が営んでいる営業と異なる種類の営業を示す名称を,商号に用いてもよい。 2 .不正の目的をもって他の商人であると誤認させるおそれのある商号を使用している者がある場合,これにより営業上の利益を侵害されている商人であっても,自身の商号を登記していないときには,その者に対し侵害の停止を請求することができない。 3 .商号は,営業とともにする場合には,譲渡することができる。 4 .個人である商人は,その商号中に,会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならない。 正解:2 〔講評〕 2020年度法学検定試験の問題1は,新作ですが,まったく新しいことを問うのではありません。問題集の問題4を基礎としています。選択肢1~3は,問題集の選択肢と表現が異なったり,問題集の問題では問うていませんが,解説の説明の中で触れている論点を取り上げたりしています。 誤りのない正しい選択肢であるのに誤っていると誤解したものとして多かったのは,選択肢1,選択肢3です。 選択肢1は,問題集の解説で説明されていた「商号自由主義」を問う問題です。また,選択肢3は,問題集の解説で説明する商人の商号を譲渡できる2つの類型のうち,問題で聞いていない類型を選択肢としたに過ぎません。 選択肢1で問題とする商号選定を巡っては,立法政策上の判断が必要となります。 商号を見ることで,企業主体が何か,その企業や営業の内容が何かを知るようにすることが公衆の利益となります。しかし他方で,商号を長年使用すると,企業活動によって形成された得意先関係や営業上の名声は商号に結びつくととともに,経営環境の変化に伴い企業の活動が変化し,商号と実際の活動とが乖離することがあり得ます(たとえば,株式会社ディーエイチシー(DHC)はサプリメント・化粧品のメーカーであると一般には認識されていますが,もともとは,委託翻訳業務をしており(現在でも委託翻訳業務を行っています),商号のDHCも「大学翻訳センター」の頭文字をとったもので,商号自体はサプリメント・化粧品の製造・販売とは結びつきません)。公衆の利益を考えれば,企業の実体や活動が変化したら,商号を変更させるべきかもしれませんが(例示した,DHCのような事業の多角化の場合は商号が祖業を示すので,後述の商号真実主義から見ても問題はないのでしょうが),商号が変更されれば,商人は,商号に結びついた得意先関係や営業上の名声を失いかねません。この公衆の利益と商人の利益とを調整することが必要であり,立法政策上,さまざまな判断ができるわけです。 公衆の利益を重視して,商号と商人の氏名または営業の実体とが符合することを求める立場を商号真実主義といいます。他方で,商人の利益を重視して,個人商人は,商号を商人の氏名・営業・営業地域などと一致するように要求されず,自由に選定してもよいとする立場を商号自由主義といいます。 日本法は,商法制定前に屋号を商号としていたことや商人の利益保護を重視して,商人(会社および外国会社を除く)は,その氏,氏名その他の名称をもってその商号とすることができる(商11条1項)とし,「その他の名称」に限定をつけないため,商号自由主義を採用していると整理されています。このため,選択肢1は正しいことになります。直感的には,自身が営んでいる営業と異なる種類の営業を示す名称を商号とすることは「おかしな」状況に思われたかもしれませんが,上記の商人の利益を重視した結果です。 選択肢3で問題とする商号譲渡を巡っては,商号が社会経済的に営業の名称として機能しているため,商人が営業を継続しながら商号のみを切り離して譲渡することを認めると,一般公衆を誤認させる危険が大きいことを考慮して規制がなされています。具体的には,商法は,営業とともに譲渡する場合または営業を廃止する場合に限って,個人商人が商号を譲渡することを認めています(商15条1項)。この点は,問題集でも解説されています。 なお,正解として選ぶべき誤った選択肢は2です。商号は財産的に価値があるので,商号専用権(他人が同一の商号または類似する商号を不正に称するのを排斥する権利)が商号を使用する者には認められますが(商12条1項,会社8条1項。逆に,これらの条文を商号専用権を定めるものではなく,商号自由主義の濫用防止を目的とするものと理解し,この条文を基礎に,商号以外の名称を使用する場合にも停止を求めることができると有力に主張されています),登記していることを要件とせず,未登記商号を使用する商人であっても,侵害の停止を請求できます。このため,「自身の商号を登記していないときには,その者に対し侵害の停止を請求することができない」とする点が誤りです。この点は平成17年商法改正で,登記済み商号のみの権利とされていたことが変更された点であり,商法総則のテキストでは必ず解説されています。また問題集の問題4では,登記の有無を問わず,「不正の目的をもって他の商人であると誤認させるおそれのある商号を使用している者があるときは,これにより営業上の利益を侵害されている商人は,その者に対し,侵害の停止を請求することができる」点についても解説されています。 問10 以下のうち,監査役設置会社である取締役会設置会社の場合に,取締役会の決議によって行うことができないものを1つ選びなさい。なお,当該会社の定款に別段の定めはないものとする。 1 .株式の分割 2 .代表取締役の解職 3 .多額の借財 4 .会計参与の選任 正解:4 〔講評〕 問題10は,問題集の問題58を基礎とします。問題集の問題58が取締役会の決議によって行うことができるものを問うのに対し,2020年度の法学検定試験の問題10は,「できない」ものを問い,選択肢も変更しています。 誤答として最も多かったのは,選択肢2の「代表取締役の解職」でした。しかし,2020年度法学検定試験の問題10を単独で見た場合,学習をして,準備をした者であれば,選択肢2を「取締役会決議で行うことができないもの」として選ぶことは合理的には考えられず,なぜ誤って選択したか,疑問でした。もっとも,限られた時間内でざっと問題文を見たときには,問題58がそのまま出題されたようにも見えなくもありません。選択肢2の「代表取締役の解職」は,問題集の問題58で「できる」ものとして,選択すべき選択肢であり,選択肢の番号も同一の2でした。そこで,問題集を中心に学習して,問題を何度も見ていた者が,問題集の問題58のまま出題されたと誤解し,問題文をよく読まずに取締役会決議で「できる」ものとして選択肢2を選択してしまったのではないか,という点が正解率の低かった原因ではないかと思い至りました。 なお,株式の併合は,株主の利益に重大な影響を及ぼすので,株主総会の特別決議が必要である(会社180条2項・309条2項4号)のに対し,株式の分割は,既存の株主の利益を害することがほとんどないので,取締役会の決議で行うことができます(会社183条2項)。また,取締役会の監督機能として,取締役会には代表取締役の選定および解職権限が与えられています(会社362条2項3号)。取締役会は会社の業務執行の決定を行う機関とされ(会社362条2項1号),この業務執行の決定には多額の借財も含まれます(同条4項2号参照)。このため,選択肢1~3はいずれも取締役会決議によって行うことができるものです。 会計参与は,取締役と共同して,計算書類等を作成する役員であり(会社374条1項),役員として株主総会の決議によって選任しなければならない(会社329条1項)ため,取締役会決議では選任することができず,選択肢4が「できないもの」となります。 【学習へのアドバイス】 問題集の問題を読み,解答を見て正誤を確認するだけの学習でなく,解説をよく読み,基本的なテキストと問題集を往復することで,知識の定着をするような学習を期待します。問題文と解答との組み合わせや解答をそのままを覚えることは学習としての効果はありません。なぜ,問題集の解答となるのかを理解することが肝要です。 もちろん,試験時間は短いのかもしれませんが,問題文・選択肢をよく読み,何が問われているかをきちんと確認することも重要です。 |
【行政法】 問3 行政裁量に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。 1.公務員の懲戒処分の要件を満たしている場合にどのような懲戒処分を行うかは懲戒権者の裁量にゆだねられるので,諸般の事情にかんがみ重きに失する処分であっても,免職処分を除けば当不当の問題を生ずるにとどまり,違法とはいえない。 2.文部科学大臣による教科書検定の審査,判断は学術的,教育的な専門技術的判断であり裁量が認められるので,検定当時の学説状況の認識を誤った判断も違法とはいえない。 3.食堂に対する食品衛生法上の営業許可はもっぱら公衆衛生の見地から与えられるものであるから,食中毒が発生した食堂に対し許可取消処分を行うか営業停止処分を行うかの判断に裁量が認められるとしても,公衆衛生以外の目的を考慮に入れた判断は違法となる。 4.学校施設を学校教育の目的以外に使用することを許可するか否かは,当該施設の管理者の広範な裁量にゆだねられるので,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,裁量権行使の判断過程に合理性を欠くところがある場合でも違法とはならない。 正解:3 〔講評〕 この問題は,行政裁量の逸脱・濫用にあたるか否かを具体的事例に即して判断できるかを問うものです。行政裁量は行政法の重要論点ですが,正確に理解している人はきわめて少なく,意味を理解しないまま抽象的な判断枠組みの暗記にとどまっている人が多いのではないかと考え,行政裁量の勉強方法を考え直してほしいとの思いから,あえて出題しました。しかし,結果は予想以上の難問だったようで,ある程度行政法の学習が進んでいる人にとっても正解を導くことが難しかったようです。選択肢4が誤りであることは理解できたようですが,他の3つの選択肢の間ではどれが正しいかわからなかったのではないでしょうか。 このような結果となった原因として2点考えられます。1つは裁量の逸脱・濫用の基本的な類型を理解していないのではないかということであり,もう1つは裁量の逸脱・濫用について教科書的な説明は頭に入れていても,それぞれの類型について具体的にイメージできていないのではないかということです。 前者については,選択肢4の判断過程の統制は勉強していても,選択肢1~3の古典的な裁量の逸脱・濫用の類型が頭に入っていないことが考えられます。この点は,最近の判例が判断過程の統制を中心に展開しており,近年の教科書も判例の展開の説明に重点を置いていることから,やむをえない面があります。しかし,教科書は古典的な裁量の逸脱・濫用の類型についても説明しているはずであり,むしろ行政裁量について基礎から正確に理解するためには古典的な類型をしっかりと理解することから始めなければなりません。 たとえば,選択肢3は「他事考慮の禁止」ですが,他事考慮の禁止と判断過程の統制を混同している人が多いのではないでしょうか。他事考慮は,根拠規範の要件に定められていない他の事柄を考慮するものなので,法律による行政の原理に反しており,裁量の有無にかかわらず当然に違法です(一発レッドカード)。これに対し,判断過程の統制は,あくまでも根拠規範の枠内で考慮しうる要素について,重視すべきでないのに重視するなど判断過程に合理性を欠くところがないかを問うものです。したがって,選択肢3を判断過程の統制の問題と考えてしまうと,正解を導くことができません。 これに対し,後者については,判例学習が不十分であることを指摘することができます。選択肢1は,比例原則を適用したと評価しうる注目すべき判断を示した判例を基礎としており,選択肢2および選択肢4は,行政判例百選に掲載されている判例を基礎とするものです。選択肢3についても,別の個別法に係る事案について他事考慮禁止の判断を示した判例(ストロングライフ事件)が行政判例百選に掲載されています。 行政判例百選に掲載されている判例すべてを熟知する必要はありませんが,行政裁量は最重要論点の1つであり,それにもかかわらず事例に即した具体的判断に習熟することが難しいことから,具体的判断のモデルとして行政裁量に係る判例を丁寧に学習することが望まれます。 |
【基本法総合】 2020年度法学検定スタンダード<中級>コース基本法総合について,正答率が低かった問題6(民法の問題)を取り上げて講評します。 問6 以下のうち,判例がある場合には判例に照らして,要式行為ではないものを1つ選びなさい。 1.死因贈与契約 2.保証契約 3.養子縁組 4.相続放棄 正解:1 〔講評〕 要式行為で「ないもの」を選ぶという問題で,選択肢1「死因贈与契約」を選ぶものでした。正解率は32.0%であり,誤答である選択肢4「相続放棄」を選んだ人の方が多い(36.0%)という結果になりました。 相続放棄は,授業などで「要式行為である」とわざわざ説明されることは少ないのかもしれませんが,家庭裁判所における申述という形式が必要とされる意思表示ですので,「法令に定める一定の方式に従って行わないと不成立又は無効とされる法律行為」であることは明白です。 むしろ,「死因贈与契約」と遺言によって行われる遺贈を混同して,選択肢1が正解であることを見抜けなかった人が多かったということなのかもしれません。確かに,死因贈与については,「その性質に反しない限り,遺贈に関する規定を準用する」(民法554条)と定められており,死因贈与と遺贈には共通点が多くあります。しかし,その重要な相違点の1つが,遺言によって行われる遺贈には民法967条以下の定める厳格な方式に関する規定が適用されるのに対して,死因贈与は,契約自由の一側面である方式自由の原則(民法522条2項)により,方式を要求されないという点です。普段から,類似する制度ほど,その相違点,特徴が分かれる点に注目して学習をすることが重要です。 |