2021年度 法学検定試験結果講評

2021年11月28日に実施いたしました法学検定試験のうち,ベーシック〈基礎〉コースおよびスタンダード〈中級〉コースを中心に,各科目から数問ずつ,試験結果を踏まえた講評を掲載いたします。復習に是非お役立てください。

ベーシック〈基礎〉コースの講評
スタンダード〈中級〉コースの講評
アドバンスト〈上級〉コースの講評

ベーシック〈基礎〉コース

【法学入門】
問2
 以下の条文のうち,任意規定(任意法規)であるものを1つ選びなさい。

1.協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対して財産の分与を請求することができる。〔民法768条1項〕
2.使用者は,児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで,これを使用してはならない。〔労働基準法56条1項〕
3.利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは,その利率は,その利息が生じた最初の時点における法定利率による。〔民法404条1項〕
4.使用者は,労働契約の締結に際し,労働者に対して賃金,労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。〔労働基準法15条1項前段〕

正解:3

〔講評〕

 問題2が問う任意規定(任意法規)とは,当事者の意思表示または当事者間の意思表示の合致があるときは後者が優先する規定です。「公の秩序に関しない規定」(民91条・92条)がそれにあたります。誤答の多かった肢1については,離婚の一方当事者が,財産分与請求権を放棄し,またはこれを行使しないということはありえますが,当事者間の合意により,財産分与請求権がないと取り決めることはできませんから,これは強行規定です。肢3は,条文中に「別段の意思表示がないときは」とあることからもわかるように,当事者の別段の意思表示があれば,その利息が生じた最初の時点における法定利率とは異なる利率とすることができるため,任意規定です。


問10
 裁判員制度に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.裁判員裁判は,原則として3人の裁判官と4人の裁判員の合議体により行われる。
2.裁判員の選任は,事件ごとに,裁判員候補者から,担当裁判官の合議で決定される。
3.裁判員裁判の判決に対する控訴審は,所轄の高等裁判所が裁判員裁判によって行う。
4.裁判員は,証人等に尋問し,被害者等に質問し,被告人に供述を求めることができる。

正解:4

〔講評〕

 問題10は,裁判員制度に関する問題です。裁判員は,証人等に尋問し(裁判員56条),被害者等に質問し(裁判員58条),被告人に供述を求めることができる(裁判員59条)ため,肢4が正しく,これが本問の正解です。他方,裁判員裁判では,原則として,3人の裁判官と6人の裁判員が合議体を構成します(裁判員2条2項)。公訴事実について争いがなく,適当と認められる事件については,1人の裁判官と4名の裁判員からなる合議体で裁判をすることができます(同3号)が,肢1はいずれにせよ誤りです。

【憲法】
問6
 結社の自由に関する以下の記述のうち,判例・通説に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.集会との違いについて,集会は一時的に集まることであるのに対し,結社は継続的な団体に関わるものである点が異なる。
2.結社の自由の保障は,団体を結成することを越えて,その団体が法人格を取得できることまでは及ばない。
3.弁護士会等にみられる強制加入制度は,それらの職業が高度の専門技術性・公共性を有していることから,団体の目的や活動範囲がそれらの確保・維持のためのものにとどめられている限りは違憲とはいえない。
4.強制加入団体である税理士会が,政治団体に寄付を行うために特別会費を徴収するという決定をしたことについて,当該寄付が税理士法改正運動の一環である場合には,構成員である税理士の思想・信条の自由を侵害するとしても違法とはいえない。

正解:4

〔講評〕

 この問題は,結社の自由の保障内容について問うものです。正解(誤りの文)は4なのですが,この選択肢を選んだ受験者は6割ほどで,3割ほどが2を選んでいました。これには2つポイントがあると思われます。
 1つには,選択肢4の元となった南九州税理士会事件判決(最判平8・3・19民集50・3・615)の知識があるか否かです。これを知っていれば4が正解であることが直ちにわかります。
 もう1つは,選択肢2の知識です。結社の自由は自由権,すなわち,公権力の介入を受けない権利であるので,法人格の付与という形で法律の保護を受ける権利までは含まれないことになります。この点は最近の教科書では言及のあるものも少なくありませんので,確認しておいてください。

【民法】
 2021年度法学検定ベーシック<基礎>コース民法の問題について,ここでは,正答率が1番低かった問題14と,2番目に低かった問題2を取り上げて講評します。いずれの問題も,問題集には載っていない問題ですが,問題集や教科書で,基礎をきちんと勉強していれば解けたと考えられる問題です。問題集をどのように読むべきだったのかを,これら2つの問題で確認しておきましょう。

問2
 成年被後見人に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.家庭裁判所が後見開始の審判をするには,本人が,精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあることが必要である。
2.家庭裁判所が後見開始の審判をするために,本人の同意は必要でない。
3.成年被後見人のした法律行為は,あらかじめ成年後見人の同意を得て行われたときは,確定的に有効なものとなる。
4.成年被後見人が行為能力の制限を解かれるためには,家庭裁判所が,後見開始の審判を取り消すことが必要である。

正解:3

〔講評〕

 成年後見制度のうち後見類型について「誤っているもの」を答える問題で,選択肢3を選択するものでした。
 実は,この選択肢も,問題集の問題8に同じ趣旨のものが出題されています。ここでも,問題集とは違った表現で出題されると対応できなくなってしまう傾向を見て取ることができます。問題集の問題が解けることそれ自体が重要なのではなく(ましてや問題とその解答を覚えることが重要なのではなく),問題集を通じた学習によって,必要な知識を身に付けることが重要だということを,もう一度意識してください。
 また,未成年者,被保佐人,同意権付与の審判を受けた被補助人の場合には,保護者たる親権者(または未成年後見人),保佐人,補助人の同意を得れば,単独で有効な行為を行うことができるのに対して,成年被後見人が成年後見人の同意を得ても,単独で有効な行為を行うことができないのは,成年被後見人は,事理弁識能力を欠く「常況」であるため,未成年者などと異なり,成年後見人から得た同意の通りに行為を行うことができるとは限らないからと説明されています。このように,理由・根拠をからめて理解するようにすれば,誤答を防ぐことができます。普段の学習では,こうした点にも気を付けてみてください。


問14
 契約の成立と効力に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.書面によらない贈与は,履行の終わった部分を除き,各当事者が解除をすることができる。
2.使用貸借は,目的物の引渡しがなければ,有効に成立しない。
3.委任は,委任状を交付しなければ,有効に成立しない。
4.和解は,書面でしなければ,有効に成立しない。

正解:1

〔講評〕

 消費貸借・使用貸借について「正しいもの」を答える問題で,書面によらない贈与における解除権について記述した選択肢1を選択するものでした。実は,この選択肢は,問題集のなかで問題76で出題されている問題です。
 むしろ誤答である選択肢2を選んだ割合の方が大きかったのですが,これについても,問題80の解説の中で,使用貸借が諾成契約であることは説明されています。
 試験全体をみると,問題集から出題された問題の正答率はどれも良好でした。それにもかかわらず,問題集に書かれている情報から出題された本問で,正答率が悪かったことは,意外でもあり,若干ショックなことでもありました。問題集を用いて学習するときに,その問題文や解説文の情報を1つひとつ理解し,問題集に現れているのと表現とは違った出題をされても対応できるようにすることが重要だと感じます。

【刑法】
問7
 以下の記述のうち,判例・裁判例がある場合には判例・裁判例の趣旨に照らして,正しいものを1つ選びなさい。

1.Xは,通行人に毒入りジュースを飲ませてこれを殺害する目的で,道路上に致死量を超える毒薬を混入させたペットボトル入りのジュースを置いた。Xには殺人罪の実行の着手が認められる。
2.Xは,強盗の目的で,通行人Vに道を尋ねることを装い,Vを人気のない路地に誘い込んだ。Xには強盗罪の実行の着手が認められる。
3.Xは,殺害の目的で,身体障がいで歩行困難な老人Vをだまして家から連れ出し,冬の夜遅く人家から離れ人気のない,積雪のある山中に自動車で連行し,車外に出たVをその場に置き去りにした。この場合,Vをだまして家から連れ出した段階で,Xには殺人罪の実行の着手が認められる。
4.Xは,Vをだまして警察官になりすましたYに現金を受け取らせる計画で,前日に詐欺の被害にあったVに,警察官を装い,「被害金を取り返すためには,預金を下ろして現金化して警察に協力する必要があり,間もなく警察官がV宅を訪問する」との嘘の電話をかけた。Xには詐欺罪の実行の着手が認められる。

正解:4

〔講評〕

 実行の着手は,実質的客観説によれば,構成要件的結果発生に至る現実的危険を有する行為の開始,形式的客観説によれば,構成要件に属する行為,またはこれに密接関連する行為の開始をいいますが,特に,不作為犯,間接正犯(離隔犯),結合犯,詐欺罪のように構成要件上複数の行為が要求されている犯罪の場合には,実行の着手時期が問題となります。
 正解は選択肢4です。このような嘘の内容は,犯行計画上,被害者が現金を交付するか否かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであり,被害者に現金の交付を求める行為に直接つながる嘘が含まれており,被害者が現金を交付してしまう危険性を著しく高めるものといえるから,問題文のような嘘を一連のものとして被害者に述べた段階において,被害者に現金の交付を求める文言を述べていないとしても,詐欺罪の実行の着手を認めることができるとするのが判例 (最判平30・3・22刑集72・1・82) です。最近の判例ですが,正答率は高かったのは,関心が高い事例であったためかもしれません。
 選択肢1,2,3は誤りです。肢2を選んだ受験生は少なかったのですが,これは,結合犯の場合,その手段である行為に着手した段階で結合犯全体についての実行に着手したといえる,したがって,強盗の場合は,手段である暴行・脅迫が行われていない段階では実行の着手は認められないという理解ができている証左といえるでしょう。
 肢1,3を選んだ受験生が少なからず見られました。間接正犯(離隔犯)の場合,裁判例は被利用者標準説(到着時説)を取っています。したがって,被害者等によって拾得飲用される直前に着手があり,道路上に置いた段階では着手は認められないということになります。また,不作為犯の場合は,作為義務者が作為義務に違反した不作為により結果発生の現実的危険を惹起した段階で実行の着手が認められます。歩行困難な老人を問題文のような山中に連行したことにより作為義務が発生し,他人の救助の予想されない場所に放置することにより生命に対する現実的危険が発生したといえますから,山中に放置した段階で殺人罪の実行の着手を認めることができるということになります。だまして家から連れ出した段階では,なお結果発生発生の現実的危険が惹起されたとはいえないことに注意してください。
 実行の着手については,上記のように,結果発生の現実的危険発生という一般的な判断基準が,不作為,間接正犯(離隔犯),原因において自由な行為,結合犯,構成要件上複数の行為が要求されている犯罪といった個別の行為類型において,どのように具体化されるかという点に着目して考えてください。

スタンダード〈中級〉コース

【法学一般】
問4
 権利のなかには,相手方の義務に対応するものとそうでないものとがある。以下の「権利」のうち,相手方の義務に対応するものとして,正しいものを1つ選びなさい。

1.物権的請求権
2.契約の解除権
3.法律行為の取消権
4.債権の消滅時効の援用権

正解:1

〔講評〕

 問題4は,「権利」とよばれるもののなかに,相手方の義務に対応する「厳密な意味での権利」と呼ばれるものと,それ以外のものとがあることを理解しているかどうかを問う問題です。後者のうちで最も重要なのが「権能」と呼ばれるもので,肢2,肢3,肢4がその例です。権能は,その権能をもつ者がそれを行使すると,法律関係が変化します。相手方の義務に対応する権利の典型は債権であり,本問の正解である肢1もその例です。物権的請求権は,物権の侵害をしない義務を相手方に課すものですから,相手方の義務に対応します。


問10
 都道府県ごとの弁護士1人あたりの人口のうち,全国の最少および最多の数に最も近い数値の組み合わせとして,正しいものを1つ選びなさい。

1.最少=687人  最多=12,711人
2.最少=1,867人  最多=9,599人
3.最少=3,177人  最多=8,167人
4.最少=5,122人  最多=7,719人

正解:1

〔講評〕

 問題10は,都道府県ごとの弁護士1人あたりの人口に関する問題です。弁護士の数は,法科大学院を中心とする新たな法曹養成制度が創設された2004年以降,約2倍となり,2021年8月1日時点で43,126人となっています(日弁連ウェブサイトによる)。しかし,地域による弁護士偏在の問題は依然として解消されておらず,都道府県別の弁護士1人あたりの人口を比べると,かなりの開きが見られます。肢1が,弁護士1人あたりの人口が最少である東京都と,最多である秋田県についての数値を示しており,これが本問の正解です。

【憲法】
問12
 国会が,国の唯一の立法機関であることから導かれる,国会単独立法の原則および国会中心立法の原則に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.一の地方公共団体のみに適用される特別法は,その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ,国会は,これを制定することができない。これは,国会単独立法原則の例外である。
2.法律には,すべて主任の国務大臣が署名し,内閣総理大臣が連署することが必要である。これは,執行責任を明確にする趣旨であり,署名の拒否は許されず,さらに法律の効力を左右しないから,国会単独立法の原則と矛盾しない。
3.国会が定めた法律と無関係な命令を行政機関が定めることは国会中心立法の原則によって許されないが,公共の福祉のために緊急の必要があり,国会が閉会中であれば,内閣は,法律に代わる命令を制定することができる。
4.国会中心立法原則があっても,法律の委任がある場合には,行政機関が委任命令を定めることができるが,命令が,委任の範囲を超えていれば違法である。

正解:3

〔講評〕

 この問題は,国会の国の唯一の立法機関性について問うものです。
 国会が,「国の唯一の立法機関」(憲41条)であることから,国会が立法権を独占するという国会中心立法の原則と,立法に他の国家機関の関与を許さないという国会単独立法の原則が導かれます。各選択肢の記述と単独立法・中心立法の両原則との関係が問われていますので,両原則の内容を正しく理解した上で,選択肢の記述がそれとどのような関係に立っているかを判断することが求められます。
 正解,つまり,誤りは,選択肢3なのですが,皆さんの選んだ選択肢をみると,肢2を誤りと考えた人が多かったようです。後述の憲法の条文も確認しておいてください。肢3については,誤りは明らかだと思われるので,試験結果はやや意外でした。後述のように,これは,帝国憲法下での制度を想定して書かれた選択肢です。
 以下に,選択肢ごとの解説を掲げます。参考にしてください。
1.正しい。「一の地方公共団体のみに適用される特別法は,法律の定めるところにより,その地方公共団体の住民の投票においてその過半数の同意を得なければ,国会は,これを制定することができない」(憲95条)。これは,単独立法原則の例外です。
2.正しい。「法律及び政令には,すべて主任の国務大臣が署名し,内閣総理大臣が連署することを必要とする」(憲74条)。これについては本肢記述のように解されています。
3.誤り。本肢前段は通説のとおりで,いわゆる独立命令は許されません。ちなみに明治憲法9条は,「天皇ハ法律ヲ執行スル爲ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ增進スル爲ニ必要ナル命令ヲ發シ又ハ發セシム但シ命令ヲ以テ法律ヲ變更スルコトヲ得ス」との定めをおき,これは独立命令と呼ばれていました。選択肢後段は,「天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル爲緊急ノ必要ニ由リ帝國議會閉會ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ發ス」(1項),「此ノ勅令ハ次ノ會期ニ於テ帝國議會ニ提出スヘシ若議會ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ將來ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ」(2項)と定めていた明治憲法8条そのままですが,このような代行命令も,中心立法の原則に反し許されません。
4.正しい。憲法73号6号が「この憲法及び法律の規定を実施するために,政令を制定すること」を内閣の職権としてかかげ,その但書が,「但し,政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができない」と定めることから,委任があれば政令,さらには一般に命令の制定が,行政機関に認められています。しかし,もちろん,命令が,委任の範囲を超えていれば違法です。古い判例は,この委任の範囲の逸脱があることを滅多に認めませんでしたが(例外的に認めた古い例として最大判昭46・1・20民集25・1・1〔農地法施行令16条は農地法80条1項違反〕,疑問のある適法判断として銃砲刀剣類取締法に関する最判平2・2・1民集44・2・369」),近時は相当数の違法とする判例があります(たとえばインターネット薬局に関する最判平25・1・11民集67・1・1)。

【民法】
 2021年度法学検定スタンダード<中級>コース民法について,正答率が1番低かった問題10と,3番目に低かった問題13(いずれも問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。

問10
 債権者代位権に関する以下の記述のうち,判例がある場合には判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。

1.AはBに対して貸金債権(甲債権)を有し,CはBに対して,賃料債権(乙債権)を有しているが,乙債権につき消滅時効が完成している。この場合において,Aは,甲債権を保全するため必要があるときは,債権者代位権により,Bに代わって,乙債権の消滅時効の援用をすることができる。
2.Aは,BがCに対して有する貸金債権をBから譲り受けた。この場合,Aは,債権者代位権により,Bに代わって,この債権譲渡の通知を行うことで対抗要件を備えることができる。
3.AはBに対して貸金債権(甲債権)を有し,BはCに対して賃料債権(丙債権)を有している。甲債権が丙債権より後に成立したときでも,Aは,債権者代位権により,Bに代わって,丙債権を行使することができる。
4.Aは,丁土地をBから譲り受けた。丁土地は,BがCから譲り受けたものであり,登記簿上の所有者はCのままになっている。Bは,Cに対して所有権移転登記手続を求めようとしない。この場合,Aは,債権者代位権により,Bに代わって,BのCに対する登記請求権を行使することができる。

正解:2

〔講評〕

 債権者代位権について「誤っているもの」を選ぶという問題で,債権譲渡の対抗要件たる通知を,譲渡人を代位して譲受人が行うことができるとする選択肢2を選ぶものでした。債権者代位権を用いても,譲受人が通知を行うことはできないというのが判例の立場です。
 この情報自体は問題集には掲載されていないのですが,2020年度問題集では問題78において,債権譲渡の対抗要件としての通知は,譲受人から行うことはできず,譲渡人から行わなければならないことが説明されており,そうでないと譲受人と自称する者が虚偽の通知をする可能性があるからと理由が述べられています。こうした理由づけは(債務者=譲渡人の関与なく債権者=譲受人が行使できる)債権者代位権による場合にも同様にあてはまります。このように,ある場面におけるルールの背後にある理由を理解することで,他の場面についてもルールの解釈を行うことができるようになります。実は,この問題は,試験全体の成績の良かった受験生ほど正答率が高いという結果になっており,民法をよく勉強している人ほど,そうした推論を適切に行うことができるようになっていることがうかがわれました。
 また誤答の中では,選択肢3を選んだ受験生が多くみられました。詐害行為取消権においては,被保全債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたものであることが要件とされており(民法424条3項),それと混同したものと推測されます。類似の制度を学習する際には,共通点・類似点はもちろんですが,相違点もまた意識して対比することが重要です。


問13
 申込みと承諾に関する以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.対話者に対してした承諾期間の定めのない申込みは,その対話が継続している間は,いつでも撤回することができる。
2.申込者が申込みの通知を発した後に死亡した場合において,その相手方が承諾の通知を発するまでにその事実を知ったときは,その申込みは,その効力を有しない。
3.承諾者が,申込みに変更を加えてこれを承諾したときは,承諾の内容で契約が成立する。
4.契約は,承諾の通知が申込者に到達した時に成立する。

正解:3

〔講評〕

 契約の成立について「誤っているもの」を選ぶという問題で,申込みに変更を加えた承諾の効力に関する選択肢3を選ぶものでした。こうした承諾は,「新たな申込みとみなす」(民法528条)とされており,契約が成立することはありません。
 この情報も問題集には掲載されていないのですが,しかし,申込みに対して変更が加えられた場合において,契約が成立してことにしてしまうと,申込人の意に沿わない契約が成立することになってしまいます(例えば,100万円で売るつもりであった申込人に対して,50万円で売ることを強制することになりかねません)。これでは,意思の合致によって契約が成立するとした契約制度の意味が失われることになってしまいます。そうした基本的な制度趣旨に考えが及ばなかった受験生が少なからずいたことは残念でした。条文を読む際に,その背後にある制度趣旨にも目を配るようにしましょう。

【刑法】
問14
 以下の記述のうち,判例・裁判例がある場合には判例・裁判例に照らして,正しいものを1つ選びなさい。

1.Xは,自己所有の空き家に付された火災保険金をだましとる目的で,放火して全焼させた。Xには,自己所有非現住建造物等放火罪(刑法109条2項)が成立する。
2.Xは,木造2階建てのアパートの留守宅を物色したが,金品がみつからなかったことに腹を立て,1階部分にある宅配業者の倉庫に侵入し,床板約5メートル四方を燃焼させる意思で新聞紙に火を放った。しかし,たまたまやってきた従業員がすみやかに消火したため,床板には燃え移らなかった。Xには,現住建造物等放火罪(刑法108条)の未遂罪が成立する。
3.Xは,木造一戸建てで一人暮らしをしているAを殺害した後,同家屋を全焼させて罪跡を隠滅する目的から布団に火を放ったが,布団と畳しか燃焼しなかった。Xには,現住建造物等放火罪の未遂罪が成立する。
4.Xは,マンションの駐輪場に停められていたA所有のバイクを燃焼させる目的から新聞紙に火を放った。しかし,マンションの住人がすみやかに消火したため,バイクには燃え移らなかった。Xには,他人所有建造物等以外放火罪(刑法110条1項)の未遂罪が成立する。

正解:2

〔講評〕

 正解は選択肢2です。この事例において放火した部屋は倉庫として利用されていますが,「アパートの留守宅を物色した」という問題文から,人の住居として使用されている部屋もあったことがわかります。木造アパートの場合,火が隣室等に燃え移り全体に燃え広がる可能性があることから,人が住居として使用している部屋も含めたアパート全体が1個の現住建造物だといえます。したがって,倉庫の床板しか焼損させる意思がなかったとしても,現住建造物への放火行為に着手したといえるので,現住建造物等放火罪の未遂罪が成立します。
 4割以上の受験生が,肢1を正解として選びました。自己所有の空き家は,原則として自己所有非現住建造物(刑109条2項)にあたります。しかし,火災保険が付されている場合には,「他人の物を焼損した者の例による」と規定する特例(刑115条)が適用されるため,他人所有非現住建造物等放火罪(刑109条1項)が成立します。
 肢3は問題集掲載の問題の類題です。判例によれば,居住者全員を殺害後に火を放った場合には,他人所有非現住建造物等放火罪が成立するとされています(大判大6・4・13刑録23・312)。なお,布団と畳は建造物の一部ではないので,同罪の未遂罪が成立します。また,肢4についてですが,そもそも他人所有建造物等以外放火罪には未遂犯の処罰規定が置かれていません。現住建造物等放火罪,他人所有非現住建造物等放火罪についてのみ,未遂と予備の処罰が定められています(刑112条・113条)。
 放火罪は,刑法各論の中でも難解な分野のひとつであるといえますが,条文を正確に理解していれば正解に達することのできる問題も少なくありません。まずは,条文を丁寧に読み,具体的事例を念頭に置きながら,それぞれの条文が適用される範囲をおさえるようにしてください。

【刑事訴訟法】
問7
 被告人Xは,大要,「令和3年10月2日午前1時頃,コンビニエンス・ストア甲で店員乙を脅迫し,レジで保管されていた現金1万円を強取した」という強盗の事実で逮捕され,勾留されたまま,そのとおりの事実で起訴された。公判が始まってから生じた事情と,それらの事情を受けて検察官が有罪判決を得るためにとるべき対応との組み合わせとして,正しいものを1つ選びなさい。

1.【事情】Xは無実であり,真犯人は別人Yであることが証拠上明らかになった。
【対応】起訴状の犯人の記載を証拠に従って改める訴因変更の手続をとる。
2.【事情】Xは現金を強取したのではなく,釣り銭詐欺をはたらいて1万円を受領したものであることが証拠上明らかになった。
【対応】検察官は,強取の事実を詐取の事実に改める訴因変更の手続をとる。
3.【事情】Xはコンビニエンス・ストア甲では現金1万円を強取していないが,同月1日午後11時頃に別のコンビニエンス・ストア丙で店員丁を脅迫して現金1万5000円を強取していたことが証拠上明らかになった。
【対応】起訴状の犯行日時,被害店舗・店員,被害金額を証拠に従って改める訴因変更の手続をとる。
4.【事情】公判審理の過程で,Xは偽名であり,被告人の正しい氏名はZであることが判明した。
【対応】Xに対する無罪判決を得たうえで,改めて,Zを被告人として公訴を提起する。

正解:2

〔講評〕

 この問題は,訴因変更の可否について,具体的な事例を通じて基本的な理解を問うものです。本問では,全体の正解率が54.5% にとどまり,やや振るわない結果となりました。刑事訴訟法全体では成績上位の受験者でも誤答が目立つ結果となりました。その原因として,訴因変更という手続が受験者にはイメージをつかみにくいということがあるかもしれません。
 まず,「訴因変更の可否」とは,A事実で起訴した公判手続において検察官がB事実に主張を整理し直して当該B事実についてその後の主張・立証をすることができるか(言い換えれば,A事実とB事実とは同一事件であるとして主張の整理をした上で当該公判手続を続けてよいか,それとも両事実は別事件であるからこのような主張の整理ではなく別途の公訴提起によるべきであるとするか)の区別です。概念や「公式」めいたものを丸暗記するのではなく,具体的事例により,これらの仕分けを想起できることが重要です。
 選択肢1は誤りです。訴因変更の手続で処理することはできません。なぜなら,Xによる強盗の事実と別人Yによる強盗の事実とでは(たとえ,日時・場所・被害者等が同じでも)別事件だからです。Xに対する無罪判決を言い渡し,これとは別にYに対する公訴を提起しなければなりません。
 選択肢2は正しいものです。訴因変更の手続を経てこの公判を続けることができます。Xが強盗をしたとして起訴された事実と,Xが同じ場所・時間帯・被害者・被害金銭について釣り銭詐欺をしたとの事実は,同一事件です(Xや被害者の供述をはじめ関係証拠の収集,評価のいかんにより,問題となる1万円を強取したか,あるいは詐取したかの違いにはなるが,別事件ではありません)。より本質的には,Xが起訴状記載の強取をすることと,これとは別に,同じ場所・時間帯・被害者・被害金銭について詐欺をはたらくこととは,検察官の主張として二律背反であり,この場合の強取と詐取は非両立の関係に立ちます(本問の1万円を強取するとともにこれをだまし取るという2つの事実があわせて成立するとの主張はできません)。これが刑事訴訟法312条1項の「公訴事実の同一性」の本質だといえるでしょう。
 選択肢3は誤りです。訴因変更の手続で処理することはできません。起訴状記載の強盗の事実と,別の場所・時間帯・被害者・被害金銭に関する強盗の事実とでは,別の事件です(両者は2つの犯行というべきであり,どちらともXの犯行である,いずれもXの犯行ではない,甲での強盗はXの犯行だが丙での強盗はそうではない,甲での強盗はXの犯行ではないが丙での強盗はXの犯行だ,のいずれの可能性も論理的にはありえます)。この設例では,起訴状記載の訴因に対して,Xに対する無罪判決を言い渡すべきです。これとは別に,検察官が丙での犯行でXを起訴することはできます。すなわち,訴因変更可否の問題と,一事不再理効が及ぶ範囲の問題とは,いずれも「公訴事実の同一性」として統一的に判断されるべき性質のものです。受験者の誤答が目立ちましたが,「日時・場所の近接性」というような判断要素の1つに過ぎないものを定型的にあてはめてしまったためかもしれません。
 選択肢4は誤りです。この場合は,起訴状の記載を訂正して公判を続けることができます(さらには,訴因変更の手続までの必要はないものの,この手続をして起訴状の表記について正確を期するということも,あえて否定する必要はありません)。しかし,偽名Xに対する事件と本名Zに対する事件とは同一事件ですから,いったんXに対する無罪判決を経た上で,これとは別にZに対する公訴を提起することはできません。両者には「公訴事実の同一性」が肯定され,一事不再理の効力が及ぶことになります。

【商法】
 2021年度法学検定試験スタンダード〈中級〉コースにおいて正解率が低かった問題として、問題3についてコメントをします。問題3は、法学検定試験の問題集からそのまま出題されたものではありません。問題集では設立に関する問題は出題されていましたが、設立時取締役に焦点を当てた形では出題しておらず、新しい切り口で設立の手続きを確認する問題といえます。

問3
 設立時取締役・設立時代表取締役に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.発起設立においては、設立時取締役を解任することはできない。
2.発起設立においては、設立時代表取締役は、設立時取締役の中から、設立時取締役の過半数の決議をもって選定される。
3.発起設立においては、設立時取締役は、株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額に著しく不足するときは、過失の有無にかかわらず当該不足額を支払う義務を負う。
4.募集設立においては、設立時代表取締役を選定する機関は創立総会である。

正解:2

〔解説〕

 設立時取締役は、株式会社の設立に際して取締役となる者をいいます(会社法38条1項かっこ書)。設立時取締役は、発起設立では出資の履行が完了した後に発起人により遅滞なく選任され、募集設立では創立総会で選任されます。選任されてから会社が成立するまでの間は取締役でなく、設立時取締役として独自の職務を行います(会社の成立後は取締役となり、取締役の職務を実施します)。設立時取締役、設立時代表取締役そして設立時監査役などの設立時役員は、会社成立後は、それぞれ、取締役、代表取締役そして監査役などとして職務を果たしますが、選任されてから会社が成立するまでの職務は、発起人による会社の設立作業の調査(出資の履行の完了、検査役調査が免除された現物出資等の相当性などの確認や設立手続の適法性の確認。会社法46条[発起設立]、93条[募集設立])であり、発起設立の場合には調査の結果につき手続の法令定款違反や不当な事項があれば発起人に報告しなければならず(会社法46条2項)、募集設立の場合は、調査の結果をその当否に関わらず創立総会で報告します(会社法93条2項)。これらの職務を行う際には、設立時取締役は善管注意義務・忠実義務を尽くすことが求められ、任務を怠った場合は成立した株式会社に対して責任を負担し(会社法53条1項)、悪意重過失があれば第三者にも責任を負います(同条2項)。会社が不成立の場合には、責任を負いません。設立のための作業を実施する者が発起人であり、設立時取締役は発起人の活動に対する監督機関として機能します。
 以上のように、設立時取締役は、その選任後から会社の成立までの間にも活動をするわけですが、まだ会社が成立していないため、選解任や代表取締役の選定解職などは独自の(会社成立後の取締役とは異なる)設定が必要となります。本問題は、この点を問うものです。以下、一つひとつ解説します。
1.誤り。会社はまだ成立しておらず、会社の機関たる株主総会も存在していないため、議決権を行使できる発起人の議決権(出資の履行がされた設立時発行株式1株につき1個の議決権)の過半数(設立時監査等委員である取締役は3分の2以上)で行う(会社法43条)。
2.正しい(47条3項・同条1項)。設立される会社が取締役会設置会社である場合、会社はまだ成立しておらず、会社の機関である取締役会が存在しないため、本選択肢の通り決定する。
なお、取締役会設置会社でない場合に、代表取締役が定款で設けられるときには、会社成立後は、定款での指定、定款の定めに基づく取締役の互選、株主総会決議によって取締役の中から代表取締役を選定する(会社法349条3項)。会社が成立する前に設立時取締役から設立時代表取締役を選定する方法は定められていない。成立後のアナロジーから、定款の記載に合わせて、定款での指定、設立時取締役での互選で代表取締役が選定でき、定款において、設立時代表取締役を株主総会で選定すると定めても、適法であるとされる。
 本問では、定款に定めがあるとは記載されていないため、定款に定めがないものとして、取締役会設置会社の事例のみで解答することになる。
3.誤り。検査役の調査を経た場合、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合には義務を負わない(52条2項2号)。この点、募集設立で無過失責任とされていることと異なる(会社法103条1項により募集設立についても52条2項が準用されるが、2号の適用が排除されている)。
4.誤り。募集設立においては、創立総会で設立時取締役が選任されるが、会社法47条は適用されるので(25条1項2号には第6節が適用される旨の明記があることを参照)、選択肢2での解説のとおりとなる。

〔講評〕
 スタンダードコースは問題集から6割から7割程度が出題されますが、それは問題集で扱っている領域や同一の切り口のみから出題されるということを意味しません。
 設立については、発起設立と募集設立との違いを問うことが多かったのですが、実務において利用されるのは発起設立であり、募集設立がほとんど利用されない状況です。この点で、会社法の基礎としては、発起設立と募集設立の際よりも、両者に共通して、そもそも設立がどのように実施され、発起人、設立時取締役の職務の内容、「設立時取締役」が「取締役」とどう異なるか、という点であり、その理解が重要であるというメッセージを込めて本問題を出題しています。
 学習方法について、問題集の問題を読み、解答を見て正誤を確認するだけの学習でなく、解説をよく読み、理解することがまずは大切です。しかし、会社法・商法の扱う領域は広く、問題集だけで網羅することは難しいところがあります。問題集の問題は、会社法・商法を理解するのに基本的な理解を涵養することを目的にしていますが、なぜこの点が出題されているか、ということを理解することで、会社法・商法全体の構造の理解が深まります。そのような理解を涵養するためには、基本的なテキストと問題集を往復することが重要です。問題集で問題を解く際には、その問題が扱う領域について基本的なテキストの記述を読むことで、より立体的な知識の定着が可能となります。

【行政法】
問8
 国家賠償法1条1項における「過失」と「違法」に関する以下の記述のうち,正しいものを1つ選びなさい。

1.違法について,行為に着目して判断する見解と結果に着目して判断する見解とがあるが,行政処分については,行為に着目して判断するのが判例の一貫した立場である。
2.過失と違法の関係について,それぞれ独立の要件として別個に検討を加える見解と両者を一元的に判断する見解とがあるが,行政処分については前者の見解により処理するのが判例の一貫した立場である。
3.行政処分の取消訴訟における違法と国家賠償法1条1項における違法を同一のものととらえるのが判例の一貫した立場である。
4.過失は個々の公務員の具体的な行為をとらえて判断するべきであり,加害公務員の具体的な行為を特定できない場合にはおよそ過失を認めないのが判例の一貫した立場である。

正解:1

〔講評〕

 本問は,国家賠償法1条1項に規定されている「過失」と「違法」との関係についての理解を問うものです。国家賠償法における重要かつ基本的な問題であり,部分的には問題集でも扱われていますが,正面から扱った問題がなかったことから,新作問題として出題しました。
 選択肢1が正答ですが,選択肢2と解答した受験者が多かったようです。
 「過失」と「違法」との関係については,両者を一元的にとらえる見解(一元説・職務行為基準説)と別個独立なものととらえる見解(二元説・公権力発動要件欠如説)があり,いずれも結果ではなくて行為に着目する点で共通点を有するものの(第一点,選択肢1関係),「過失」と「違法」の関係について別個に検討を加えるか両者を一元的に判断するか(第二点,選択肢2関係),行政処分の取消訴訟における「違法」と国家賠償法における「違法」を同一のもとと捉えるか異なるものと捉えるか(第三点,選択肢3関係)という点で対立しています。問題集で言及されている税の更正処分についての最判平5・3・11民集47・4・2863は,第二点について後者の見解を取り,第三点について両者を異なるものと捉えていますので,選択肢2,3ともに誤りということになります。
 このように,問題集で言及されている判例をきちんと理解していれば,自ずと選択肢2は誤りという結論に至るはずです。単に問題を解くだけではなくて解説から学ぶ姿勢で問題集に取り組むこと,結論の違いだけではなく対立点を意識して学習することが求められます。

【基本法総合】
 2021年度法学検定スタンダード<中級>コース基本法総合について,民法の問題の中で正答率が1番低かった問題5(問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。

問5
 以下の記述のうち,誤っているものを1つ選びなさい。

1.Aは,Bの詐欺により,Cに対し,甲土地を売る旨の意思表示をした。この場合において,CがBの詐欺を知っていたときは,Aは,詐欺を理由に意思表示を取り消すことができる。
2.Aは,Bの代理人と称して,Cとの間で,B所有の甲土地を売る旨の契約を締結したが,実際には甲土地の売却に関する代理権を有していなかった。この場合において,CがAに代理権のないことを知っていたときは,Bは,Cに対して,表見代理による責任を負わない。
3.Aは,B所有の動産甲に権原なく工作を加え,甲の価値を著しく超える価値を有する加工物乙を作った。この場合において,Aが動産甲について自分には権原がないことを知っていたときは,Bが加工物乙の所有権を取得する。
4.Aは,Bに対して100万円の貸金債権(甲債権)を有しており,Bは,Cに対して100万円の貸金債権(乙債権)を有していた。甲債権には相殺禁止特約が付されていた。その後,Aから甲債権を譲り受けたCは,Bに対して,甲債権を自働債権とする乙債権との相殺を主張した。この場合において,Cが甲債権の相殺禁止特約の存在を知っていたときは,Bは,相殺禁止特約をもってCに対抗することができる。

正解:3

〔講評〕

 ある効果の発生に関して関係者の悪意が要件に含まれるかという記述について「誤っているもの」を選ぶという問題で,所有権取得原因の1つである加工について述べた選択肢3を選ぶものでした。加工に関する民法246条は,材料提供者が所有権を取得することを前提としつつ,加工物の価値が著しく増加するときには加工者が所有権を取得するとのルールを定めており,加工者の善意・悪意を問題としていません。
 所有権取得に関する基本的なルールであり,学習の過程で条文の原文を必ず読むようにしていれば正解にたどり着けたと思われます。まずは,普段の学習から,常に六法を手元において条文を確認する癖を身につけましょう。
 さらに,加工のルールの背景には,そもそも材料は材料所有者の所有権に属しているのだから,材料所有者がそのまま所有権を取得することが原則であるという価値判断,そして,加工によって著しく価値が増加した場合には,そこに付加された労働を提供した加工者に所有権を与え,あとは償金によって利害を調整するという価値判断があります。こうしたルールの背後にある価値判断についても,教科書などを丁寧に読み込むようにすることで,さまざまな問題に対して,惑わされることなく正答を導くことができるようになるでしょう。

アドバンスト〈上級〉コース

【刑事訴訟法】
問9
 被害者や被疑者が,被害・犯行状況について,言葉や動作で再現する様子を録取し,あるいは写真で記録して作成した実況見分調書(以下,「調書」という)を検察官が証拠調べ請求した場合において,これに証拠能力を認めるための要件に関する以下の記述のうち,最高裁判所の判例がある場合には判例に照らして,誤っているものを1つ選びなさい。なお,証拠としての取調べに対する当事者の同意はないものとする。

1.調書により立証すべき事実がいかなるものであっても,調書に貼付された,動作による再現を記録した写真に証拠能力を認めるために,再現者による署名押印は不要である。
2.調書により立証すべき事実によっては,犯行・被害時の状況を説明する供述を録取した部分について,供述者の署名押印が必要とされない場合がある。
3.調書により立証すべき事実によっては,再現動作が供述としての意味をもたない場合がある。
4.調書により立証すべき事実によっては,刑事訴訟法321条3項の要件を考慮する必要がない場合がある。
5.再現されたとおりの事実の存在を示す証拠として用いる場合,再現者が誰であるかによって,証拠能力の要件は異なる。

正解:4

〔講評〕

 この問題は,いわゆる再現実況見分調書の証拠能力について,最高裁判所の判例(最判平17・9・27刑集59・7・753)の理解を前提にして,その判断の過程や手法を問うものです。全体の正解率が16.1% と振るわず,かつ,刑事訴訟法全体の成績上位者にも誤答が目立つ結果となりました。
 まず,このような調書は,その作成者である捜査官が認識した事実を文書で報告する証拠というべきですから,刑事訴訟法320条1項の公判供述代用書面に該当します。したがって,その証拠能力の判定基準は,刑事訴訟法321条以下の各条項に該当するかどうかによるべきことになります。まず,問題文に当事者の同意がないとあるので,刑事訴訟法326条1項の適用はありません。したがって,その証拠能力は,刑事訴訟法321条3項の規定により判定すべきことになります。
 選択肢1は正しい記述(すなわち,選択肢としては誤り)です。一般に,書面に記載されている供述をした者Aと書面の作成者Bとが異なる場合において,供述者Aの書面への署名・押印が要求されるのは,作成者Bの知覚・記憶・表現・叙述に誤謬が混入していないことを保障するためです(Aが言ったことをBが聞き違えたり,間違えて記載したりすることがありうるので,作成された書面にその種の誤謬がないことをAが確認するためのものです)。書面やその一部について,そのような伝聞固有の危険が含まれない記録があるのであれば,当該書面またはその一部について,Aの署名・押印を要求する実質的理由はありません。したがって,再現調書に貼付された再現記録の写真について,(写真として真正である以上)再現者Aの署名・押印が必要とされるいわれはありません。作成者BがスケッチによりAの動作を記録してそのイラストを書面に貼りつけたというのであればともかく,作成者Bが機械的・光学的にAの動作を写真撮影したのであれば,伝聞固有の誤謬が混入することはありません。それは,立証すべき事実のいかんに左右されません。言い換えると,書面の作成者Bが見間違えたので,あるいは勘違いや撮影の手違いがあったので,再現者Aがした動作とは異なる映像が貼りつけられている,というような事態は伝聞法則適用の場面として想定されていません(偽の写真が貼りつけられたというのなら,伝聞法則を議論する以前に,関連性の問題で失格です。逆に,捏造写真にAが署名・押印したところで,その写真が捏造でなくなるわけではありません)。すなわち,調書に貼付された写真の真正が担保されていることが必要かつ十分な条件であり,署名・押印は証拠能力の要件ではないということです。前掲の最高裁判例は,立証すべき事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される場合(であったときですら),再現者の署名・押印を要求していません。立証すべき事実が再現状況のみにとどまるのであれば,なおさらのこと,再現者の署名・押印は不要です。受験者の45.5% がこれを正解肢(すなわち,誤っている命題)として選択していました。再現調書の問題は,やや応用的で難しい側面があるのは否定できませんが,判示の言葉を覚えるのではなく,その内容を理解することが肝要です。
 選択肢2は正しい記述(すなわち,選択肢としては誤り)です。再現者Aのした状況説明の供述(たとえば,「私はこのイ地点に座っていました」との供述)について,その供述内容の真実性を立証するためではなく(すなわち,Aが実際にイ地点に座っていたことを立証するためではなく),書面の作成者BがA供述をそのように認識したという事実を立証する場合(すなわち,Aがそのように発言したので,わたくしBはイ地点を見分したのであるということを立証する場合),Aの署名・押印は不要です。このことを「現場指示」と「現場供述」という用語で説明すれば,「現場指示の限りでA供述を用いるときはAの署名・押印は不要である」という命題となります。あるいは,見分の目的ないし見分対象の特定の限りで用いる場合という言い方も可能です。この選択肢についても,受験者の18.8% が選択するという結果となりました。
 選択肢3は正しい記述(すなわち,選択肢としては誤り)です。すなわち,再現者Aの供述として用いるのではなく,作成者Bが認識した客観的位置関係,態勢,事物の状態などの限りで立証に用いるときがありえます(たとえば,混雑度や身体的特徴から,その姿勢でも犯人と被害者とが接触できる位置関係にあることを立証する場合など)。あるいは,再現者Aの動作とAの別の供述調書の内容とが一致していることから,その信憑性,あるいは任意性の判定資料とすることなども考えられます。このように,再現調書からA供述としての性質を除外しても証拠として用いることができる場合がいくつか考えられます。
 選択4は誤った記述(すなわち,選択肢としては正解)です。再現調書は,捜査官による見分の結果を記載した書面ですから,刑事訴訟法326条の同意がない限り,同法321条3項の要件を充足することが必須です。ほかにこのような書面の証拠能力を肯定する条項は存在しません。そして,このことは立証すべき事項のいかんに左右されません。この選択肢4の正解に到達したのは,受験者の16.1% にとどまりました。詳細な解釈論の前に,刑事訴訟法320条以下の全体的な見取図を描けるようになるとよいと思われます。
 選択肢5は正しい記述(すなわち,選択肢としては誤り)です。再現されたとおりの事実の存在を立証するために用いる場合は,再現者が被疑者(公判の時点では被告人)であるか,被疑者以外の第三者であるかにより,証拠能力の判定基準が異なります。すなわち,再現者が被疑者であるのであれば,刑事訴訟法321条3項・320条1項により,被告人の公判期日における供述に代えて再現調書を証拠とすることになり,結果として刑事訴訟法324条1項が準用されます。あたかも,再現調書に記載されている被疑者としての供述を,捜査官が公判廷で証言しているのと等しい事態が生じるのです(再現調書の作成者Bが,公判廷で,「被告人は,再現時にこのような動作と説明をして,事件当時の行動を表現しました」と証言しているのに等しい)。したがって,その証拠能力は,刑事訴訟法324条1項・322条の準用により,実質的には,任意性です。これに対して,再現者が被害者のような第三者であるときは,同じ論理により,その証拠能力の要件は,刑事訴訟法324条2項・321条11項3号の準用により,実質的には,供述不能,不可欠性,特信情況です。この選択肢を選んで誤答したのは,受験者の15.2% でした。


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