日弁連法務研究財団 サイトマップ サイトマップ 個人情報保護法 お問い合わせ
日弁連法務研究財団について 研究 研修 情報提供 法学検定/既修者試験 法科大学院全国統一適性試験 法科大学院認証評価事業
情報提供

 
新米教師 生徒になる
法務研究財団、法科大学院の教員教え方シンポジウム
名古屋弁護士会法科大学院検討委員会副委員長 藤田哲 鈴木一郎


 1.ソクラテスに教えを乞う

 法科大学院では、教授が学生に一方的に知識を伝授することだけでは不十分だ。このような他動的な教授と受動的な学習では、知識を一定量増やすことができても、紛争を解決する知恵や考える力を養うことができない。  とはいっても、実際にどのようにしたら学生に主体的に考えてもらうことができるのだろうか。  アメリカのロースクールの授業では、伝統的にケースメソッドとかソクラテスメソッドとかプロプレムメソッドという方法が取り入れられ、効果を上げているという。2400年以上も前にソクラテスが弟子たちと議論したやり方が、法曹を養成するために本当に参考になるのだろうか。新米教師にとって、関心は深まるばかりである。  平成16年3月2日に東京で開かれた日弁連法務研究財団「ロースクールの教員の教え方シンポジウム〜日本型ロースクールに適した教育方法を教える〜」は、アメリカのロースクールで長年教鞭を取ったベテラン教授を招へいし、実際の授業をしてもらうという企画である。勿論、生徒は我々新米教師である。アメリカの本場のケースメソッドやソクラテスメソッドを初めて体験できるのである。

 2.判例を読む─ケース・メソッドの授業を受ける─

 アリソン・G・アンダーソン教授は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校ロースクールの有名な教授である。法律事務所で弁護士として働いた後、約30年間、ロースクールで学生を教えている。
 アンダーソン教授の授業は、ケース・メソッド、即ち、判例(ケース)を使った授業であった。授業で使われた判例は、ニューヨーク州最高裁判所のアダムス対ブロック事件の判決である。事案は、少年が鉄製のワイヤーを振りながら橋を渡っていたところ、橋の真下を通っていた鉄道会社のトロリー線にワイヤーが接触し、少年が火傷を負ったというものである。一審の事実審(陪審)と上級審では少年側が勝訴したが、ニューヨーク州最高裁はこれを破棄し、少年側を敗訴させた。
 授業では、いきなり判決が配られ、5分間の時間が与えられた。判決を読んで、鉄道会社側に有利な事実と少年側に有利な事実を列記することを命じられる。不法行為の問題で我々日本の弁護士にもとっつきやすい問題だ。それにしても、たった5分間。頭をフル回転させる。
 教授は次々に我々学生をあてる。どうしてその事実が鉄道会社に有利なのですか。その点につき判決はどのように評価しましたか。その判決の考え方に対してあなたはどう思いますか。矢継ぎ早の質問にノートを取る余裕などない。最後には、少年側の弁護士として、最高裁判決に対する反対の弁論までさせられた。実際に口頭でポイントを整理し、少年側が勝訴すべきことを主張するのだ。
 あっという間の50分間だった。自分の頭で考えざるをえない、自分の言葉で表現せざるをえない授業であった。事実は何か、重要な事実は何か、その事実の持つ意味は何か、その事実を法的に構成するとどうなるのか。判決に現われた事実を分析し、重要な事実を抽出し、依頼者のために法律構成する。我々弁護士が紛争解決のためにやっていることを、判例を題材に実際に学生にやってみさせる。これが、ケースメソッドの授業であった。学生はひと時も休む暇がない。学生には大変だけれども、多くのことが頭に残った。ロースクールで長年多用されているのも納得がいった。

 3.教授の質問に立ち往生する
 ─ソクラテス・メソッドの授業を受ける─

 スティーブン・フリードランド教授は、ノヴァサウスイースタン大学の名物教授である。フリードランド教授からは、実に示唆に富む数々の助言をもらった。 まず、声が大きい。迫力のある大きな声だ。ついつい我々も引き込まれてしまう。それに明るい。教授の授業は、「楽しく学ぶ」ことが目標だ。時折、へたな日本語や冗談をまじえ、学生をリラックスさせる。また、いつも教室の隅々まで目を配っている。学生を油断させない。「はい、君。」突然、一番後ろの席まで歩いて行って、学生を指名する。
 フリードランド教授の授業は刑法。正当防衛が問題になる事案だ。この授業でも、メリーランド州控訴審の判決が使われる。被告人の家に無理矢理入り金品を強奪しようとした青年に対し、ショットガンで顔面を打って死亡させ、殺人罪に問われた42才の男性の事案である。
 教授は、我々学生にその場で判決を読ませ、検察官にとって有利な事実、弁護士にとって有利な事実を5つずつ書けという。それからがソクラテスメソッドの始まりである。
 教授は次々に学生をあてる。不法侵入しようとした事実は何故検察官に有利なのか。不法侵入ではなく、庭の真ん中で金品を強奪しようとした場合はどうか。被告人が発砲した場所が問題か等。教授は「なぜ」という質問を次々に我々に浴びせかける。いきなり理由を問われてもそう簡単には言葉が出ない。適当に答えると、またその答えた理由を問われる。教授は、正解を教えたり、解説など一切しない。次々に問うだけである。
 最後には、被告人のための最終弁論や検察官の最終弁論まで即興でさせられる。実際に立って、隣の席の人相手に、口頭で弁論をする。「弁護士は作家と同じだ、聞いていてなるほどと思うような表現をしなければならない。」。実に刺激的だ。
 教授は答えを言わず、学生との議論を整理し、学生に考えるヒントを与えるだけだ。教授の質問に答えていくうちに、判決の事実関係が整理され、正当防衛の要件がまとめられていく。まさに、考える授業。学生が考えていく中で正解にたどりつくというわけだ。なるほど、これならそう簡単に忘れるはずはない。ソクラテス・メソッドの授業の効用をまさに実感した。
(この記事は、名古屋弁護士会「会報」2004 年3月号に掲載されました。


  JLF NEWSの目次へ →

(2004.7.1発行)


ページトップへ戻る
当財団の概要研究研修情報提供法学検定/既修者試験法科大学院全国統一適性試験法科大学院認証評価事業
Copyright
公益財団法人日弁連法務研究財団  〒100-0013 東京都千代田区霞が関1-1-3 E-MAIL:info@jlf.or.jp