2022年度 法学検定試験結果講評

2022年11月27日に実施いたしました法学検定試験のうち、ベーシック〈基礎〉コースおよびスタンダード〈中級〉コースの各科目から数問ずつ、試験結果を踏まえた講評を掲載いたします。復習に是非お役立てください。

ベーシック〈基礎〉コースの講評
スタンダード〈中級〉コースの講評

ベーシック〈基礎〉コース

【法学入門】
問4
 つぎの条文(著作権法46条の全部)のなかの「二」のよび方として、正しいものを1つ選びなさい。

著作権法
第46条
 美術の著作物でその原作品が前条第2項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

1 .著作権法46条2号
2 .著作権法46条1項2号
3 .著作権法46条2項2号
4 .著作権法46条2項

正解:1

〔講評〕

 問題4は、条項の表記の仕方またはよび方を問う問題です。この条文には項が1つしかなく、その場合は、第1項とはいいません。第1項とよぶのは、第2項以下がある場合に限られます。冒頭に漢数字がある項目は「号」を付けて」よびます。この条文では、1号から4号まであります。よって、肢1の「著作権法46条2号」が正解です。なお、1号の前にある文章を柱書(はしらがき)といいます。


問10
 以下の記述のうち、「リベンジポルノ防止法」と略称される法律の目的規定の記述として、正しいものを1つ選びなさい。なお、以下の法律の目的の記述は、一部省略してある。

1 .この法律は、インターネット異性紹介事業を利用して児童を性交等の相手方となるように誘引する行為等を禁止する……こと等により、インターネット異性紹介事業の利用に起因する児童買春その他の犯罪から児童を保護し、もって児童の健全な育成に資することを目的とする。
2 .この法律は、犯罪により害を被った者……の受けた身体的、財産的被害その他の被害の回復には困難を伴う場合があることにかんがみ、刑事手続に付随するものとして、被害者及びその遺族の……被害の回復に資するための措置を定め……、もってその権利利益の保護を図ることを目的とする。
3 .この法律は、私事性的画像記録の提供等により私生活の平穏を侵害する行為を処罰するとともに、……当該提供等による被害者に対する支援体制の整備等について定めることにより、個人の名誉及び私生活の平穏の侵害による被害の発生又はその拡大を防止することを目的とする。
4 .この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性に鑑み、……児童買春、児童ポルノに係る行為等……を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。

正解:3

〔講評〕

 問題10は、近年の立法の1つである「リベンジポルノ防止法」の立法目的に関する問題です。正式な法律名(「私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律」)を覚える必要はありませんが、報道などでよく話題となる法律の略称とその大まかな目的・趣旨には関心をもっていただければと思います。肢1は「会い系サイト規制法」、肢2は「犯罪被害者保護法」、肢4は「児童ポルノ禁止法」の各々立法目的を示しています。正解は肢3です。リベンジポルノが法律用語を用いてどのように規制されているかを、まずは立法目的の規定だけでよいので、今一度確認してみてください。

【憲法】
問題6
 政教分離に関する以下の記述のうち、判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.政教分離原則に違反する国家と宗教のかかわり合いとは、わが国の社会的、文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度の根本原則との関係で相当とされる限度を超えると認められるものをいう。
2.政教分離原則に違反する国の宗教的活動は、当該活動の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進または圧迫、干渉等になるような行為に限定される。
3.地方公共団体が、一般人の目から見て、特定の宗教に対して特別な支援、援助を行っているとの印象を与えるような行為をすることは、政教分離原則に違反する。
4.憲法20条1項後段で特権付与が禁止される「宗教団体」および憲法89条で公金支出が禁止される「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指す。

正解:2

〔講評〕

 本問の趣旨を理解するためには、判例における目的効果基準の位置づけの変遷を理解する必要があります。従来、判例はいわゆる目的効果基準に従って政教分離原則違反の有無を判定していたとされました。しかし近年、砂川市空知太神社事件判決や久米孔子廟事件判決のように、目的効果基準を用いず、諸般の事情の総合考慮によって政教分離原則違反を判断するものが現れています。そのため、肢2の「限定される」とする見方は妥当しません。
 他方で、判例は必ずしも目的効果基準を放棄したわけではありません(白山比咩神社事件判決:最判平22・7・22判時2087・26)。この基準を用いるとき、判例は一般人の評価を意識しながら、目的効果の判断をしています。それゆえ、肢3は正しいということになります。
 また、目的効果基準を用いるにせよ、用いないにせよ、判例が政教分離原則違反を判断するときは必ず、国家と宗教のかかわり合いが信教の自由の保障の確保という制度の根本原則との関係で相当とされる限度を超えるといえるかを問うています。ですので、肢1は正しいということになります。肢4にいう「宗教団体」や「宗教上の組織若しくは団体」についても、判例は、目的効果基準を用いるにせよ、用いないにせよ、特定の宗教の信仰、礼拝または普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すと述べています。

【民 法】
 2022年度法学検定ベーシック〈基礎〉コース民法の問題について、ここでは、正答率が1番低かった問題14と、2番目に低かった問題13を取り上げて講評します。いずれの問題も、問題集には載っていない問題ですが、問われていることは制度のごく基本的な内容であり、思ったよりも正答率が伸びなかったという印象を受けました。問題集や教科書をどのように読むべきだったのかを、これら2つの問題で確認しておきましょう。
問14
 以下の契約のうち、有償契約ではありえないものを1つ選びなさい。

1.使用貸借
2.請負
3.委任
4.寄託

正解:1

〔講評〕

 契約は、大きく有償契約と無償契約に分かれますが、それに関連する問題で、無償契約である選択肢1(使用貸借)を選択するものでした。なお、物の貸し借りを有償で行うと、賃貸借という別の契約類型になります。
 むしろ誤答である選択肢3(委任)と選択肢4(寄託)を選んだ受験生の方が多かったという結果だったのですが、委任と寄託はいずれも、条文上、無償が原則とされつつも特約によって報酬を定めることができる(648条1項、665条)とされており、「有償契約ではあり得ない」とはいえません。
 本問自体は問題集に掲載されていないものの、関連する情報が問題集の問題80、89、90にも掲載されています。毎年講評の中で述べていますが、問題集を用いて学習するときに、その問題文や解説文の情報を1つ1つ理解し、問題集に現れているのと表現とは違った出題をされても対応できるようにすることが重要だと感じます。また、類似する契約と比較することでその契約類型の特徴を把握するということも重要です。


問13
 相殺の要件に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.相殺は、履行地が異なる債務の間では、することができない。
2.相殺は、弁済期が同一の債務の間でなければ、することができない。
3.相殺は、同種の目的を有する債務の間でなければ、することができない。
4.相殺は、金額が異なる金銭債務の間では、することができない。

正解:3

〔講評〕

 民法505条が定める法定相殺の要件について正しいものを答える問題であり、「二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合」という条文の文言に適合する選択肢3を選択するものです。基本的な要件に関する問題でありながら、正答率は4割強にとどまっており、また、民法をよく勉強をしている受験生にも間違えた学生がいるようです。
 誤答の中では、選択肢2や選択肢3を選ぶものの割合が高くなっていました。このことからすると、「対立する債務がともに弁済期にある」ということの意味が分かっていない(両債務で弁済期が異なっていても、一方の弁済期が徒過したまま放って置かれて、他方の弁済期も到来することがありうることなどが想像できていない)、あるいは「対当額で消滅する」という相殺の効果の意味がわかっていない(債務の金額は異なっていてもよく、消滅する金額が「対当額」と定められている)のではないかと想像されます。単に書かれている要件を覚えるだけではなく、1つ1つの要件や効果がどのような場面を念頭において定められているのかをイメージしながら学習することで、この種の問題に対応する力が身につくのではないかと思います。

【刑 法】

問5
 正当防衛(刑法36条1項)が成立するための要件に関する以下の記述のうち、判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.行為者が侵害を予期していたからといって、直ちに侵害の急迫性が失われるわけではない。
2.防衛行為は、防衛の意思をもってなされることが必要であり、相手の加害行為に対し憤激または逆上して反撃を加えたときには、防衛の意思を認めることはできない。
3.防衛に名を借りて侵害者に対し積極的に攻撃を加える行為は、正当防衛のための行為と認めることはできない。
4.急迫不正の侵害に対する反撃行為は、自己または他人の権利を防衛する手段として必要最小限度のものであること、すなわち、防衛手段として相当性を有することが必要である。

正解:2

〔講評〕

 正解は、選択肢2である。
 判例は、正当防衛が成立するために防衛の意思が必要であるとしているが、憤激または逆上して反撃を加えたからといって、ただちに防衛の意思を欠くものではないとしている(最判昭46・11・16刑集25・8・996)から、選択肢2は誤りである。そして、防衛の意思と攻撃の意思が併存していても防衛の意思を欠くものではないとする一方、防衛に名を借りて積極的に攻撃を加える行為は、防衛の意思を欠く結果、正当防衛のための行為と認めることはできないとしている(最判昭50・11・28刑集29・10・983)。よって、選択肢3は正しい。判例について、防衛の意思の内容をより実質的に認識することが必要である。


問11
 自動車で通行人をはねて重傷を負わせた運転者が、その事実に気づいた場合に関する、以下の記述のうち、判例・裁判例がある場合には判例・裁判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.被害者を放置して逃走したが、被害者の負傷が生命に危険が及ぶ程度にまでは至らず、人通りも多く、救助される可能性が高い場合には、殺人未遂罪も保護責任者遺棄罪も成立しない。
2.被害者が要保護状態にあることを認識し、いったん自動車に乗せながら、事故の発覚を恐れて、途中で被害者を放置して逃走した場合には、保護責任者遺棄罪が成立する。
3.被害者が要保護状態にあることを認識し、いったんは病院に搬送しようと自動車に乗せながら、事故の発覚を恐れて気が変わり、すぐに救命措置を取らなければ被害者が死亡するかもしれないことを予見しながら、そのまま走行を続けている間に被害者が死亡した場合には、殺人罪が成立する。
4.被害者を放置して逃走したが、被害者が、すぐに救命措置をとっても助からない致命傷を負い、まもなく死亡した場合、殺意があれば殺人罪、殺意がなければ保護責任者遺棄致死罪が成立する。

正解:4

〔講評〕

 正解は、選択肢4です。期待された作為(救命措置)を取っても助からない(結果回避不可能である)場合には、不作為と死亡結果との間の因果関係が否定されますから、既遂(殺人罪、保護責任者遺棄致死罪)は成立しません。この場合、殺意があれば殺人未遂罪、保護責任者遺棄の故意があれば保護責任者遺棄罪が成立することになります。なお、結果回避不可能な場合には、法は不可能を強いないのであるから、作為義務、保護責任も生じないとする見解からは、実行行為性が否定され、殺人未遂罪も保護責任者遺棄罪も成立せず、先行行為である過失運転致死罪にとどまるとされています。正答率が低かったのですが、被害者を放置して逃走し、被害者が死亡したという事実に、救命措置を取っても助からない致命傷を負っているという事実が加わっていることの法的意味に注意してください。
 選択肢1、2、3は正しい記述です。選択肢1を選択した受験生が極めて多かったのですが、被害者の負傷が生命に危険が及ぶ程度にまでは至っておらず、また、人通りも多く救助される可能性が高いということは、被害者の生命の安全は運転者の手に委ねられているとはいえないことを意味しますので、作為義務、保護責任は生じるとはいえません。選択肢2、3と比較してみてください。判例においても、単純なひき逃げに保護責任者遺棄(致死)罪、殺人罪の成立を認めたものはなく、多くは、選択肢2、3のように、いったん自己の自動車に被害者を乗せた(自己の支配領域内に置いた)後に遺棄・不保護の意図が生じた場合であることに注意してください。

スタンダード〈中級〉コース

【法学一般】
問3
 以下の記述のうち、法的安定性によって正当化できないものを1つ選びなさい。

1.最高裁判所が判例を変更するためには、大法廷で審理しなければならない。
2.裁判官は、憲法と法律に拘束され、良心に従って独立して裁判する。
3.他人の土地の占有を一定期間継続することにより、その土地の所有権を取得する。
4.法令解釈に誤りがある判決であっても、確定すれば、その訴訟の当事者を拘束する。

正解:2

〔講評〕

 問題3は、法的安定性の意味について問う問題です。法的安定性の意味には2つあります。第1に、法令ないしその解釈が頻繁に変更されないという意味で安定していること。この意味での法的安定性は、法が安定しているということであり、実際上、予測可能性が高いことと一致します。第2に、その端緒が違法か合法かを問わず、一定の事実状態またはその継続を、法によって承認すること、その意味で安定化させることです。第1の意味での法的安定性に関係するのが、肢1の記述であり、第2の意味のそれに関係するのが、肢3と肢4の記述です。肢2は憲法76条3項の内容ですが、法的安定性とは関係せず、本問ではこれが正解となります。


問9
 裁判手続の利用に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。

1.解雇や賃金不払など、個別労働関係に関する民事紛争に際して利用が考えられる主な裁判手続として、民事訴訟、民事調停、労働審判手続がある。
2.売買代金や返済すべき貸付金の支払を求める場合に利用が考えられる主な裁判手続として、民事執行手続、民事調停、履行勧告手続がある。
3.借金が多いため生活・経営の再建または事業からの撤退をはかる場合に利用が考えられる主な裁判手続として、破産手続、民事再生手続、保護命令手続がある。
4.判決・和解・調停等で決められた内容の実行を相手に求める場合に利用が考えられる主な裁判手続として、民事執行手続のほか、支払督促手続がある。

正解:1

〔講評〕

 問題9は、裁判手続の利用に関する問題です。肢1が正解で、その記述にある通り、個別労働関係に関する民事紛争の解決の一般的な途として、「労働審判手続」の中で、可能であればまずは調停による解決が試みられ(労審1条)、不調のときは労働審判を行い(労審20条)、さらに審判に不服があるときは、「民事訴訟」へと進みます。肢2では「履行勧告手続」(家審289条:家庭裁判所の審判の取り決め等を守らせる制度)、肢3では「保護命令手続」(配偶者暴力10条:配偶者等からの身体の暴力を防ぐ手続)、肢4では「支払督促手続」(民訴382条以下:金銭の支払等の請求につき、債権者の申立てで、理由があると認められれば支払督促を発する手続)が、それぞれそこで可能な手続とは制度趣旨が異なるものとしてあげられており、いずれも誤りとなります。

【憲法】
問題7
 憲法22条1項は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由も保障しているとされるが、以下の法規制のうち、判例に照らして、狭義における職業選択の自由そのものに制限を加えているとはいえないものを1つ選びなさい。

1.公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠くと認められる場合に、都道府県知事が公衆浴場の経営を許可しないことができると定める法規制
2.司法書士以外の者が、他人の嘱託を受けて、登記に関する手続について代理する業務を行うことを禁止し、これに違反した者を処罰することを定める法規制
3.医薬品の一般販売業について、不良医薬品の供給から国民の健康・安全を守るため、業務の内容の規制のみならず、供給業者を一定の要件を具備する者に限定し、それ以外の者による開業を禁止する許可制を定める法規制
4.要指導医薬品の販売または授与をする場合、薬剤師に対して、対面による情報の提供および薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず、これができないときは要指導医薬品の販売または授与をしてはならないと定める法規制

正解:4

〔講評〕

 規制目的二分論を展開したと理解されることの多い薬事法違憲判決は、それとは異なる二分論を展開していました。それが狭義における職業選択の自由と職業活動の自由の二分論です。その上で、単なる職業活動の自由の規制を超え、狭義における職業選択の自由そのものに制約を課すことをもって、職業の自由に対する強力な制限に該当すると判示しました。同判決によれば、狭義における職業選択の自由とは、職業の開始、継続、廃止における自由を意味するのに対し、職業活動の自由とは、選択した職業の遂行自体の自由、すなわち、職業活動の内容、態様の自由とされています。
 判例によれば、肢1から肢3までの法規制は、すべて狭義における職業選択の自由の規制と解されます。それらは特定の職業に就くことの選択を規制していると解されるからです。これに対して肢4の法規制は、特定の職業に就くことの選択自体を規制するものではなく、選択した職業の遂行の仕方を規制したものとみなされています。

【民 法】
 2022年度法学検定スタンダード〈中級〉コース必須科目の民法について、正答率が1番低かった問題6と、2番目に低かった問題3(いずれも問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。さらに3番目に低かった問題13についても若干コメントします。

問6
 甲土地の所有者はAである。Bは甲を利用する権原がないのに、甲の上に乙建物を所有し、自らの意思に基づいて乙の所有権取得の登記を備えた。この場合に関する以下の記述のうち、判例がある場合には判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.Cは、Bに無断で、乙について自己への所有権移転登記をした。この場合、Aは、Cに対して、甲の所有権に基づき、乙を収去して甲を明け渡すことを請求できる。
2.Bは、Dに乙の所有権を譲渡したが、Dへの所有権移転登記はされていない。この場合、Aは、Dに対して、甲の所有権に基づき、乙を収去して甲を明け渡すことを請求できる。
3.Bは、Dに乙の所有権を譲渡したが、Dへの所有権移転登記はされていない。この場合、Aは、Bに対して、甲の所有権に基づき、乙を収去して甲を明け渡すことを請求できる。
4.Bは、Eに乙を賃貸し、引き渡した。この場合、Aは、Eに対して、甲の所有権に基づき、乙から退去して甲を明け渡すことを請求できる 。

正解:1

〔講評〕

 甲土地の利用が乙建物によって侵奪されている場合における所有権に基づく物権的返還請求権の相手方に関する問題であり、乙について実体上の所有権をもたない(つまり乙の処分権限をもたない)Cに対する明渡請求を可とする選択肢1を誤りであるとして選択するものです。
 物権的返還請求権の相手方は、実際に物権の行使を妨げている者であり(この観点から、選択肢1が正解、選択肢3が不正解であることが判別できる)、選択肢4におけるEも乙の占有を通じて乙が所在する甲を占有することに気がつけば不正解であることが判別できます。
 選択肢2は、上記の原則からすると例外(実体的権利を失ったはずのBが物権的請求権の相手方になるという内容)にあたりますが、最判平6・2・8民集48・2・373がこうした例外を認めており、不正解と判別できます。
 本問は、問題集で直接扱っていないテーマに関するものであり、それが、15%弱という極端に低い正解率の原因と推測されます(しかも、選択肢2〜4の誤答がいずれも正解肢よりも高い割合になってしまいました)。受験生にとって、解答の見当をつけることもできなかったのかもしれません。しかし、物権的請求権の相手方に関する基本原則を知っていれば選択肢を1か2の二択に絞り込むことができ、学生向け判例集にも掲載されている基本的な判例を知っていれば正解にたどり着ける問題であり、もう少し正解率が高くなることを期待してもいました。問題集にとどまらず、さらに意欲をもって教科書や判例教材で知識を深めていただければと思います。


問3
 Aは、補助開始の審判を受け、同時に、Aが所有する甲土地の処分について補助人Bの同意を得なければならない旨の審判および甲の処分についてBに代理権を付与する旨の審判を受けた。しかし、その後、Aは、Bの同意を得ずに、Cとの間で、甲を500万円で売る旨の契約(「本件売買契約」という)を締結した。この場合に関する以下の記述のうち、判例がある場合には判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.Aは、Bの同意なく本件売買契約を取り消すことができる。
2.Aは、自ら代金を受領したが、その帰り道、代金を入れたカバンを紛失してしまった。この場合において、本件売買契約が取り消されたときは、Cは甲を返還する必要があるが、Aは代金を返還する必要がない。
3.Bが本件売買契約の代金と知りながらCから金銭を受領した場合でも、AがBによる受領の事実を知らなければ、Aは、本件売買契約を取り消すことができる。 4.CがBに対し、1ヵ月以上の期間を定めて、その期間内に本件売買契約を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をした場合において、Bが、その期間内に確答を発しないときは、本件売買契約は、追認されたものとみなされる。

正解:3

〔講評〕

 補助開始の審判および同意見付与の審判が行われ、行為能力が制限された被補助人が制限に反する行為をした場合について問う問題であり、代理人(補助人)が債務の履行を受領したために法定追認(民125条1号)が成立し、取消しができなくなるにもかかわらず、「取り消すことができる」とする選択肢3を誤りとして選択する問題でした。
 実は、法定追認についてのこうした説明は、問題集掲載の問題26肢1の解説で説明されています。また本問は、誤答である選択肢2や4を選ぶ受験生の方が多くいたのですが、選択肢2(制限行為能力者の返還義務の範囲が現に利益を受けている限度に縮減されること)は問題集の問題27で、選択肢4(制限行為能力者の相手方から保護者に対する催告があった場合において、期間内に確答が発せられないときは、追認が擬制されること)は問題集の問題4でそれぞれ説明したことを出題しているものです。そうすると、問題集を読み込んでいれば正答にたどり着けたはずの問題であり、実際、よく勉強している受験生ほど正答率が高いという結果になっています。


問13
 契約の終了原因に関する以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

1.使用貸借は、当事者が定めた期間が満了することによって終了する。
2.賃貸借は、賃借物の全部が滅失したことによって終了する。
3.委任は、委任者の死亡によって終了する。
4.寄託は、受寄者の死亡によって終了する。

正解:4

〔講評〕

 契約の終了原因に関して、「寄託は受寄者の死亡によって終了する」という誤りの選択肢である4を選択する問題でした。ベーシック問題14の講評でも触れましたが、類似する契約類型と比較しながらその契約の特徴を把握すること、問題集の解説に書かれた情報にも留意しながら学習を進めることが重要です。

【刑 法】
問5
 緊急避難(刑法37条1項)に関する以下の記述のうち、判例・裁判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.拳銃をこめかみに突き付けられ、生命および身体に対する危険が切迫した状況において、目の前にある覚醒剤を注射するよう迫られたため、自己の身体に覚醒剤を注射したという覚醒剤使用行為は、違法な行為により惹起された危難を避けるための行為であるため、緊急避難にはあたらない。
2.自ら招いた危難を回避するための行為は、緊急避難行為にはあたらない場合がある。
3.「やむを得ずにした行為」とは、当該避難行為をする以外には他に方法がなく、かかる行動に出たことが条理上肯定しうる場合の行為のことをいう。
4.緊急避難は、行為によって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、成立するから、自己の身体の自由に対する現在の危難から逃れるために他人を殺害した行為は、「やむを得ずにした行為」であったとしても、緊急避難にはあたらないが、過剰避難にはあたる。

正解:1

〔講評〕

 正解は1である。
 覚醒剤を使用する行為は、覚醒剤取締法違反の罪の構成要件に該当するものである。しかし、そのような法益侵害行為をすることが、自己の生命および身体に対する危険が切迫するという現在の危難を避けるため、やむを得ずにしたものであり、その行為により生じた害が、避けようとした自己の生命および身体に対する害の程度を超えないときには、緊急避難の要件をみたすことになる。東京高判平24・12・18判時2212・123は、このような行為が緊急避難に該当することを認めている。「現在の危難」は、違法な行為による危険が切迫している場合にも認められる。よって、1は誤りである。また、2は、自招危難に関するものである。東京高判昭45・11・26判タ263・355は、行為者が自己の故意または過失により自ら招いた危難を回避するための行為は、緊急避難行為にはあたらないとする。よって、2は正しい。正当防衛とは違い、緊急避難はややなじみが薄いかもしれないが、その要件について、重要な判例にはあたって、これを確認することが必要である。


問11
 2人以上の者が、意思の連絡なく同一人に暴行を加えて人を傷害し、その傷害を生じさせた者が不明である場合について、刑法207条に関する以下の記述のうち、判例・裁判例がある場合には判例・裁判例に照らして、正しいものを1つ選びなさい。

1.意思の連絡なく2人以上の者が殺意をもって同一人に暴行を加えて人を傷害し、さらにその傷害から死亡結果が発生した場合、刑法207条は適用される。
2.刑法207条を適用するためには、各暴行が当該傷害を生じさせうる危険性を有するものであること、および各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと、すなわち同一の機会に行われたものであることを検察官が立証したことが必要である。
3.共犯関係にない2人以上の者による暴行によって傷害が生じ、いずれの暴行から傷害が生じたかが不明であり、さらにその傷害から死亡結果が発生した場合において、いずれかの暴行と死亡結果との間に因果関係が肯定される場合には、刑法207条は適用されない。
4.刑法207条が適用されるためには、2人以上の者が意思の連絡なく暴行を加えて人を傷害したことが必要であるから、途中から行為者間に共謀が成立した場合には、刑法207条は適用されない。

〔参照条文〕刑法
(同時傷害の特例)
第207条 2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。

正解:2

〔講評〕

 正解は、選択肢2です。同時傷害の特例は、共同正犯でなくとも共同正犯と擬制するものですから、2人以上の者が、意思の連絡なく同一人に暴行を加えて人を傷害し、その傷害を生じさせた者が不明であることに加えて、数人の暴行が、外形上、意思の連絡に基づく共同正犯現象といえることが必要です。そのためには、各暴行が当該傷害を生じさせうる危険性を有するものであること、および各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において、すなわち同一の機会に行われたものであることを検察官が立証する必要があります(最決平28・3・24刑集5・10・1937、最決令2・9・30刑集74・6・669)。正答率が低かったのですが、最近の重要な最高裁判例に注目するようにするとよいでしょう。
 選択肢1、3、4は誤りです。1、3を正答とした受験生が多かったのですが、選択肢1については、同時傷害の特例は傷害(致死)罪についての規定であり、殺人罪には適用がないこと、選択肢3については、最高裁判例(前掲・最決平28・3・24)において、いずれの暴行から傷害が生じたかは不明であるが、いずれかの暴行と死亡結果との間に因果関係が肯定される場合にも刑法207条の適用があるとされていることに注意してください。選択肢4についても、途中から行為者間に共謀が成立した場合であっても、刑法207条の前提となる事実関係が証明された以上、同条が適用されるとしています(前掲・最決令2・9・30)。これは、共謀関係が認められない場合に刑法207条が適用されることとの均衡が根拠とされています。
 このように、同時傷害の特例については、近年、最高裁判所が重要な判断を示していますので、判例に目を通しておくとよいでしょう。

【刑事訴訟法】
問12
 以下のうち、最高裁判所の判例がある場合には判例に照らして、検察官の面前における供述を録取した書面に証拠能力を認めるための要件にあたらないものの組み合わせを1つ選びなさい。

ア.供述者が公判期日において、書面に録取された供述と相反する内容の供述をしたこと
イ.供述を録取した検察官が公判期日において、書面が真正に作成された旨を証言すること
ウ.供述者が公判期日において供述することができないこと
エ.録取された供述のなされた情況それ自体が、供述の信用性を担保するものであること(絶対的特信情況)

1.アイ  2.アウ  3.イエ  4.ウエ

正解:3

〔講評〕
 この問題は、検察官面前調書に証拠能力を認めるための要件についての理解を問うものです。本問では、正解率が25.8%にとどまり、刑事訴訟法の出題の中で、成績上位の受験者でも誤答が目立つ結果となりました。その原因として、一般に、証拠法の分野についての学習が手薄になる傾向があることに加え、検察官面前調書について、いわゆる伝聞例外として証拠能力が認められる場面に関する具体的なイメージがつかみにくい、ということがあるかもしれません。
 まず、検察官面前調書に録取されるのは、典型的には、被害者や目撃者といった被告人以外の者(供述者)がした、被害状況や犯行状況に関する供述です。その供述の録取された書面を、公判期日における供述に代えて、その内容どおりの事実があったことを立証するために用いる場合、被害者等の供述者の供述過程に含まれる誤りのおそれが反対尋問等の手段により払拭されていないため、伝聞証拠に該当し、原則として証拠とすることができません(伝聞法則。刑事訴訟法320条1項)。
しかしながら、その検察官面前調書を証拠として用いる必要性に鑑み、例外的に、証拠能力を認めるための要件について、刑事訴訟法321条1項2号が、次のように規定します。
 「① 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は②公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。」〔筆者注:丸数字を付加〕
 相当の長文であり、この規定がどのような構造となっているか、一読しただけでは理解することは困難ですが、「又は」という文言を挟んで、丸番号を付加したとおり、①被害者等の供述者が死亡するなどして、公判期日において供述することができないとき(供述不能)と、②被害者等の供述者が公判期日において供述したが、その内容が検察官による取調べにおいて供述したものと相反するとき(相反性)、という2つの場面が想定されています(②には、たとえば、目撃者が、検察官による取調べに対しては、任意に、目撃した犯行の状況をありのまま供述したが、その後、被告人側からの脅迫により畏怖した結果、公判期日において、検察官による取調べの際と相反する供述をするような事態が含まれます)。
 そして、ただし書には、「公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。」とありますが、この内容は、供述者が、公判期日において供述した際の情況と、検察官による取調べにおいて供述した際の情況とを比較して、検察官による取調べにおいて供述した際の情況の方が、より供述の信用性を担保しうる「特別の情況」であること(相対的特信情況〔相対的特信性〕)、を要求するものです。そこでは、供述者が公判期日において供述をしたことが前提となりますので、ただし書は、上記②の場面に関わる要件であることがわかります。
 このように、321条1項2号の規定をみてくると、検察官面前調書について証拠能力を認めるためには、①の場面では供述不能、②の場面では相反性および相対的特信情況、がそれぞれ要件となっています。
そこで、本問のアからエまでの肢を確認すると、アの相反性、ウの供述不能が、321条1項2号が規定する要件ですので、要件にあたらない肢は、イとエであり、正解は3ということとなります。
 なお、イは、捜査機関の検証の結果を記載した書面(検証調書)について、321条3項が、証拠能力を認めるために規定する要件です(同条4項は、鑑定書について、3項を準用しています)。
 また、エは、被告人以外の者が作成した供述書や、その者の、裁判官、検察官以外の者の面前における供述を録取した書面について、321条1項3号が、証拠能力を認めるために規定する要件です。公判期日外において供述者が供述した際の情況が、(公判期日において供述した際の情況との比較ではなく、)それ自体として供述の信用性を担保しうる「特別の情況」であることを内容とするため、絶対的特信情況(絶対的特信性)とよばれます(同じ要件は、被告人が作成した供述書やその供述を録取した書面について規定する322条1項にもあらわれます)。なお、高等裁判所の判断には、①の場面において、供述不能の要件に加えて、本肢の内容を要求するもの(大阪高判昭42・9・28高刑集20・5・611)がありますが、最高裁判所の判例にその旨を述べたものはありません(最判昭27・4・9刑集6・4・584など参照)。
 刑事訴訟法が伝聞例外として321条以下に規定する書面は多種多様ですが、検察官面前調書のような重要な書面については、証拠能力が認められる要件を単に暗記しようとするのではなく、その書面を使用することが必要となる具体的な場面と対応させながら、要件の意義について確認する方法が、知識を有機的に定着させ、理解を深めるのに有効だと思います。

【商 法】
 2022年度法学検定試験スタンダード〈中級〉コースにおいて正解率が低かった問題として、問題1、問題14についてコメントをします。両問とも法学検定試験の問題集からそのまま出題されたものではなく、問題集で出題されている問題(問題集の問題1、問題84)の解説で示されている事象法海度を確認するために作題したものです。以下、順に解説します。

問1
 商人および商行為に関する以下の記述のうち、正しいものを1つ選びなさい。なお、見解が分かれている場合には、最高裁判所の判例によるものとする。

1.商法で定められている商行為には、絶対的商行為と附属的商行為の2種類がある。
2.動産を安く仕入れて高く売る投機購買行為は、絶対的商行為に該当する。
3.絶対的商行為は、同種の行為を反復・継続しなければ商行為に関する商法の適用を受けることはない。
4.会社は商人ではないから、会社のする行為は附属的商行為と推定されることはない。

正解:2

〔講評〕

 問題1は、問題集問題1に相当する範囲に関する出題ですが、その範囲に関しての体系的な理解ができていなければ、難しい問題であったかもしれません。
 問われているのは、商法が適用される場面を確定する方法として商行為・商人という概念をしていることの理解度です。
 商法は、民法の特別法であり、民法ルールとは異なる特則を定めていますので、どのような場合に民法ではなくて商法が適用されるのかを決定しなければなりません。
 商法は、まず、「商行為」であれば、商法を適用するとし、何が商行為であるかを列挙する方法をとります。それが、1回限りの行為でも商法の適用を受けるべきとする絶対的商行為(商法501条に具体的な行為類型を列挙します)と、営利目的により反復・継続して同種の行為を実施する場合に商法の適用を受けるべきとする営業的商行為(商法502条に具体的な行為類型を列挙します)となります(絶対的商行為は1回限りの行為でも商法の適用を受けることから選択肢3が誤りであることがわかります)。商法は、この商行為をすることを業とする者、すなわち、営利の目的で同種の行為を計画的に反復、継続する者を「商人」として、その商人に関するルール(商号、商業登記、営業・営業譲渡、商業帳簿および商業業使用人に関するルール)を設けています。なお、営利の目的で同種の行為を計画的に反復、継続することを「営業」とよびます。
 もっともこのような制度設計の下では、商人が、営業として実施する行為(絶対的商行為・営業的商行為)以外に実施する行為については、商人が営業をするために必要な行為であっても、民法ルールが適用されることで混乱が生じかねません。たとえば、選択肢2は正しく、仕入れた商品を販売するという投機売買を反復継続的に実施すれば(反復継続して実施する商行為のことを基本的商行為とよびます)、その実施する者は商人であり、販売のために店舗を購入するという行為は「営業のために」実施する行為となります。商法は、このような「営業のために実施する行為」を附属的商行為(商503条1項)として商法適用があるとします(選択肢1は誤りとなります)。しかし、商人が自然人である場合を想定すれば、当該商人の活動は、営業活動以外にもあるはずで(たとえば、居住用の不動産を購入する)、営業活動以外に商法が適用されるべきではないと考えられる一方で、第三者からみてそれが営業活動かそうでないかが判明しづらい場合があります(たとえば、居住用の不動産を購入する資金を借り入れる場合には、当該借入れの動機が示されなければ、相手方には使用目的がわかりませんし、当該商人が居住用不動産の購入資金を借り入れることで、営業用資金を減らさずにすんだところがあるので、本人の認識とは異なり、営業に資している面があります)。このため、商人が、営業として実施する行為(基本行為)以外の行為をする場合には、営業のためにするものと推定することにしました(商503条2項)。
 他方で、商人概念を基礎とすれば、商法501条(絶対的商行為)または商法502条(営業的商行為)に列挙される商行為以外の活動を、営利の目的で反復継続して計画的に実施する者は、実質的に「営業」をしていても、商人でないとされかねません。イノベーションにより続々と新たなサービスが開発される時代にあって、条文に明記されている行為を反復継続的に実施しなれば商人として扱われないという体制では、十分に対応できません。
 このため、①鉱業(鉱山から採掘した鉱物を販売するため、仕入れ活動がない)・農業・林業・水産業者が自身の生産または捕獲した物を店舗等の施設によって反復継続的に販売する場合には、商行為を営業していないが、商人とみなすことにしています(擬制商人:商法4条2項)。また、②会社(株式会社・合名会社・合資会社・合同会社)がその事業としてする行為およびその事業のためにする行為は商行為とされ(会社5条)、自己の名をもって商行為をすることを業とする者として、商法上の商人に該当することになります(商4条1項)。最判平20・2・22民集62・2・576は、商法502条2項の適用を認め、会社の行為はその事業のためにするものと推定されるとし(商503条2項)、反証の余地を認めましたが、そもそも、会社の活動には、事業として実施する行為と事業のために実施する行為以外には想定することができないとして、反証の余地を認めた点には学説上批判もされています。選択肢4は、この点を問うもので、最高裁判所の判例に基づいて解答しますので、誤りとなります。
 以上のように商行為・商人をとらえて、商法の適用場面が決定されます。ここで述べた解説は、法学部における商法(会社法)総則・商行為法を扱う授業では標準的に説明される事項であり、標準的なテキストには記載されている内容です。問題集問題1と本年度法学検定試験問題1とはこのような理解ができているかを検証する目的で作題されていますが、両者が問う切り口は必ずしも同一ではありません。このため、問題集の解説を読み、解答が何かを理解するような「問題集だけの学習」では、本年度法学検定試験の問題1に答えられなかったかもしれません。


問14
 ともに公開会社であるA株式会社とB株式会社との間で、A社を完全親会社、B社を完全子会社とする株式交換が行われ、B社株主は株式交換対価としてA社株式を受領し、A社はB社の発行済株式の全てを有しているとする。以下の記述のうち、誤っているものを1つ選びなさい。

1.株式交換が行われる前にB社の株主がB社の取締役に対して責任追及等の訴えを提起していた場合、株式交換によって当該株主がB社の株主ではなくなった後もA社の株主である限り引き続き訴訟を追行できる。
2.株式交換の効力発生日より前にB社取締役がした任務懈怠行為について、株式交換の効力発生日においてB社の株式を6ヶ月前から保有していた株主は、当該株式交換によりB社株主でなくなった後も、A社株主である限り責任追及等の訴えを提起することができる。
3.株式交換の効力発生日以後にB社取締役がした任務懈怠行為については、A社の株主であれば誰でも、責任追及等の訴えを提起するよう請求することができる。
4.株式交換の効力発生日以後にB社取締役がした任務懈怠行為についてA社株主が責任追及等の訴えを提起するよう請求しようとする場合、A社に対してではなく、B社に対して請求する。

正解:3

〔講評〕

 問題14は、問題集の問題84を基礎として作題されていますが、事例的にA社とB社と設定して問う形に変更し、取締役の責任追及等の訴えが株式交換によってどのように扱われるか、という点に焦点をあてた問題に変更しています。選択肢として問うことは問題集における出題と大きな差はないのですが、出題形式の違いや、事例的な記述の状況の把握が難しかった可能性はあり、そもそも、株主による責任追及の訴え(株主代表訴訟)と組織再編行為としての株式交換との両方がわからなければ、答えられない問題ですので、難しい問題であったといえます。
 事例の設定は、選択肢1・2と選択肢3・4とで大きく異なります。
選択肢1・2の事例


 上図のように、株式交換前に任務懈怠責任の原因たる行為が発生している場合に、B社株主は、株式交換がなければ、B社の株主として株主代表訴訟(株主による責任追及等の訴え:会社法847条)により、B社取締役の責任を追及することができます。
 しかし、株式交換が行われると、B社株主(旧B社株主)は、株式交換完全親会社であるA社の株主となり、B社株主ではなくなります。すでに、株主による責任追及等の訴え(株主代表訴訟)が提起されていても、途中で原告株主が株主でなくなると、原告適格が喪失するとして、訴訟を却下する裁判例がありました(東京高判平15・7・24判時1858・154)。しかし、原告株主が株式交換後もA社株主であり続け、A社がB社の完全親子会社である場合には、利害関係が継続しており、原告株主が任意に株主資格を失ったわけではありませんので、原告適格を喪失するべきではないとして、会社法制定時に、株主が責任追及等の訴えを提起したのち、株式交換によって当該会社の株式を失っても、完全親会社の株式を取得している限りは引き続き当該責任追及等の訴えについて訴訟を追行することができるとし(会社851条1項1号)、裁判例の扱いを変更しました。選択肢1は、この点を示し、正しいものとなります。
 もっともそうであれば、株式交換前に株主代表訴訟を提起していなくても、株式交換前に会社に提訴請求はしていたり、提訴請求をしていないが準備をしていたりしているという場合であっても、株式交換後も旧B社株主がA社の株主であり、A社がB社の完全子会社である時には、利害関係が継続しており、原告株主が任意に株主資格を失ったわけではありませんので、会社法851条1項1号と同様の状況があり、また、B社の株主はA社しかおらず、B社取締役の責任追及が実施されにくいという提訴懈怠可能性が存在します。このため、平成26年会社法改正により、株主の責任追及等の訴えの提起権の行使は株式交換の影響を受けず、効力発生日より前から(公開会社であれば、原則として、効果発生日の6ヵ月前から)完全子会社の株主であった完全親会社の株主(旧株主。旧B社株主)にも、株式交換・株式移転の効力発生日以前に原因たる事実が生じた責任を追及する訴えを提起することが認められるとしました(会社847条の2第1項・2項・6項)。選択肢2は、この点を示し、正しいものとなります。
選択肢3・4の事例

 上図のように、選択肢3・4の事例では、B社取締役の任務懈怠は、株式交換後に生じています。株式交換後は、A社とB社との完全親子会社関係において、B社取締役の責任追及につき、完全親会社であるA社の株主がどのように関与するかという問題となります。このため、旧B社株主と、もともとA社株主であった者との間には状況の差がなく、同じように扱われます。平成26年会社法改正は、完全子会社取締役について提訴懈怠可能性が高いこと、完全子会社の取締役の任務懈怠によって完全子会社に損害が生じる場合、完全子会社の規模が大きければ、完全親会社への影響度も高いことを考慮して、最終完全親会社等の株主による特定責任追及の訴えを認めました。間接的な所有関係であることを考慮し、最終完全親会社の総株主の議決権の100分の1以上の議決権、または発行済株式の100分の1以上の株式を有する株主のみが、提訴請求をできるとされています(同条1項)。このため、誰でも追及できるとする選択肢3は誤りとなります。なお、最終完全親会社等の株主が追及できるのは、B社取締役の任務懈怠が発生した時点で、A社が有するB社株式の帳簿価格がA社の総資産の1/5を超える場合とされています(会社847条の3第4項・5項)。完全子会社の事業規模が小さければ、当該完全子会社は、完全親会社の一部署と変わらず、その取締役は完全親会社の従業員と替わらないことを考慮するからです。また、完全子会社の任務懈怠の原因となった事実により完全子会社に損害が生じてもその分完全親会社が利得をし、結果として完全親会社に損害が生じているとは評価できない場合には、完全親会社等の株主に責任追及を認める必要がないとして、提訴できないとされます(同条1項2号)。
 最終完全親会社等の株主による特別責任追及の訴えを提訴するためには、会社への提訴請求が必要とされますが、その請求先は、最終完全親会社(A社)ではなく、責任を追及しようとする取締役が所属している会社(B社)とされます(会社847条の3第1項)。このため、選択肢4は正しいものとなります。 以上の点は、問題集問題84で問う内容と同一ですが、株式交換が株主代表訴訟に与える影響という問題は、法学部の限られた科目数、授業時間の中では解説されないことも多いであろうといえ、難易度が高い問題であったといえます。

【学習へのアドバイス】
 スタンダードコースは問題集から6割から7割程度が出題されますが、それは問題集で扱っている領域や同一の切り口のみから出題されるということを意味しません。 学習方法としては、問題集の問題を読み、解答を見て正誤を確認するだけの学習でなく、解説をよく読み、理解することがまずは大切です。しかし、会社法・商法の扱う領域は広く、問題集だけで網羅することは難しいところがあります。法学検定試験のスタンダードコースは、法学部3年次生を想定し、大学での講義や自学・自習の到達度を検証することを目的としています。標準的なテキストや講義での学習を丁寧に実施していただき、涵養された知見・知識を問題集で確認する、という学習スタイルで勉強されることを期待しています。基本的なテキストでの自学と大学での授業で頭の中で制度の理解を行い、知識確認、理解度確認のための問題集での学習を行い、さらにあいまいだったところをテキストで確認するというサイクルを確立することで、より立体的な知識の定着が可能となります。

【基本法総合(憲 法)】
問3
 憲法28条の労働基本権に関する以下の記述のうち、判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.労働基本権の保障は、生存権の保障を基本理念とし、勤労の権利および勤労条件に関する基準の法定の保障とあいまって勤労者の経済的地位の向上を目的とする。
2.公務員は、自己の労務を提供することにより生活の資を得ているものである点において一般の勤労者と異なるところはないから、労働基本権の保障は公務員に対しても及ぶ。
3.労働組合が選挙において特定の候補者を支持することは認められるため、これに対抗して立候補しようとする組合員に、立候補を思いとどまるよう説得することは許される。
4.いわゆる生産管理は、使用者の財産権を侵害する性質を有するが、この点は同盟罷業も同様であるため、生産管理も争議行為としてその違法性が阻却される。

正解:4

〔講評〕

 本問は、労働基本権に関する基本的な判例の知識を問うものです。
 本問は誤っている肢を答えさせるものでしたが、多くの受験生は肢2や肢3を選択していたようです(正解は4)。肢2を選択した人は、もしかすると、公務員の争議行為が法律によって禁止されていることを知っていたために、公務員には労働基本権の保障が及ばないと考えたのかもしれません。しかし、全農林警職法事件判決(最大判昭48・4・25刑集27・4・547)は、公務員も勤労者として労働基本権を有することを認めています。判例によれば、公務員の争議行為の禁止が認められるのは、公務員が労働基本権を有していないからではなく、公務員の地位の特殊性や職務の公共性を理由に一定の制約が認められるからに過ぎません。したがって、争議行為の禁止が許されているという結論を知っているだけの人は、本問を誤答してしまったかもしれません。
 肢3も同様です。三井美唄事件判決(最大判昭43・12・4刑集22・13・1425)の結論部分(組合側が負けた)を記憶しているだけでは、誤答を導く可能性は高かったと思います。同判決は、立候補を思いとどまるよう説得することは許されると述べる一方で、説得に従わないことを理由に当該組合員を統制違反者として処分することは、組合の統制の限界を超えるものとして違法と判示していました。
 肢2も肢3も、判例集等で判決の結論部分だけを覚えるような勉強をしていると、かえって誤答を導きやすいものだったかもしれません。しかし、判決の理由付けや論理展開を意識して学習していれば正答を導くことは難しくはなかったと思いますので、判決における論理の流れを意識して学習するように努めましょう。
 なお、本問は、肢4の生産管理がどういうものかを知ってさえいれば、そもそも正解に迷うものではありませんでした。生産管理は、企業経営の権能を権利者の意思を排除して非権利者が行うものですので、同盟罷業とは性質を異にします(最大判昭25・11・15刑集4・11・2257:山田鋼業事件)。これを機に、判例集等で確認しておきましょう。

【基本法総合(民 法)】
 2022年度法学検定スタンダード<中級>コース基本法総合の民法について、正答率が1番低かった問題5(問題集には載っていない問題)を取り上げて講評します。
問5
 以下の記述のうち、判例がある場合には判例に照らして、誤っているものを1つ選びなさい。

1.売主Aは、買主Bとの間で、C所有の甲建物を代金1000万円で売る旨の契約を締結した。この場合、AB間の契約は有効であり、AはBに対して、甲の所有権を取得してBに移転する義務を負う。
2.売主Aは、買主Bとの間で、C所有の自動車乙を代金100万円で売る旨の契約を締結した。その後、AはCから乙の所有権を取得した。AB間で乙の所有権移転時期に関する特段の意思表示がない場合、乙の所有権は、AがCから乙の所有権を取得すると同時に、AからBに移転する。
3.売主Aは、買主Bとの間で、自転車丙を代金1万円で売る旨の契約を締結した。この契約が締結された当時、BはAが丙の所有者だと過失なく信じていたが、丙はAが所有者Cから預かったものだった。Bが契約締結と同時に占有改定の方法によって丙の引渡しを受けた場合、Bは丙の所有権を取得する。
4.売主Aは、買主Bとの間で、丁建物を代金1000万円で売る旨の契約を締結した。この契約が締結された当時、丁についてはAへの所有権移転登記がされており、BはAが丁の所有者だと信じていたが、この登記は、Aが所有者Cに無断でしたものだった。Cがこの登記がされていることを知りながら黙示に承認していた場合、Bは丁の所有権を取得する。

正解:3

〔講評〕

 問題は売主の所有に属さない物の売買(他人物売買)に関連して、その有効性(民法561条)のほか、所有権移転時期、動産が目的物の場合の即時取得の成否、不動産が目的物の場合の94条2項類推適用について問うものです。有効性以外の点については、いずれも判例が根拠となっています。 このうち、正解として選択するべき選択肢3(「Bは丙の所有権を取得する」という点が「誤り」)は、「占有改定によっては即時取得を認めない」という判例(最判昭35・2・11民集14・2・168)を根拠にするものです。この判例については、問題集の問題41で説明しています。 制度横断的な問題は、どうしても正答率が下がりがちですが、1つ1つの知識を確実に身につけていれば解くことのできる問題です。問題集の解説で紹介されている判例法理にもきちんと目を通し、その意味を理解するように努めてください。


法学検定試験TOPへ戻る

PAGE TOP