2004年実施 法学検定試験 2級「講評」

 2004年の法学検定試験2級は5月16日(日)に実施しましたが、受験者からのご要望により「講評」を掲載することといたしました。
 未掲載の科目に関しても順次掲載いたします。
 試験問題の解説につきましては『2005年法学検定試験2級・法学既修者試験過去問集』(2004年11月刊行予定)に収録いたしますのでご参照下さい。

■法学基礎論

 法学基礎論は22問中5問を選択して解答する方式であり、5点満点で、平均点3.081点であった。これは61.6%の正答率であり、2003年が54%、2002年が79%、2001年が53%であったことを考えると、平均的な難易度であったということになる。ちなみに、受験者1924中、5点満点であったのは238名、12.4%であり、以下、4点26.8%、3点29.9%、2点20.4%、1点8.4%、0点2.1%と、正規分布となっている。
 各問の選択者数を見ると、選択者が多い順に、問題3(法哲学)、10(西欧法制史)、21(司法制度論)、1(法哲学)であり、逆に選択者が少なかったのは、少ない順に、問題16(ドイツ法)、11(西洋法制史)、19(中国法)、18(中国法)、12(東洋法制史)であった。そして、正答率を見ると、正答率の高い順に、問題10(西洋法制史)96.6%、9(日本法制史)87.2%、3(法哲学)81.7%、5(法社会学)72.4%、18(フランス法)69.4%であり、これら以外は60%を切っている。逆に、正答率が低い順には、問題19(中国法)4.5%、17(フランス法)14.0%、11(西洋法制史)15.8%、8(日本法制史)18.4%、16(ドイツ法)23.5%であった。
 受験者が容易だと評価し、多くが選択した問題のうち、問題3と10は確かに正答率も高かったが、問題21は43.1%の正答率に止まっている。選択者が一定数以上の問題のうち、正解よりも別の選択肢の方が多く選択されているものは、問題6(法社会学)と問題21(司法制度論)であった。
 以前にも書いたところであるが、法学検定試験2級において法学基礎論が共通の必修科目とされているのは、法律家として、法の歴史及び外国法について素養を持つことは最先端のビジネス・ローに携わる場合にも重要なことであるとの認識に基づくものであり、少なくとも、これらの分野の中で5問程度は自信を持って解答ができるように、基礎法科目のテキストにも親しむよう心がけてもらいたい。

■民法

 2級民法は、「法学部を優秀な成績で卒業する程度の法的素養を身につけていること、言い替えれば、企業や官公庁で法律実務を行うための前提となる基礎的・体系的な法的知識と運用能力があることを証明することを目的としている」。そして、3級民法よりは、「応用度の高い問題を織り交ぜることにより、法律を『使いこなす』能力を試すことに重点を置」くものとされている。
 受験者は1924人で平均点は4.5点と、昨年より1.1ポイント上昇している。満点者の割合も0.8%と昨年度より倍増している。昨年は7問あった組み合わせ問題が6問に減少しているが、誤答率の上位2問(4、10)は、組み合わせ問題ではなく、組み合わせ問題でも過半数の者が正解を選んでいる問題が2問(2、7)あるので、出題形式はあまり関係がなさそうである。過半数の者が正解を選んだ問題が4問(2、3、7、9)もあること(昨年度は1問のみ)及び正答率3分の1以下の問題が3問(1、4、10)であること(昨年度は6問)から、昨年度より、問題の難易度が下がったということであろう。
 以下、正答率の低かったいくつかの問題を取り上げる。
 正答率の一番低かったのが、問題4であり、21.0%である。この問題は、5つの選択肢に回答がまんべんなく分散した点に特徴がある。この問題では、各選択肢は、ある論点について一定の考え方をとった場合に、どのような効果が認められ、あるいは認められないかを考えさせるという点に共通性がある。判例なり通説なりの結論を丸暗記していればよいという勉強方法では対応できない。法律学において重要なのは、一定の結論を導くための推論の能力、論証過程における説得の合理性である。考え方がわかれる理由やそれぞれの考え方の欠点、長所をきちんとわきまえたうえで、判例・通説を支持するというステップを踏まないと、法律を使いこなす能力が身につかない。選択肢1は物上代位の場合は払渡前の差押えが必要である点で、選択肢3は注文者原始取得説をとることと物上代位権肯定説が必然的に結びつくものではない点で、選択肢4は担保的構成をとった場合は担保権の実行として自動車の返還請求が認められる点で、選択肢5は公示の要請を重視する見解からは第三者対抗力が消滅するだけとされる点で、それぞれ誤りである。
 2番目に正答率が低かったのが、問題10であり、25.7%である。31.4%の者が選択肢2を選んでいる。損害賠償の請求が認められるか否かというのは、民法の様々なところに現われる基本的問題である。ただし、各根拠条文によって要件や効果に違いがあるので、混同しないように整理しておこう。選択肢2のようなケースは、契約締結交渉の破綻に対する一方の当事者の責任が問題となりうるが、判例は、契約交渉段階での信義則上の注意義務を前提としており、無過失(すなわち、注意義務に反していない)の場合にまで責任を認めるものではない。講学上、「契約締結上の過失」として議論される問題である。選択肢5は製造物責任法についての基礎知識を問うている。狭義の民法だけではなく、重要な特別法についてはきちんと勉強しておこう。さもないと、実際に役に立たない。
 問題1の正答率は29.2%であるが、誤りの選択肢2つの組み合わせであるアイを含む1を選んだ者が25.1%もいた。選択肢アについては、債務不存在確認の訴えに対して応訴することは、裁判上の請求に準じて扱われており(大連判昭和14年3月22日民集18巻238頁)、債権の消滅時効は完全に中断する。選択肢イについては、訴訟において留置権を主張することは、いわゆる「裁判上の催告」としての効力を有するにすぎないとされている(最大判昭和38年10月30日民集17巻9号1252頁)。
 問題6の正答率は37.0%であるが、誤りである4を選んだ者の方が40.1%と多かった。これは、選択肢ウと選択肢エのいずれが正しく、いずれが誤りであるかについて、正解と逆の判断をした者が正解者より多かったことを意味している。選択肢ウは、詐害行為取消訴訟においては、受益者のみが被告となり、債務者は被告とならないとするのが判例・通説であるので、明らかに誤りである。選択肢エは、物的担保の付いた債権については、物的担保によっても弁済を受けられない場合にだけ、詐害行為取消権を行使できるとするのが判例(大判昭和7年6月3日民集11巻1163頁)であるが、人的担保については優先弁済権を伴うものではないので、債務者の無資力の判断の際には考慮されない。したがって、選択肢エは正しい。
 問題5の正答率は37.2%であるが、34.7%の者が4を選んでいる。これは、選択肢エと選択肢オのいずれが正しく、いずれが誤りであるかについて、正解と逆の判断をした者が正解者とほぼ同数いたことを意味している。選択肢エについては、いろいろ議論があったが、最判平成13年3月13日民集55巻2号363頁は、物上代位権を行使して賃料債権を差押えた抵当権者を強く保護する判断を示した。選択肢オの前段は、最判昭和42年11月30日民集21巻9号2477頁、後段は最判昭和49年6月28日民集28巻5号666頁の通りである。

■商法

 商法の最高得点は10点、最低得点は0点、平均点3.64点であった。3点と4点の得点者が大きな山を構成している得点分布であった。
 分野別に得点状況を分析すると、得点が低い順で挙げると、商行為、総則、手形小切手ということになる。これは普段の勉強における勉強量に比例しているのではないかと考えられる。それに対して、会社法の分野では、改正についての設問に関する正解率が、会社法の従来の設問に比べて低いという特徴があった。これも習熟度を示していると思われる。このような正解率の状況が示すことからいえば、設問自体は良問であったといえる。なぜならば、受験者の勉強の実体を如実に反映しているからである。そこでいえることは、商法の得点をアップするためには、まず、会社法の最近の改正規定も勉強することが必要であるということであろう。新しい企業法務ということからいえば、実際に望まれる知識である。
 つぎには、基本的な知識として商法総則・商行為等の条文だけでもよく読むことが望まれる。たしかに、商法総則や商行為の規定は、言葉自体が日常的なものではないことから、馴染みにくい。しかし、私たちが日常生活で企業と取り引きすることは商行為である。また企業に働く人が、日常行っている取引は商行為である。そのようなことからいえば、商行為は非常に日常的な行為である。それについての基本的な法知識を持っていることは一市民としても、企業人としても必要であろう。  

■行政法

 行政法の平均点は5.326点で、独禁法に次いで全科目中第2位の点であった。昨年は第3位であったから再び行政法が易しくなったようにも見えるが、この点ならばとくに高すぎるということはない。昨年は正答率20%台の問題が3つあったが、今年は20%台にまで落ち込んだ問題は1つもないので、全体としてはまずまず妥当な出題であったと思う。
 そんな中で最も出来が悪かったのは問題8である。この問題は、行政事件訴訟法が抗告訴訟の1類型として不作為の違法確認訴訟を用意していることを想起すれば容易に正答できるはずである。正答率33.56%とは予想外に低いが、上位の成績を収めた者の多くが正答しているところを見ると、しっかり学習している者にとってはむしろサービス問題であったと考えられる。
 その他では、問題7が42.53%、問題9が48.97%と50%を下回った。問題7は情報公開法に関する知識を問う問題である。現在ではたいていの教科書に情報公開制度に関する説明が見られるようになっているのであるから、条文と照らし合わせながら教科書を丁寧に読んでおいてほしい。問題9は、抗告訴訟と不服申立ての関係についての理解を確かめる問題である。行政事件訴訟の学習をする際、不服申立て制度と関係する部分にとくに注意するよう普段から心掛けるとよい。
 あとはすべて正答率50%を超えた。そのうちで注目すべきなのは問題4で、成績上位者のほとんどが正答しているのに、全体の正答率は53.33%に止まっている。優秀な成績を残せる者が新地方自治法の要点をきちんと押さえているのに対し、よい成績を収める力のない者はまだ新地方自治法まで学習が進んでいないということであろう。ちなみに、行政裁量という伝統的な論点を取り上げた問6を見ると、正答率65.29%という立派な数字が出ており、また成績下位者でも相当数の者が正答している。問題10は公物法からの出題で、受験者の準備ができているかどうか危惧されたが、正答率62.99%という高い数字が出た。今後もこの程度の問題には容易に対処できるよう基本知識の修得に努めてほしいものである。

■刑事訴訟法

 2級においては、「大学における法学教育の高度な水準への到達度を証明する」ものとして、「企業等において法務業務を担当し得るだけの一定水準以上の体系的な法学の実力を習得していること」が要求されるので、刑事訴訟法についても、基本的な知識のほか法的な思考方法を十分に備えているか否かを判定するための出題をした。結果として、受験者1151名の平均点は2.682点にとどまり、一応の水準に達していると想定される6点以上の得点者は、累計で全体のわずか4.9%にとどまり、5点以上でも14.0%、4点以上でも27.1%と極めて不振なものとなった。刑事訴訟法の受験者は、司法関係の職務に従事することを念頭においている者が多いものと推測されるので、2級で出題される内容については、さらに十分な学習を積み重ねることが重要である。
 以下、正答率が不振だったものについて講評する。問題3は、捜査機関による検証についての基本的な知識を問うものであるが、正答率はわずか7.1%にとどまった。誤りを指摘させる設問であるが、捜査機関による検証について準抗告ができないとする選択肢を選んだ者が43.1%にものぼった。日常の学習で条文の確認がおろそかになっているように思われる。問題8は、自白の証拠能力・証明力に関する基本的な知識を問うものであるが、ここでも正答率は7.6%にとどまった。自白法則が自由心証主義の例外だとする記述、判例が補強証拠を犯人性についても要求しているとの記述について(これらは、いずれも誤りである)、両方とも正しいと指摘する者が37.6%、前者が正しいと指摘する者が33.2%もおり(これらの合計で既に7割が誤答である)、基本的な知識が欠如しているように思われる。問題7は、刑事訴訟法の定めるいくつかの権利や手続が憲法の要求するものであるか否かという観点から、憲法と刑事訴訟法の関係についての理解を問うものである。誤った選択肢を指摘させるものであるが、正答率は、わずか13.4%であった。公判廷の自白が唯一の不利益証拠であるときに有罪にできないことは憲法38条3項の要求でないとする記述を誤りとする者が39.0%、逮捕状の呈示は憲法33条の要求でないとする記述を誤りとする者が32.5%に達した。刑事訴訟法違反にとどまるのか、憲法違反にまでなるのか、それぞれの事項について確認しておく必要がある。問題4は、勾留中の被疑者の配偶者が有する権利に関する基本的な知識を問うものであるが、正答率は14.2%にとどまった。弁護人選任権のあること、検察官が接見禁止できることの両者を正しいとする誤答が59.6%にものぼった。接見禁止決定をするのは裁判官であるから(刑事訴訟法207条1項、81条)、後者はもちろん誤りである。問題2は、「逮捕・勾留中の被疑者は、逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実の取調べの際には出頭拒否の自由がない」という趣旨の見解をとったとして、その場合整合的に説明がつかない記述を選択させるという法的推論に関するものであるが、正答率は21.3%にとどまった。重大な別件の取調べを目的とする逮捕は違法だとする記述(逮捕事実についてはともかく、別事実についても出頭拒否の自由を与えない目的であれば違法であるというのだから、整合的に説明できる)、被告人の取調べは出頭拒否の自由を認めるのであれば適法であるという記述(起訴前についてはともかく、起訴後には、出頭拒否の自由を認めるべきだというのであるから、整合的に説明できる)を選択した者が、それぞれ32.0%、29.1%であった。いうまでもなく、各記述の当否そのものを選択する設問ではない。一定の見解をとる場合に、それと矛盾なく説明できる命題とそうでないものとを識別するのは、法的思考のうちでも重要なものの1つである。問題9は、伝聞例外についての基本的な知識を問う設問であるが、正答率は24.7%であった。被告人以外の者の公判期日における供述で、被告人の供述を内容とするものについては、刑事訴訟法321条1項1号が準用される旨の選択肢を正しいとした者が29.3%もいた(正しくは、322条が準用されるのである)。
 これら以外の設問についての正答率は、それぞれ次のような状況であった。問題6が37.4%、問題1が37.9%、問題10が38.7%、問題5が66.0%である。総じて、刑事訴訟法の条文の構造や基本的な判例の理解について、極めて不十分な結果となっている。「論点」と称されるいくつかの対立的な議論についての学説を覚えこむ以前に、刑事訴訟法そのものを確認し、理論を構築するための道具立てや法的推論の当否について、地道に学習することが必要であると思われる。

■労働法

 2004年度の2級試験労働法の受験者総数は350名であった。昨年に比べて半減したが、今回は全体の受験者数がかなり減ったことや、法科大学院の必修科目である行政法の受験者435名であったこと、非必修科目の中では最も多かったことを考えあわせると、相変わらず相対的な受験者数は多く、労働法という科目の意義が反映されていると言えよう。法科大学院の開設とその進展の中で、今後とも同様の傾向が続いていくものと思われる。
 試験結果を概観すると、今回もこれまでと同様満点取得者はおらず、平均点は4.966点で、前回より0.7ポイントほど上昇した。ここ数年、平均点の上昇傾向が目立つことは喜ばしいと言える。しかし、正答率を見ると、今年もかなりの格差があり、問題1が77.43%にも達しているのに対し、問題7は15.71%に過ぎない点が注目される。
 ただ、これも例年の傾向であるが、最も正答率の低かった問題7は、いわゆる組み合わせ問題であり、問題形式によって差が出るという、あまり好ましくない性向が見られるようである。他方、比較的正答率の低かった問題8(29.14%)や問題6(30.57%)は、受験生の勉強不足の面も否めないようである。年次有給休暇や就業規則は、労基法の主要な規制領域に属するものであり、基礎的な知識を再確認することが望まれる。
 いずれにせよ、毎年強調することではあるが、2級の場合には3級と異なり、一定の応用力を要請される。細かな条文や下級審判決の動向まで性格に把握する必要は毛頭ないが、労基法や労組法のみならず、均等法、労災保険法、職業安定法など重要法令の内容については最低限の理解が必要である。また、少なくとも最高裁判決の動向には、一応の注意を払っておくことが不可欠であることも指摘しておきたい。

■独占禁止法

 独占禁止法の受験者数は134名である。成績は、平均点が6.925点で、7点の解答者と8点の解答者の各33名を頂点とする綺麗な分布をなしている。
 問題8は、正答率が最も低く、また、正解の選択肢(=1)よりも解答率の高い選択肢(=3)のあった唯一の問題でもあった。日米独禁協定は、現行法を変更するものではなく、現行法で可能な範囲での協力の強化を約束するものである。そうであるとすると、選択肢2と選択肢3の正誤が分かれると、論理的に矛盾することになる。そのことがわかっていれば、公示送達制度の導入の趣旨の一面が外国事業者への送達の容易化にあることを知らなかったとしても、正解し得たのではないか。
 他に、満遍なく解答がばらついたのが問題5である。これは単に、証明責任(立証責任、挙証責任)という言葉の意味が意外に知られていない、というだけの話ではないかと思われる。ばらつきはしたが正解選択肢での解答者が最も多かった。
 他に、誤りにもかかわらず解答率が比較的高かった選択肢として、問題2の「1」、問題4の「3」、問題10の「3」がある。それぞれの解説を参照していただきたい。

■租税法

 今年の租税法は、平均点数3.8点余であった。総得点は、1点から7点の間に分散し、0点と、8点以上はいなかった。設問ごとの正答率は、問題1と問題9が、約55%、問題2と問題7が10%代、問題3,問題5,問題6,問題8、問題10が35%、そして、問題4が65%であった。
 意外であったのは、問題2である。選択肢の3や4を正解とした者が多かった。特に、選択肢の3を選んでしまった人が多かった理由が、不明である。また、問題7の正答率が低かったのもやや意外であった。どれも基本的な問題なので、すべての問題について、もう一度見直して、よく理解していただきたい。
 今後も、基本的な理論や取扱について十分に理解しているかどうかという視点から問題作成にあたりたい。毎年の繰り返しになるが、課税はあらゆる経済取引に対して関連してくるものであり、実社会においては、いかなる職業につくにせよ、租税法について一定の知識を有していなければならないという点を実感していただきたい。

■国際取引法

 今回は、問題4の口頭証拠の原則に関する問題を除いて、とくに極端に正答率の低い問題はなかった。口頭証拠原則(parol evidence rule)はコモン・ローにおける基本原則であり、コモン・ローが準拠法となる契約の作成に関しては、常に考慮しなければならない大原則であるが、正答率が極端に低かった。国際契約では、コモン・ロー国法が準拠法となる機会が高いので、コモン・ローの契約法に関する基本的ルールの学習は欠かせない。とくに、口頭証拠原則は、コモン・ローが適用される可能性のある契約書を用意する際につねに頭に入れておかなければならない原則である。
 インコタームズの解釈に関する問題4も、期待に反して正答率が低かった問題である。国際取引の基本である貿易売買条件の中のCIF条件とFOB条件の内容は基本中の基本であるので、しっかり勉強して欲しい。インコタームズに規定された貿易条件の全てについて詳細にわたって内容を理解する必要はないが、少なくともCIF、FOB、EXW、CFR(C&F)、FCA条件など日本の貿易で頻繁に利用される貿易条件の内容は十分に理解しておく必要がある。
 問題8は、契約の成立に関する問題であるが、国際契約では契約の成立を巡って争いが起こることが珍しくない。日本法では、契約の成立は比較的緩やかに認める傾向があるが、コモン・ローでは書面を要求する場合が多い(statute of fraud)。契約当事者間で取り交わされた注文書・注文請書・インボイス等に印刷された裏面約款が異なり、そのためにどのような内容の契約が成立したのかが問題となる書式合戦の問題も、外国では判例もあり立法手当がなされている国や条約があり、一応問題の所在を理解しておく必要がある。また、レターオブインテントは、国際契約では頻繁に取り交わされる書面であり、その法的性質についての理解も重要である。
 今回は、国際私法・国際民事手続法の分野の出題は国際私法の性質、国際私法における公序則および法例適用のいくつかの事例についての問題であったが、正答率はいずれも5割超であり、狭義の国際取引法の分野に比し、安定した出来となっている。特に問題はない。

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